何故いまTシャツ? 伊藤ガビンが考えるメディアの未来とは
#インタビュー #メディア
WWWのハイパーテキストが誕生して、早20年。誰もが片手に通信機器を持ち、誰かしらとつながっている。あらゆるメディアが電子化される時代。書籍や雑誌は薄くて小さな端末の中に押し込まれ、フリック&タップで見るのが常識になるのも、もはや時間の問題なのかもしれない。そんな中、メディアの業界でゆるりゆるりと独自のポジションを築き上げている人物がいる。編集者・アーティストの伊藤ガビン氏だ。
先日、伊藤は、編集者の古屋蔵人との共同企画でオンデマンドのTシャツショップ「TEE PARTY」を立ち上げ注目を集めている。編集者の古屋は、雑誌などへの執筆と並行してBEAMS TやTOKYO CULTUART BEAMSのディレクターを務める人物。TEE PARTYのページでは、クリエイターごとに「レーベル」と呼ばれるお店の看板を出し、レーベルごとに好きな数だけ自分たちのデザインしたTシャツをページ(売場)に並べることができる。アクセスしたユーザは、あまたあるTシャツの中から選んでもいいし、レーベルに直接アクセスしてクリエイターの作品を買うこともできる。値段は一律で3500円。現在、レーベル数は100あまり、参加アーティストはゆうに100人を超え、Tシャツの種類は星の数(は言い過ぎかも)の巨大Tシャツサイトになり現在も日々成長中だ。ちなみにクリエイターのセレクトは、基本的に伊藤と古屋が行う。
今回は、伊藤ガビン氏に、TEE PARTYのリリースに合わせて、何故お店を始めたのか、現在のウェブの状況をどう考えているかなどをうかがった。
──まずは、TEE PARTY設立の経緯から教えてください。
伊藤ガビン(以下、伊藤) よくある話なんですが、Tシャツサイトのリニューアルの話があって、それで話を進めていたら、こうなっちゃったっていう(笑)。依頼されてやる仕事の場合は、まず最初に先方からの要望ってのがあるでしょ。それに対してどうやって答えるか問題解決の方法を考えていくと、大抵頼まれることと違う答えが返ってきちゃう。「BCCKS」もそうだし、TEE PARTYも同じ感じですね。
詳しく話すと、まずはTシャツの通販サイト「黒松」っていうのがあって。そのサイトは、Tシャツの説明文がやたらと長いっていうのを特長にしていたんですよ。それが何なのかというと「雑誌」なんですよね。雑誌を作る時って、課金とか広告のモデルとか考えなくちゃいけないでしょう。僕はそういうのは極力考えたくない(笑)。でも、僕はお店屋さんの子どもなので、通販の仕組みは分かりやすかったんです。そのタイミングで「daily vitamins」の話がきて。そっちにウェブでやりたいコンテンツを入れちゃったんですよね(笑)。今度はひょんなことで、今みたいな仕組みのTシャツ屋の話がきたという。きたというか、結局自分でやることになっちゃったんだけど。
──デザイナーにプラットフォームを提供する新しい試みですが、今サイトを見るかぎり、すべてのクリエイターが同列で語られているようです。一定期間で、クリエイターをシャッフルしたり、リコメンドを表示したりはしないんですか?
伊藤 例えば、音楽が電子的に配信されるようになった時に、廃盤がなくなりますよって言われた。電子書籍もそうですよね。そういう意味でいうと、絶版がない、売り続けるのは技術的には可能。まだやり始めて1カ月も経っていない状態なので、とりあえず数を増やしているけど、今後のことはいろいろ考えている。お客さんだって、トップページから入って、そんなに深くは掘ってくれないじゃないですか。各レーベルが一つのお店として認識されるようになって欲しい。ゆくゆくは僕もいなくなって、TEE PARTYというブランドもなくなって、各店が出てくるようになればいいなと思う。
──いまトップページは縦に流れる感じになっていますね。一覧が欲しいな、と最初見たとき思ってしまいました(笑)。
伊藤 そうなんす。まあ思惑としては、スクロールしながら下まで見て欲しいから、ああいうデザインにしていて。それは自分のウェブへの接し方にも通じてるんですが、今はウェブってtwitterとtumblrとそこからのリンク先しか見てないんですよ。そこしかリアルじゃない。tumblrに貼ってあるのがたまたま全部Tシャツ、というようなイメージなんです。コメント欄がないのも同様で、いいじゃんtwitterでつぶやけばっていう。でも、走り出してみると一覧で見たいという人もいっぱいいるので、やっぱり作るかなあとも(笑)。
──コメント欄を見るというよりは、ざっくりしたカテゴリと見出しが欲しい気がします。そうするとそこに編集的な視点が必要になるような。
伊藤 本当はAPIを公開して、それをユーザーが勝手に編集していけるようにしていきたい。でも、BCCKSとかのいろいろな経験からすると、CGM(Consumer Graduated Media)の力を信じたいと思いつつも、コンテンツっていうのはやっぱり8、9割方僕たちがかかわっているものだったりするわけです。一応僕は編集者と名乗っているから、編集的な部分をやりたいしそういう編集のあるサイトが好きなんですよね。それでいうと、TEE PARTYが誰でも参加できるかというと、いまのところは参加できない。将来的にどうするかは分からないけど、CGMにした時のコストや労力と自分たちのやりたいことを天秤にかけた時に、やっぱり自分たちが好きなネタを編集して出した方がいいんじゃないかなと思ってます。
──では、これからTEE PARTYで編集コンテンツが追加される日も遠くない?
伊藤:予定しています。(ウェブ上には)書いてはいないけど(笑)。とにかく説明したいんですよ、Tシャツを1枚1枚。だってCD屋に言ってもPOPを読んでるので(笑)。ジャケ買いなんかじゃないですよ。POPを書きたいんだけど、原稿が遅筆ゆえ……という人間性なので。
──ガビンさんの目線で書くということですよね?
伊藤 インタビュー形式になるかな。で、もうひとつ、これも近日中に始まるんだけど、daily vitaminsでTシャツ1点1点を勝手な視点で解説する企画をやろうと思っていて。例えば「タナカカツキのサ道」っていうサウナの連載があるんだけど、それは最後まで読むと最後のひとコマがTシャツになってるんです。最近ですけど、寺田克也が描いた焼き鳥のリアルなレバーの絵とかもTシャツになってる。全然売れないですけどね。(笑)
まとめると、ひとつは雑誌の中でいうと雑誌の後ろの1色ページを読んで育ったので、そういう記事はどこへ行けば読めるのか、自前で書く場所を作ろうと。そのときに、広告には頼っていられない、だけどなんとかしなければという時にTEE PARTYのような仕組みになったんです。
──パッケージとして電子書籍的なものを売っていこうとか、そういう企画を考えていこうとかはありますか?
では、オリジナルの”スポーツ”を提案
する展示を行っている(~25日)。
伊藤 それはあります(笑)。daily vitaminsでの連載は連載エンジンとして考えているので。いまの媒体を見ていて、雑誌の連載みたいなものはどこにあるのかというと、真っ先に思い浮かぶのがブログですよね。でも、自分がそういう風に続けて本1冊分書けと言われても、書けないタイプなので……。ブログっていうのは、書きたい人の文章しかないでしょう。編集者が尻を叩いたり、締め切りがやってきて初めて書けるタイプの人っているじゃないですか。そういう、書けない人の方が好きなんでしょうね(笑)。
──サイトがオープンして1カ月経ちましたが、どうですか?
伊藤藤 予想したくらいな感じではあります。「自分の店」という感覚を持ってやっている人のサイトが売れてますね。面白い面白くないというのはあんまり関係ないかも。そこにも単なるアーティスト性というよりも、編集的というか。この時代のこのタイミングでの編集的センス、そういうのを持っている人が売れているような気がする。具体的に言うと、坂本渉太くんっていう、彼なんかはセンスありますよ。彼は狂ってるよね~(笑)。
んー、まだTEE PARTYの核心に触れてない感じはあるね。でも、久しぶりに編集っぽいことをしている気分ではある。基本的に僕が何をしてきたかっていうと、バランスをとってるだけなんですよ。何故、この時期にオンデマンドTシャツやってるのかというと、電子書籍とかCGMのことを考えてたらこんな形になっちゃったという。
課金の話でいうと、最初のTシャツサイトをやっていた頃カツキさんと話をしていていて、ちょうどmixi全盛だった時に、1日中mixiやってるのに、なぜ人びとは300円の課金は払わないのかという。でも、そういうヤツが3500円払ってTシャツを買うんだろうねって。着れるだけだぞって(笑)。絵に関してはトンチで解決。で、僕は本に愛着とか感じるタイプじゃないので、ボディの質感とか素材はそんなにこだわらない。でも、みんな毎年Tシャツ買うよなとか、そういうところで商売している感じ(笑)。
でもなんか、まあ、雑誌の記事を作ってるっていう気分ではありますけどね。すべて暇つぶしですからね。……こじつけたような気がする。(笑)
(取材・文=上條桂子)
●いとう・がびん
1963年生まれ。パソコンホビー誌「ログイン」(アスキー)の編集を経て、90年にボストーク株式会社設立。書籍の編集・執筆のほか、ゲーム開発、美術展のプロデュースなど、コンテンツ開発全般を手掛ける。07年にWEB上で本が作れるサイト「BCCKS」の立ち上げに参加。08年に井須多恵子とデザインユニット「NNNNY」を結成。現在、女子美術大学短期大学部造形学科デザインコース教授、東京芸術大学先端芸術学部非常勤講師も務める。現在、東京・千代田区の3331 Arts Chiyodaにて、「グランドオープン記念展」に参加中。
まだユニクロ着てるの?
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