稲川淳二さんの至言「自分の子どもを殺そうか、と思った自分が一番怖かった」(後編)
#インタビュー #対談 #サブカルチャー #小明 #大人よ教えて!
稲川 私、ふっと思ったのよ。私はあれこれ物を集めるのが好きなんだけれども、考えたらもう使う時間がないじゃない? あと何回ご飯を食べるのかなって思ったの。私そんなに沢山ご飯食べないからさ、酒は飲むけど。だから、最近、そういった意味での恐怖はなくなったな。あちらと仲良くなったっていうのではなく、認めているからでしょうね。
──霊と共存!? でも、そんなに霊的なものと日常的に接していたら、向こうに連れて行かれてしまうかも! という恐怖はなかったんですか?
稲川 それはないけれども、その瞬間の恐怖で逝っちゃうかもしれないね。私、実際に見ているから、若い頃に切れちゃった人。怖いよ、これはもう。その女性は未だに病院から出てきていないし。治らないんだもの。
──うわぁ、体だけ残して頭が向こうに!? それも怖いですねぇ。それが一番怖いパターンかもしれませんね……。
稲川 私もそうとう怖い目に遭って、私生活でも何でもしょっちゃってるからねぇ。それがあるんだろうな、きっと。居直ってるわけじゃないけど、1番怖いものがあって、それだけは辛いものがありますよ。自分の中で。
──稲川さんの1番怖いものですか?
稲川 自分の身内関係だけれども、私は「自分の子どもを殺そうか」と思った時の自分が、一番怖かったもの。
──稲川さんは息子さんに障害があって、バリアフリーの講演も行ってらっしゃるんですよね。人間が精神的に追い詰められた時の頭の中って、霊的な怖さとは比較出来ないものですよね。
稲川 そう。うちの親父は長野の田舎の生まれで、真っ暗な山の中で暮らしてたんだけど、たまたま親父一人しかいないときに自分の母親、私のおばあちゃんの具合が悪くなって、「病院に行かなくちゃ!」って時は、普段は怖いお墓もぜんぜん怖くなかったって言ってたもの。「お母さんが死んじゃう!」と思って走っていくから、そんなもの怖くないって。人間そんなもんなんですよ。怖いものを怖いと思ううちは、まだゆとりがあるんですよ。怖いと思うことが教育だったりするわけだ。
──なるほど、怖さを教えることも教育の一部だから、怪談がこんなに根付いてるのかな。
稲川 普段は言わないけど、怪談話の根底にあるものは日本の文化で、そこから教えられることも沢山あるわけだ。例えば、夕方になって子どもたちを帰す時に、「カラスが鳴くから帰ろう」って、あるでしょ。それで、「帰らなかったら河童の子どもに水に引きずり込まれちゃうよ」って話があるんですよ。どこかに行くと爺さんが話してくれたもんだ。で、「俺は子どものときカラスが鳴いても帰らなかったら、河童の子どもと遊んだ」って言う爺さんがいるんですよ。要するに、カラスが鳴いて帰っても、まだ日は出ていて遊べるわけだ。「カラスが鳴くから帰ろう」って言って子どもが帰った後、障害のある子が遊ぶんですよ。影になって、あんまり人から見られないからね。障害がある子どもに時間をあげてるんです。優しさですよ。日本の話の根底ってそういう優しいものが沢山あって、怪談も成り立つんです。
──あの歌にそんな意味があったなんて……! そうですよね、怖いだけじゃなくて、どこかに温かみがあるのが怪談っていうイメージです。
稲川 そう、怪談には温かみがあるからね。日本が持っている『ホラー』ではない『恐怖』っていうのは、見ようによっては幸せなこと、優しいことが、ちょっと角度を変えるだけで急に怖くなったりするわけですよ。だって、ただ怖いだけだったら、現実の方がもっと怖いって言う人もいるね。そりゃ現実は怖いよ。でも、一緒にしちゃいけないんだよ。怪談は怖いだけではつまらない。怖楽しい、怖面白いから人気があるんだ。ところが、現実の事件は楽しめないじゃないですか。
──びっくりする猟奇殺人とかありますもんね……。
稲川 ただ怖いだけじゃ、恐怖とは言わないんですよ。私は、昔、事件があった場所の写真とかを警察に見せてもらったりしてたわけ。あ、もちろん今はダメですよ? それで、よく身体がバラバラになっている奴とかあるけれど、アレ、みんな写真は見たことないじゃない? すごいんだから、新聞は抑えているけどね。首切ったのが写ってる写真と……本当は言えないんだけれど、切り刻んであったり、女性の下腹部をズタズタに切ってあったり、えぐってあったりして。目をえぐっているのもあったしね。
──うわぁ……。
稲川 現実の事件は怪談と違って救いようがないの。例えば怪談話を聞いた後、幽霊を見たとするじゃない? 「わああああああああ!」ってなっても、15分くらい経って「寿司くいに行く?」って聞くと結構ついてくる。酒飲んで、「さっき怖かったねぇ!」なんて言って。
──幽霊を肴に酒盛りできる!
稲川 ね。でもさ、その事件の写真とか見ちゃうとさ、寿司とか行ったって……。
──無理無理無理!
稲川 イタ飯とかでも、「今ケチャップ無理だよ……」とか思わない?
──無理です! ケチャップ無理です!
稲川 そういうことなのよ、だから私が違うんだって言うところは、そこなのよ。
──稲川さんの新しいDVD『稲川淳二のねむれない怪談 オールスターズ』でも、小説家の岩井志麻子さんの「私の友達は人殺しかもしれない」っていうお話はそっち寄りでしたよね。霊じゃなくて、人間の怖さ。
稲川 岩井さんが言っている現実の怖さは、もっと人間のどろどろしたところだよね。人間の執念っておかしいんですよ。大体そういうことやる奴は普通じゃないんだもの。人間って絶対に自分をセーブするから。昔、催眠術っていうのを少し覚えて、小さい子どもにかけたらかかったの。「これイケるかなぁ?」と思って、大きな声じゃ言えないんだけど、知り合いを呼んで催眠術かけて「金あげるから女房殺してくれ」ってかけたのよ。
──えええええ!!
稲川 うん、殺せなかったわ、やっぱり。
──当たり前です! 恐ろしいことサラッと言いましたね。
稲川 死ななかったねぇ、見に帰ってやろうと思ってたのにねぇ。
──別居、長いですからね……。えっと、稲川さんが怪談を話すミステリーツアーも、もうすぐ始まりますね! もう何年目ですか?
稲川 全国ツアーは今年で18年。その前にもぽつんぽつんとやってはいたんですよ。それでやったお寺には凄い人が来てくれてね。で、自分の親父の葬式のとき、もう20年くらい前なんだけれど、葬儀屋さんが来たらその時のこと覚えているんだよね。「稲川さん? ダメ! あの人、たくさん人が来すぎて騒ぎになるから!」って。違うだろ! それは怪談の際だろ! って(笑)。
──あはは!
稲川 ツアーでも何でもそうなんだけど、一番根本の大事なものっていうのは、大勢の方が待っててくれていて今年18年目になるけれども、いっつも来てくれる人がいて、お子さんが大きくなったりしているんだもの。それって今の殺伐としている時代に、優しいな、と思うんですよ。怪談は面白いですよ。こうやって皆で集まる形ってないじゃないですか。コレが楽しいからやってるんですよ。怪談を人に無理強いもしたくないし、居るとか居ないって話も嫌だし、「あんたこれ聞きなさいよ」っていうのも嫌だし、好きな人が楽しめば、それでいいと思うんですよ。うん、それがずーっといってくれて、今、私が話す話なんかを、誰かが覚えてくれていたりすれば、また、私が逝っちゃった後、誰かが話してくれたらうれしいなぁと思いますよ。
──よーし、私もしゃべり下手を直して次世代に怪談を口承すべく、早速ものまねに励みます! ありがとうございました! 怖いな怖いな~!
(取材・文=小明)
●稲川淳二(いながわ・じゅんじ)
1947年、東京都生まれ。工業デザイナーを経て、76年に芸能界デビュー。特異なキャラクターと卓越した話術で、舞台、テレビなどで活躍中。7月7日にDVD『稲川淳二のねむれない怪談オールスターズ1&2』(キングレコード)が発売。
●小明(あかり)
1985年、栃木県生まれ。02年、史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。初著『アイドル墜落日記』(洋泉社)、DVD『小明の感じる仏像』(エースデュース)発売中。
ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/>
サイゾーテレビ<http://ch.nicovideo.jp/channel/ch3120>にて生トーク番組『小明の副作用』(隔週木曜)出演中
夏といえば、海かナンパか淳二です。
もしくは、花火かスイカか淳二です。
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