稲川淳二さんの至言「自分の子どもを殺そうか、と思った自分が一番怖かった」(前編)
#インタビュー #対談 #サブカルチャー #小明 #大人よ教えて!
モテない、金ない、華もない……負け組アイドル小明が、各界の大人なゲストに、ぶしつけなお悩みを聞いていただく好評連載。第14回のゲストは、7月7日に発売されたDVD『稲川淳二のねむれない怪談オールスターズ』にご出演の稲川淳二さんです!
[今回のお悩み]
「うまくしゃべれません……」
──初めまして! 『稲川淳二のねむれない怪談 オールスターズ』、面白かったです! さっそく相談なんですけど、私は稲川さんと違ってしゃべるのが不得意で……。
稲川淳二(以下、稲川) あ~大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫、お話しできてますよ。大丈夫です。
──えっ……まだ会って2分も経ってないですよ!
稲川 何をおっしゃってるんですか、うまいじゃないですか。ちゃんとあなたが言っていることが分かるし……(にこやかに)。
──本当ですか? っていうか、それ、ハードル低すぎますよ! 私、しゃべっている途中で相手の人が「あっ、飽きてきてる」とか「マズイ、退屈している」とか「今のがオチだったんだけど流された……」とか、そう感じることがすごく多くって。怪談マエストロの稲川さんに、聞き手に飽きさせずに面白く話し切るコツを教えていただきたくて……。
稲川 大丈夫ですよ、ちゃんとしゃべれてますから。結構プロなんだよ、それ。『オチ』を意識するって言うのは素人さんはできないから、偉いですよ。私も、たまーに文化的な番組に呼んでもらって、出演者の人が怪談の話をしたりするでしょ。そこで困っちゃうのが、「そんなの誰でも知ってる話じゃない?」って話。分かるでしょ? 例えば病院の前でタクシーが通る、そこには女が立っていて……って、よくある話じゃないですか。オチも分かれば、振り方まで分かっちゃう。それが出ちゃうと、「弱ったな~」と思うわけですよ。そんなので「うまいですね~」とか言おうものなら、「稲川はそんなもんで感動してんのか」ですよ。辛いものがあるじゃない……。だから「どんな顔で受けようかな~」と思うんですよ。考えたふりして黙っちゃうけどね(笑)。
──なるほど、自分は面白い話をしているつもりでも聞き手にプレッシャーを与えている恐れもありますね……! 既出ネタには気をつけなければ! あと、あの、申し訳ないことに、私、小さい時からずっと稲川さん原作の漫画を読んだり、夏休みには姉と稲川さんのビデオを借りに行ったりしてたのに、稲川さんがデザイナーさんだと、大人になるまで全く知らなくて……。夏になると怖い話を持ってきてくれる、サンタクロース的な存在だと思ってたんです。
稲川 良いこと言ってくれますねぇ。妖怪って言われなくてよかったなぁ(笑)。
──あはは! そこでまた相談なんですけども、実家に霊が出るんです。姉も私も金縛りや霊体験に遭って、良くベッドで足を掴まれたり振り回されたりしました。
稲川 いくつくらいの時?
──二人とも、小学生の時ですね。
稲川 大体そういう人ってさ、芸術の才があるとか、頭が良いとかあるでしょ。
──あ、私は残念な感じですけど、姉は成績はいつも上位で絵描きになりました。
稲川 ああ、やっぱりね。不思議なんだけど、子どもの時に「踏んだ」とか「飛んだ」とか「足引っ張られた」とか言う人は、大概、芸術家が多いんだよね。音楽とか。
──そう考えると、子どもの頃の霊体験もなんだか縁起がいいや! でも、何故?
稲川 だってさ、違うんだ、世界が全然。じゃあ、あんたなんでそんなに絵が上手いの? なんでそんなに体操が出来るの? 曲作れるの? って言われたら困るでしょ。だって、出来るんだから。一緒なんですよ、霊が見えるのと。才能が近いの。
──なるほど! でも、それだけじゃなくって、ある日、金縛りから自分がスーっと浮いて、壁や屋根を抜けて、飛べるようになったんです。幽体離脱だと思うんですけど、違法な薬なんかに頼らなくても、こんなに楽しいことができるんだ! と感動して。でもある日、幽体離脱中に黒いクネクネした人に捕まって振り回されて「死ぬ!」と思って戻って以来、怖くて肉体から抜けづらいんです。どうすればまた出来るのかな、と……。
稲川 自分で出来るってすごいよ。不思議だねぇ。そういう世界に入ってしまうと、最後は自分の命を縮めてしまうものねぇ。
──えっ、死んじゃうんですか?
稲川 うん、そうなっちゃうよね(あっさりと)。あれ、波があるものね。大人になっちゃうと出来なくなる。続けていたら早死にするよ。人間の身体っていうのは、いつも100パーセント元気ではないんだよね。100パーセント元気っていうのは本当に危なくてね。人が亡くなる前に妙に勘が冴えたりするし、凄い人間の力が上がったりするでしょ? あれと同じですよ。冴えてきて、回転が上がってきたら、そういう人、危ないですよ。
──なんてこった、もう止めます! お祓いとかに行こうかな……。
稲川 きっと相当強い感性、感覚をもってるんだよ。でも、霊を見るって悪くないことだよ。昔、歌舞伎の世界で「幽霊を見ると出世する」っていう言葉があったの。これは「幽霊が見えるほどの感性がなかったら芸能人になれませんよ」って意味なんだろうね。
──なるほど、そう思うと霊を見るのも悪くないかも! でも、私、目を開けて、ものすごく怖いものがあったら嫌だから、金縛りにあったり気配を感じたりしても、絶対に目を開けたり、意識して見たりしないんですよ。トラウマになりそうだし……。
稲川 そこが日本人の頭の良いところ。アメリカ人に言わせたら、そんなことは絶対にないよ。向こうは襲ってくるのが怖いんだから。我々は「誰もいないはずの2階から、トントン降りてくる音がするなぁ……」って怖さじゃない。これがアメリカ人ならトントンと音がした時点で「誰?」って探すわけ。音がしたら「何で音がするんだろー?」になっちゃう。だから襲わなくちゃダメなんですよ。その辺が『ホラー』と『怪談』の違いかな。『怪談』は感性があるんですよ。
──チキンなんで、わざわざ襲われに確認しに行きたくないです……。今も実家に帰ると私の寝ていた部屋から足音がするんですよ。誰もいないのに。
稲川 大丈夫ですよ、心配ない。私のところもいつもそうだもの。スリッパの時もあるもの。ぺったんぺったんと。だからコレを知らない人間が来ていたら、そいつは「えっ」って止まるよ。2人しかいないのに音がするんだもの。誰か来たとか思うんだけれども誰もいないんだ。でも、ギッギッギッギ……とかカタン……って音がするよ。
──怖くないんですか?
稲川 不思議なものなんだけど、50代半ばまでは怖かった。怖いのが分からないと怖いものが書けないから、怖くなくちゃつまんない。でも、60代になってからは怖さがなくなったんだよね。もちろん怖いところにも行くけど、対処できる。
──けっこう最近まで怖かったんですね! それは、慣れみたいなものですか?
稲川 いや、それもあるでしょうけど……自分がだんだんと近づいているからじゃない? あちらの方にさ。
──ひー! やめて下さい!
(後編につづく/取材・文=小明)
●稲川淳二(いながわ・じゅんじ)
1947年、東京都生まれ。工業デザイナーを経て、76年に芸能界デビュー。特異なキャラクターと卓越した話術で、舞台、テレビなどで活躍中。7月7日にDVD『稲川淳二のねむれない怪談オールスターズ1&2』(キングレコード)が発売。
●小明(あかり)
1985年、栃木県生まれ。02年、史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。初著『アイドル墜落日記』(洋泉社)、DVD『小明の感じる仏像』(エースデュース)発売中。
ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/>
サイゾーテレビ<http://ch.nicovideo.jp/channel/ch3120>にて生トーク番組『小明の副作用』(隔週木曜)出演中
夏といえば、海かナンパか淳二です。
もしくは、花火かスイカか淳二です。
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