「音楽が一秒で降りて来る瞬間、それは幸福な体験」音楽家・菅野よう子の世界(後編)
#音楽 #映画 #インタビュー #小栗旬 #邦画 #シュアリー・サムデイ
──菅野さんはサントラや楽曲提供がメインで、オリジナル・アルバムは出されたことがない。アーティスト「菅野よう子」としての欲求はどこで発散しているのか。そもそもそういうものはないのでしょうか。
菅野 例えば、アーティストとしての欲求ってどういうものですか?
──アニメや映画のタイトルのつかない、「菅野よう子」という名前で作品を発表したり、菅野よう子とはこういう作曲家であるという自己主張ですね。
菅野 そういうの、全くないんです。あるとすれば、「ライブをやりたいな」くらいです。本当はスタジオにこもるよりも、皆の前で踊ったりしたいの! ってのはありますよ。でもサウンド的な、私の訴えたいこととかはないですね。最初からなかったです。自分がないんで(笑)。全くないですよ。どうでもいいんで、そういうの。
──よく、ファンや熱心なリスナーの間では「菅野節」があるとか言われるけど。
菅野 全然分かんない。あはははは(笑)。
──核になる音楽性、というものもない。
菅野 ないんですよね。あえて言えば、3、4歳くらいの時から何か見たら曲を書いたり歌ったりしてたってのはあるんですけど、そんなのアーティスト性も何もないですよ。子どもって、何でもかんでも歌にするじゃないですか。「おいしいな♪」みたいな。そういうのの延長なんですよ。CMソングもその延長です。
──子どもが節をつけて歌う感覚で、今も作曲している。
菅野 そうそう。ずーっとその感覚。
──菅野さんの音楽って、時代によっていろいろなサウンドを取り入れていて、ジャンルも表現方法もバラバラなのに、なぜか共通点がある気がしていたんです。で、今話を伺って、そのイノセントな節回し感覚っていうのが、「菅野節」なのかなって思いました。
菅野 そうかもしれないですね。ジャンルやアレンジは仕事内容とか、その時代に求められるもの、画面、オーダーに合わせて技術的に変えていけばよくて、「こういう気分のことを言いたい」っていうパッションの大元は子どもの感覚です。この映像に対してこういうことが感情的にこみ上げるぞというのは、小さいときから変わってない。しゃべるよりも曲で言うほうが楽だったんです、ちっちゃいときから。それは変わってないような気がしますね。
──じゃあ、好きな音楽とかもない。
菅野 ないですね。
──どんな音楽を聞いてこられたのか、すごく気になるんですが。
菅野 (音楽は)小さい時から自分で作ってたので……。ただ、学生時代にピアノを弾ける子が周りにあまりいなくて、「弾いて弾いて」って友達から頼まれることが多かった。それで、その時に流行っている曲を致し方なく(笑)、「耳コピーで」覚えてっていう経験をたくさんしました。その時に流行った音楽を人づてに自然に聞いてきたと思います。モンタージュ写真作りと似ているかもしれない。皆が歌っているのをコピーして、こんな感じ?と聞き取りながらアレンジして弾いてた。だからあとで原曲を聞くと「えっ、こんな曲だったの?」みたいなことが割と多い(笑)。
──流しのピアニストみたいな(笑)。
菅野 『宇宙戦艦ヤマト』を「弾いてくれ!」と何度もリクエストを受けて、弾くたびに皆が泣くわけですよ(笑)。「何でみんな泣いてんのかな?」と思いながら、でも、きっともっと泣きたいんだろうとそういうアレンジを施して弾いてあげる。そういうことをやってきた。
──自分としてはただしゃべっている感覚。
菅野 そうです。このお話を読んでくれって言われて読むと皆が泣く、みたいな感覚(笑)。だから自分としては、そこにオリジナリティか何かあるってことはなかった。(自分にとって)言葉と同じなんですよね、音楽の表現っていうのは。
──音楽が降りてくる瞬間ってどんな感覚ですか?
菅野 ん~っとね。すごい幸せで快感なんですよ。言葉にしちゃうと何か変なこと言ってる人みたいだけど、時空を超える経験。10分の長さの音楽でも実時間と別に降りてくる。リアルタイムに「ここがこうなって」と構成を考え出すわけじゃなくって「できた!」ってイメージが頭の中に広がる。ボコンって。普通はそれを曲とは言えないですよね。でもそれは私の中では10分の曲なんです。だから時間を超えてるんです。その瞬間、宇宙的というか……私、おかしい人ですか(笑)。その「できた!」って思う瞬間がすごい幸せですね。この感覚って説明できるものじゃないですけど。もちろん毎回そうだというわけではないけれど、そういうふうに出来た曲のことは全部幸せな経験として覚えています。
──『シュアリー・サムデイ』でそういう曲はありましたか?
菅野 『Because』がそうです。あれ作るのに2秒かかりませんでしたから。歌詞付きで、あ、できた。終わり。みたいな。
──『Because』は本当に素晴らしい曲だと思いましたが、あれが2秒ですか……。逆に曲ができなくて苦労することってないんですか?
菅野 言葉が出てこなくて苦労することってあります? 言いたいことがうまく言えなかったり、「この人には何て言おうかな~」というのはありますけど、基本的になんか言わなきゃと思ったら、とりあえず言葉は出てくる。それが自然かどうかは別として。
──オオゥ……。では菅野さんにとって音楽とは何なんでしょうか?
菅野 えーっ(笑)! んー。本当に言葉と同じで、コミュニケーションの手段ですね。音楽をやらずにいられない、みたいなかっこいいことは全然ないんです。別にやらなくても生きていけるんですけど、音楽があったおかげで救われてもいます。こっち(音楽)で言いたいことが言えているから、言葉は多少ベロベロでもいいやみたいな。だから音楽がなかったら、言えないことが溜まってたんじゃないかな。
──もし音楽がなかったら何をやっていたと思いますか?
菅野 人格として成立していないと思います(笑)。あまりにも小さい時から、言葉を覚える前から音楽をやっていたので、それがなかったら壊れてたかもしれないです。
(取材・文=有田シュン[株式会社n3o]/撮影=毛利智晴)
●『シュアリー・サムデイ』
中止になった文化祭復活のために男子5人で教室を占拠したら、ハッタリのはずの爆弾が誤爆してしまい、そこから彼らの人生はどんどん転げ落ちていく。しまいには、「3億円と女を見つけてこないと沈める」なんて脅しまで受け……起死回生のチャンスを探して5人は奔走する。超売れっ子俳優・小栗旬の念願が叶った初監督作。
監督/小栗旬 プロデューサー/山本又一朗 出演/小出恵介、勝地涼、鈴木亮平ほか 配給/松竹 7月17日より全国順次公開
<http://www.surely-someday.jp/ >
『シュアリー・サムデイ』(C)2010「シュアリー・サムデイ」製作委員会
●かんの・ようこ
宮城県生まれ。幼少から音楽に親しみ、大学在学中にバンド「てつ100%」のメンバーとしてデビュー。解散後、作編曲家としてゲーム、映画、ドラマ、アニメなどジャンルレスな活動を続け、特にCM音楽では500本以上の楽曲を手がけている。いま、日本でもっとも重要な音楽家のひとりである。
本日発売です。
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