『東京都北区赤羽』の作者と行く赤羽ディープスポットめぐり(後編)
#マンガ #サブカルチャー #突撃取材野郎 #清野とおる
■ホームレス公園の近くには微妙な風俗街が……
『下北GLORY DAYS』『阿佐ヶ谷Zippy』『新宿スワン』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』……などタイトルに地名のついた漫画はたくさんあるが、ほんとんどは実在の土地を舞台にしただけのフィクションだ。
そんな中『東京都北区赤羽』は、ガチで赤羽に実在する珍奇おじさんや珍妙おばさん、けったいなお店などを克明かつスリリングに描いたルポルタージュ的な漫画として、最近注目を集めている。
その作者、清野とおるさんと一緒に赤羽のディープスポットをめぐってしまおうという企画の後編。ますます微妙なスポットが登場しますよ。
前編では団地や児童館、幼稚園がすぐ近くにあるのにホームレスが大量に住みついてしまっている公園(ある意味、こっちも団地)などを見てきた。
仲良しファミリーや子どもたちが集う公園に段ボールハウスが乱立している光景はだいぶ衝撃的だったが、その公園からちょっこし歩くと、今度は風俗街が広がっているのだ。もちろん団地からもほど近い場所、なにもこんなところに風俗作らなくても……。赤羽のお役所はちゃんと都市計画してるのだろうか!?
近隣の住人がこんなところに入った日にゃあ、「山田さんところの旦那さん、真っ昼間からピンサロに行ってたらしいわよ!」……なんて団地中のホット・トピックスになって、回覧板が回ってこなくなってしまうこと必至だ。
お店自体もまた、妙に味わい深い。たとえば「忍者パブ」。”赤羽で伊賀だ、甲賀だ、くノ一だ”って、一体どんなサービスが受けられるの?
敵国の密書を盗み出し、雇い主の元へ急ぐ忍者。そこに追っ手のくノ一が! くノ一の八方手裏剣がバババーッ! すんでのところで避けて、返す刀でズバーッ! くノ一の忍者服が破け、素肌に鎖かたびら一丁に。「フハハハ、くノ一といえどもそんな姿になってしまえばただのメス。拙者の股間の太巻物を受けてみよ。ニンニン!」「イヤーン! アハーン! ウッフーン」……みたいなことか? うーん、気になる。
■お寿司屋さんにウルトラマンのフィギュアが!?
さて、そんな風俗街を抜けると突然「ここが『うるとらまん』ですよ!」と、清野さんがテンション高くある店を指さした。モロ和風な店構えなのに、ショーケースにウルトラ兄弟のフィギュアがズラリと飾られている謎のお寿司屋さん。なんじゃこりゃ!?
「ここはもともと、寿司屋さんなのに『うるとらまん』っていう店名だったんですよ。子ども受けを狙ったらしいんですが、さすがに『うるとらまん』じゃお客さんに不審がられてしまうということで、今は『寿司清』という名前に変わっているんですけどね」
寿司屋に「うるとらまん」なんて名前をつけてしまったことを反省して「寿司清」に改名したのは非常に正しい判断だとは思うが、どうしてそのタイミングでウルトラマンのフィギュアも撤去しなかったのか!? 「うるとらまん」にウルトラマンが飾ってあることよりも、普通の店名でウルトラマンが飾ってあるということの方が遙かにクレイジー感を放っているような気がする。
ちなみにこの寿司屋さんは、清野さんの漫画『東京都北区赤羽』の4巻で面白おかしく取り上げられているのだが、それがうれしかったらしく「寿司清野とおる券」なるクーポン券を発行しているようだ。「寿司清野とおる券」!?
—-この「寿司清野とおる券」って、持ってるとどんな特典があるんですかね?
「いや、分からないです……」
清野さんによると、怪しげなお店ながら肝心の寿司は安くてすごく美味いとのこと。だったら余計な工夫なんかしないで普通に営業していれば……と思わずにはいられない。
前編で紹介した、天然素材にこだわりすぎてちょっとおかしなことになっている豆腐屋さんしかり、仕事自体は真っ当なのに余計なプラスアルファのせいで異様な雰囲気になっちゃってる”ザ・蛇足”なお店が赤羽には多いような気がする。……がんばり屋さんが多いってことかな?
■赤羽の迷路で戦争を考えた
「今度は西口の方に行ってみましょう。赤羽西の坂の上の迷路に……」
迷路!? ……言われるがままについていくと、確かに迷路と言えるくらいすごく道が入り組んだ住宅街が。
しかもこの迷路、やたらと高低差があるのだ。急な坂道を上ったり下ったり、いきなり変な場所に階段があったり……ひとりで来たら迷子になること間違いナシ! 小学生が「シムシティ」で街を作っても、もう少し計画性のある都市になるんじゃないかというくらい超雑然としている。なんでこんなことに……。
その原因はなんと戦争にあるらしい。戦時中、この辺りには旧日本軍の施設が沢山あったのだが、終戦にともない軍施設は撤退。その跡地を計画的に開発すればよかったのに、戦後のどさくさで、寿司「うるとらまん」や風俗街がある東口の方には闇市が、そして台地のあるこの西口側にはメチャクチャに入り組んだ住宅街が無計画に作られてしまったらしい。
ホーッ、意外なところに戦争の影響が残っているもんだ。赤羽の妙なディープさっていうのは、闇市を経て復興した街だからかもしれないな……などと思いを馳せた。
思いっきり余談ながら、普段全然運動しないボクにはこの迷路の急斜面はホントにつらくって、歩いているうちに疲労と苦痛で完全に心が折れそうになっていた。しかし、同行した日刊サイゾー女子編集Kさん(美人)のシャツが腋汗でしっとりと湿っていて、くじけそうになった時にはその腋汗をチラチラ見ながら「なんか……がんばろう!」と自分を鼓舞していたことをここに記しておきたい。
■情報過多でフレンドリーなレストラン
さて、そんなゴチャゴチャの迷路住宅街を抜けて連れてこられた目的地は「ナイトレストラン・マカロニ」。このお店、外観からしてとにかく情報量が多い! そもそも「レストラン」で「マカロニ」なのに、のれんには堂々と「とんかつ」の文字が。他にも「洋食・割烹」「安くて家庭的な雰囲気の店」「オリジナル健康薬酒」「テレビ放映」さらに「MT会事務局」「東京教育研究協会」「新潟県人会」……等々、やたらといろんな文字が書かれている。とにかく説明過多なのだ。
もちろん店内にも文字情報がてんこ盛りで、壁一面に膨大な量のメニューが貼り出されている。しかし「ナイトレストラン・マカロニ」という店名のわりには「らーめん」にはじまり「焼うどん」「なめこおろし」……と、マカロニを使ってそうなメニューどころか、洋食ですらないメニューばかり。
飾り付けも非常に濃厚だ。熊手、天狗、おたふく、ダルマ……。確かになんでも収集しちゃうおばあちゃんの家に遊びに来たかのような”家庭的な雰囲気の店”ではあるが……。
この「マカロニ」も漫画に登場しているので、店のおじちゃん&おばちゃんも清野さんとは顔なじみのようだ。「これ食べな、あれ出してやりな」と、頼んでもないメニューがバンバン出てくるし、「清野さんの本、10冊買ったよ!」「知り合いの娘がファンだっていうから、今度会ってあげて」「一緒にさくらんぼ狩りに行こう」と、とことんフレンドリー。都内でもまだこんな人とのふれあいができるんだねぇ。
そして、店員でもなんでもない、近所に住んでいるらしいバアちゃんが10分おきくらいにやって来ては「ワタシ、さっきここに忘れ物しなかった?」「お金借りてなかったっけ?」「亡き旦那をすごく愛してたんだけどね」……と、唐突な発言をして帰って行く、というサプライズも。
—-あの人、さっきも来てましたよね。
「人は、寂しいのです」
—-ああ……。
「寂しいのです」
結局、ボクらがいた2時間で10回くらいは来ていました。それをいちいち相手にしてあげてる店のおばちゃん、ホントにフレンドリーだな。
整然とした都市計画に乗っからず、チェーン店では決して作り出せない雰囲気をかもし出した個人商店が、気合いと人情と(若干余計な)ナイスアイデアで21 世紀の今もバリバリがんばっている赤羽。かなりクセは強いものの、非常に味わい深い、そんな赤羽がボクもちょっと好きになってきたような、きてないような気が……。
—-清野さんも『東京都北区赤羽』の単行本がドーンと売れて印税がガッポリ入ったら赤羽に豪邸を建てなきゃですね!
「いや、ホントに大金持ちになったら世田谷に家建てますよ」
—-……まー、そうですよね。
清野さん的には「赤羽に限らず、一年くらい住み着いたらどんな街でも漫画にできるくらいのネタは見つけられると思いますよ」とのこと。これからさらにディープに赤羽を掘り返していくのか、それとも他の街に手を広げていくのか……。今後の清野さんの活動にも注目していきたい。
(文・写真・イラスト=北村ヂン)
■せいの・とおる
1980年東京都板橋区生まれ。98年「週刊ヤングマガジン」に掲載された「アニキの季節」でマンガ家デビュー。主な著書に、『東京都北区赤羽』1~4巻(Bbmfマガジン )、『清野とおる漫画短変集 ガードレールと少女』(彩図社)『バカ男子』(イースト・プレス)がある。
「清野ブログ」<http://usurabaka.exblog.jp/>
東京都北区赤羽 4
Bbmfマガジン刊/900円
東京都民にも埼玉県民にも見放された空間ポケット・赤羽。この赤羽に住む漫画家・清野とおるが趣味の散歩と尾行で遭遇した赤羽住民との不気味で愉快なリアルな日常を漫画化。帯には同じく赤羽在住の林家ペー・パー子氏の直筆コメント。携帯コミックサイト「ケータイ★まんが王国」にて連載中。1~3巻も好評発売中。
●「突撃取材野郎!」バックナンバー
【第5回】『東京都北区赤羽』の作者と行く赤羽ディープスポットめぐり(前編)
【第4回】手塚、藤子、赤塚、石ノ森……漫画界の巨匠たちも食べた伝説のラーメン屋
【第3回】「激安宿に泊まりたい!」ドヤ街で一泊1,000円代の宿に泊まってみる
【第2回】「甘酸っぱい思い出のシンボル……」僕らの愛したブルマーは今どこに
【第1回】アイドル小明と行く、サブカル魔窟『中野ブロードウェイ』
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