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理性か本能か? 極限状況に置かれた人間の両面性を描く『ザ・ウォーカー』

Walker_main.jpg(c)2010 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

 都市が瓦礫と化し、文明と秩序が失われ、わずかな水、食料、ガソリンを求めて、生き残った人々が奪い合い、殺し合う。そんな終末後の世界を描いた作品といえば、映画なら『マッドマックス』シリーズ、漫画なら『北斗の拳』あたりが代表格だが、この『ザ・ウォーカー』もまた、そうした作品群に加わる最新のハリウッド製アクション映画だ。

 主人公は「ウォーカー」(歩く者)と呼ばれる、謎めいた風貌に超人的な戦闘能力を秘めた寡黙な男(デンゼル・ワシントン)。地球上にたった一冊残された、ある特別な「本」を携えて、荒廃したアメリカ大陸を西へ、西へと歩き続ける。一方、荒くれの略奪者たちを束ねる町の独裁者カーネギー(ゲイリー・オールドマン)は、その本が持つ「力」で世界を支配する野望を抱く。避けられない2人の激突。「本」に託された人類の未来は――。

 製作のジョエル・シルバーは、『マトリックス』シリーズに代表されるように、強烈な個性を放つ映像世界とスタイリッシュなアクションシーンの融合が持ち味。今作で監督に迎えられたアルバート・ヒューズ&アレン・ヒューズ兄弟は、ハリウッド実写版『AKIRA』の監督候補としても、日本のみならず世界の映画ファンから期待が集まる注目株だ。

 圧倒的なスケールの廃虚と荒野のランドスケープは、彩度を抑えた映像処理とフィードバックを強調したギターサウンドのBGMを伴い、空気感さえ伝えるかのよう。デンゼル・ワシントンが刀や銃を駆使する立ち回りでは、黒澤明作品の殺陣にも通じる、動と静、光と影を絶妙に対比させたアクションに、ある種の「奇跡」を目撃しているかのような高揚を覚える。

 男臭さが目立つ作品ではあるが、『寝取られ男のラブ♂バカンス』(08)のリゾートホテル受付役で爽やかな美貌が印象的だったミラ・クニスが、今回は自らの意志で主人公の過酷な旅に随行する娘の役でワイルドな魅力を放っている。その母親役で『フラッシュ・ダンス』(83)のジェニファー・ビールスが出演しているのも、長年の映画ファンにはうれしいところ。

 極限状況に置かれたとき、人としての尊厳を捨て、獣のように弱肉強食の世界に生きるのか。それとも、自らの信念に従い、未来の希望に向かって歩き続けるのか。有史以来問われ続けてきた、そうした人間の両面性を、『ザ・ウォーカー』は新たな切り口で示してくれる。

 そしてまた、不景気だ、温暖化だ、モラル低下だと言いながらも、こうした終末世界に比べたらまだまだ物質的にも環境的にも道徳的にも恵まれている今の日本で、「明日の夢に向かって今日を生きること」の価値を改めて気づかせてくれる作品でもある。
(文=eiga.com編集スタッフ・高森郁哉)

『ザ・ウォーカー』作品情報
<http://eiga.com/movie/55212/>

マッドマックス

近未来バイオレンス

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最終更新:2010/06/19 15:00
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