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黒船が来襲する閉じた出版業界──佐々木俊尚が辟易する『電子書籍の衝撃』への衝撃

1007_sasaki.jpg佐々木俊尚氏が著した
『電子書籍の衝撃』

 「月刊サイゾー」で連載中の「ITインサイド・レポート」が、特集に合わせ、拡大出張。4月に『電子書籍の衝撃』を紙と電子書籍のそれぞれで出版し、注目を集めているジャーナリスト・佐々木俊尚が、電子書籍という”黒船”来襲の最前線で見た日本の出版業界の現状と未来を分析する。

 私は4月15日に『電子書籍の衝撃』という本を、独立系の出版社であるディスカヴァー・トゥエンティワンから上梓した。同書は発売から2週間余りで発行部数5万部を超えるなど、かなりの反響を呼んでいる。本の内容は読んでいただければと思うが、ごく簡単に説明すればこういうことだ──アップルのiPadやアマゾンのKindle、そしてグーグルのブック検索などアメリカ勢が、電子書籍ビジネスを全面展開し始めている。そして日本市場にも上陸しようとしている状況に対し、日本の出版業界や著者からは「海外勢から出版文化を守れ」といった反発の声が上がっている。だが日本の出版業界は、取次を軸とした流通プラットフォームが、今や文化的にも経済的にも破綻一歩手前の状況に陥っている。衰退する出版を救うためには、現状の流通システムを一新し、電子書籍化することで新たな「本の読まれ方」を構築するしかない。

 そして今、同時に、ツイッターやブログ、SNSなど、人と人がつながり、そこで情報が共感と共に交換されるソーシャルメディアの空間がインターネット上には形成されてきている。こうしたソーシャルメディアによって、本の情報が「書店の平台の位置」「版元の営業力」「著者の知名度」といったパッケージではなく、「今なぜ私が、その本を読まなければならないのか」「その本が持っている社会的意味とは何か」といったコンテキスト(文脈)と共に流通するようになれば、本の読まれ方は大きく変わり、読者と本と書き手をつなぐ新たな空間が生まれてくるのではないか──。

 この本に対して、多くの読者からは「本の未来にわくわくしてきた」といった声を頂いた。ところが出版業界からは、猛反発も受けている。私の知人の、ある大手出版社の編集者は、上司である役員から「なんでお前はあんな佐々木俊尚のような者と付き合っているのか。書いてることが全然ダメだろう」と叱責を受けたという。

 私のところにインタビュー取材を申し込んでくる雑誌編集部にも、取材に来たのか非難に来たのかわからないような人が少なからずいる。例えばあるファッション業界誌の年配の男性編集者は、私のところにインタビューに来て開口一番、こう断言した。

「iPadは、あれは売れないですね。重いし、読みにくいじゃないですか。液晶で本を読むなんてあり得ない」

「それはあなたの感覚だと思いますよ。その感覚が今の20代、30代にも当てはまるという根拠はありますか?」

 そう私が反論すると、彼は憮然と黙ってしまったのだった。

 あるいは別の週刊誌記者。

「電子書籍時代になったら、著者や読者は損をするんじゃないですかね」

「どういう損をすると思うんですか?」

「いや、なんとなくだけど、損をするような気がする」

 ネットでも状況は同じ。ツイッター上でも私に対して「雑誌が売れなくなるなんて、お前は無知だ」「外野は好きなことを言えていいよな」などという非難の声が、出版社員とみられる人たちから寄せられている。私がそうした意見に反論すると、今度は会ったこともない古株フリーライターらしき人物から「対立を煽るのはもうやめにしたらどうか」などとまた批判される。

 毎日のようにこうした根拠のない情緒的な反論にさらされ、正直私の気持ちは疲弊するばかりだ。

 ちなみに「外野」というのは出版業界人がよく使う言葉で、例えば業界外の人間がブログで電子書籍について書いたりすると「外野が言っても信頼できないんだよな」「外野は無責任だから」といった言い方をする人が、すぐにネット上に現れる。私は本を20冊ぐらいも出していて、あちこちの雑誌に寄稿しており、出版業界にどっぷり浸って暮らしているが、そういう人間に対しても「外野」という言葉を使うのだ。書き手も読者も印刷会社もみんな外野で、「内野」は出版社の社員だけということらしい。

 しかしそうやって「内野」だけで長年内向きの論理ばかりを振りかざし、電子書籍への取り組みもほとんど放置したまま今の事態を招いてしまったのを忘れたのかと思う。

最終更新:2010/06/17 18:00
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