『もしドラ』とAKB48の相関関係 岩崎夏海が明かすAKB48大ブレイクの真相(前編)
#インタビュー #AKB48 #秋元康 #岩崎夏海
高校野球の物語に”経営の神様”ピーター・ドラッカーの”マネジメント”の概念を巧みに織り込んだ大胆な発想で、60万部を超えるベストセラーとなった『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(ダイヤモンド社)の著者・岩崎夏海氏。作詞家・プロデューサーの秋元康氏の事務所にかつて所属し、放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』(フジテレビ系)などにも参加した彼だが、アイドルグループ・AKB48に立ち上げ当初から2007年までプロデュースに携わっていたことを知る人は少ないだろう。そこで今回、3作連続でシングルチャート1位を記録し、”時代の寵児”となったAKB48の大ブレイクの真相を岩崎氏に直撃。秋元氏のそばにいたからこそ語れるヒットまでの道程、AKBメンバーたちの知られざる素顔、さらに話題をさらった選抜総選挙の印象、『もしドラ』とAKB48の関連性も語っていただいた。その模様を前後編に分けてお届けする。
――岩崎さんはAKB48に関わられていた当時は、AP(アシスタントプロデューサー)としてクレジットされていましたが、具体的にどのようなことをされていたのでしょうか?
岩崎夏海(以下、岩崎) 秋元さんの補佐役ですね。秋元さんは、総合プロデューサーなので、その仕事は多岐にわたっていて、作詞はもちろんのこと、公演の楽曲の選定、衣装のアドバイス、振付師に踊りのイメージを伝える、レコード会社とのプロモーションの打ち合わせ、事務所との折衝、コンサート、テレビの打ち合わせなど、すべて一度は秋元さんが目を通します。その全般で、秋元さんの側近として現場にはすべていましたね。特に僕は、ネットに強かったので、ファンの公演の感想やリアクションを、ブログや2ちゃんねるにどんなことを書いているかをリサーチして伝えていました。その後、07年の年末に秋元康事務所を辞めることになったのですが、その12月31日、AKB48初の『紅白歌合戦』(NHK総合)出演を果たしました。最後に『紅白』によって、AKB48が一つ先のステップに進んだ瞬間を目撃できたのは非常に印象的でしたね。
――秋元先生の事務所には17年在籍されたそうですが、改めてその間に見た秋元先生の人物像とは?
岩崎 秋元さんは顧客指向が強い方ですね。作詞家、プロデューサーとしての力量は、世間では評価されていますが、僕からすればまだまだ評価が低いぐらい。アイドルを女の子中心に見るのは当然ですが、アイドルを輝かせるために、歌詞がどれだけの役割を果たすのか考えると、秋元さんの力が大きいはずです。
――秋元先生は現在、AKB48の3チーム、さらにSKE48、SDN48があり、各公演が16曲で合計80曲、さらにノースリーブス、渡り廊下走り隊など別働ユニットもあり、年間100曲程度AKB48関連の作詞をしていますね。そこまでの原動力は何だと推察されますか?
岩崎 秋元さんは、例えるなら競走馬。競争心がものすごく強いと思います。実は、長年ヒットアイドルを作れなかったことに忸怩たる思いがあり、いつかそれをやり遂げるようとされていたのでは。80年代のおニャン子クラブ以降、推定少女(秋元氏が作詞を担当)、チェキッ娘(秋元康事務所として番組制作に参加)があっても、おニャン子に匹敵するものが作れなかった。だから、直接聞いたことはありませんが、モーニング娘。がヒットしていた状況に悔しい思いはあったと思いますよ。
――では、今回の本題であるAKB48がここまで大ブレイクを成し遂げた理由は一体何なんでしょうか?
岩崎 理由は、いくつかあると思いますが、窪田さん(AKB48運営会社・AKSの窪田康志社長)というパートナーの存在が大きいと思います。AKB48は、秋元さんが資金を出すわけではないので、やはりパートナーが必要。パートナー次第で秋元さんのクリエイティブを生かすも殺すもできるんです。そのためこれまでに、パートナー次第で失敗したプロジェクトも多々あります。でも、窪田さんは基本的に制作にはノータッチで、秋元さんに全幅の信頼を置いて、お任せになっている。なかなかそう割り切ってできる人はいないですよね。お金を出す人は自分の意見を反映させたがるし、秋元さんもスポンサーには強く出れないので、その方のご意見をお聞きしてモノ作りをする。そうすると、混じりっけのあるものができてしまう。
――やはり、スポンサーになると口を出したくなりますよね。
岩崎 秋元さんはクリエーターとしては超一流で歴史に残る方だと思いますが、失礼ながらプロデューサーとして秋元さんは一流ではあるけど、超一流ではないと思います。自分で資金を調達する部分は苦手なところがあると思います。それを一緒にやってくれるパートナーが参加したのが非常に大きい。
――そのほか、やはりAKB48は常時1,000曲あるとされているストックの中から選んでいるという楽曲の良さもほかのアイドル、アーティストと一線を画す点では?
岩崎 そう。楽曲のすばらしさ。やはり歌詞がいいので、メンバーたちは歌詞の意味を感じ取って、その歌詞に影響されて、テンションが上がったり、感性が研ぎ澄まされていったと思います。特に「夕陽を見ているか?」(名曲の呼び声高い07年10月発売の6thシングル)は、『もしドラ』のモチーフにもしたメンバーの峯岸みなみの当時の心境とシンクロしていて、峯岸は「歌うたびに涙が出た」と言ってましたね。涙を流しながらAKB48劇場の公演で歌うというのは、観ているファンに対しても何らかのインプレッションを与えたでしょうし、そんな感情の連鎖がメンバーの感性をさらに研ぎ澄ませて、成長させたと思います。チームB3rdの「初日」もすばらしい楽曲。当時、菊地あやかが「先輩たちには負けたくない」と話していて、普段そんなこと言う子じゃないので、どうしたのかと思っていたら、初日の歌詞にその内容があり、やはり秋元さんの歌詞はメンバーに多大な影響与えるようです。それから、チームKの3rd公演『脳内パラダイス』がチームKに与えていた影響は計り知れないですね。
――K3rdは、楽器ができるメンバーが多いことから生まれたバンド形式の「友よ」で始まり、ユニットでも「泣きながら微笑んで」「MARIA」「君はペガサス」など各メンバーの個性を多大に反映した楽曲が次々に生まれましたね。
岩崎 あの公演から特に、Kは体育会系の特別なチームワークを持ち、Kのスタンスが確立されたことで、チームA独自のカラーが生まれて、チ-ムBは”末っ子だけど元気”という路線も生まれたと思います。『脳内パラダイス』がAKBに与えた影響は大きかったですね。各チームの公演によって印象は違いますが、それもAKBの一つのドラマを作っています。秋元さんはいろんな可能性を試されるので、間口を広げるための狙いの一つですね。
――メンバーそれぞれの個性もAKB48の大きな魅力だと思います。
岩崎 僕が一番尊敬するメンバーは高橋みなみですね。高橋がいなかったら、AKB48ってどうなっていたんだろう? と考えるんですよ。高橋の役割を担うメンバーはいたのかもしれないけど、高橋ぐらいの高いレベルでリーダーシップを発揮できたかはわからない。AKBの濃いファンならわかると思いますけど、彼女の存在がAKBというアイドルに与えた意味は大きい。僕自身が芸能界を見ていて、「この人には敵わない。イメージの遥か上を行く」と思ったのは、とんねるずの石橋貴明さんと高橋だけしかいない。それほどスゴイ存在。ひまわり2nd公演で、当時研究生として加入したばかりだった宮崎美穂が高橋のアンダーで、最初宮崎は踊れなくて、高橋がミラーになって(自分の踊りを左右反転させて)、振り付けを教えていたんです。あの姿は壮絶でしたね。そこまで熱心に後輩の練習に付き合うのは高橋ぐらい。それは「今、AKBの公演を成立させるためには、宮崎をちゃんと踊らせるしかない」「ファンにAKB48として恥ずかしいものを見せるわけにはいかない」という高橋の強固な使命感が集約された行動だったと思います。
――高橋の存在は『もしドラ』にも、影響を及ぼしたそうですね。
岩崎 これはインタビューでも初めてお話するんですが、前田敦子が握手会で嫌なことがあって、一人で、控え室で泣いているときがあったんですよ。そこに、遅れて高橋が入ってきて、泣いている前田を見つけると、隣に座って、何をするでもなく、何か聞くわけでもなく、前田の髪をただなでていた。女の子は泣いている女の子を見ると、こうやって慰めるんだと強いインプレッションになりました。それを今回、『もしドラ』で、夕紀が文乃を慰めるシーンで使いました。まさに前田と高橋を見なければ、書けなかったシーンですね。その文乃は実は、渡辺麻友がモデル。渡辺は今でこそ堂々としていますが、AKB48加入当初は、子鹿のようにビクビクしていて、誰かに何か言われると「え? あ? ハイ」みたいな調子。それが印象的で。実は渡辺は誰よりも負けず嫌いだと思うんですが、それなのにそんなオドオドした面も持っているのが面白いなと思っていました。
――これは、渡辺のファンには衝撃だと思います。今ではアニヲタキャラ全開で、総選挙でも向上心むき出しのコメントが印象的でしたが、「僕の太陽」「夕陽を見ているか?」では、チームBから彼女だけが選抜に選ばれて、確かに子鹿のようになっていましたね。ほかにも、メンバーがモデルになっていたりするんでしょうか?
岩崎 夕紀は大島優子がモデル。優子は、ダンスの面でも病気になるようなギリギリのところまで自分を追い込むんですよね。力の加減を一番知らない。その部分がファンに魅力として映ってると思うけど、本人はそんなことは意識してはいない。彼女も競走馬みたいなものですね。やるからには一生懸命やらざるを得ないという特性を持っている。秋元才加も高橋も努力家で知られていますが、リミットを越えてまでは、がんばりはしない。優子だけが限界を軽々と超えて、あとでバッタリ倒れる。彼女のそこまで命を完全燃焼させるかのような生き方にも感銘を受けましたね。火の玉が飛んでいくような優子の生き方そのもの。主人公・みなみは峯岸みなみの弱いところに共感を抱いて描いていて、その3人だけはメンバーから『もしドラ』のモチーフにしました。
* * *
『もしドラ』とAKB48の意外な関係性も次々につまびらかになっていった岩崎氏のインタビュー。さらに、後半では、AKB48名物のサプライズの真相、”政権交代”が実現した総選挙から見る今後の展開、そして、岩崎氏だから知るメンバーたちの真の魅力にも迫っていく。AKB48ファン必読の後半をお楽しみに。
(後編に続く/取材・文=本城零次<http://ameblo.jp/iiwake-lazy/>)
●岩崎夏海(いわさき・なつみ)
1968年7月生まれ。東京藝術大学美術学部建築科卒。大学卒業後、作詞家・秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)などテレビ番組に制作に参加。AKB48のプロデュースにも携わり、ゲームやウェブコンテンツの開発会社を経て、2009年4月、株式会社吉田正樹事務所に入社。『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』出版を機に、現在は所属作家として活動中。
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
すげぇよ、AKBって。
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