50年前のラノベ? 山田風太郎の知られざる傑作青春ミステリー『青春探偵団』
#本
ご存知のとおり、山田風太郎は『甲賀忍法帖』シリーズなど、忍者物の大家として知られた作家だ。1981年に『魔界転生』が映画化され、近年では『甲賀忍法帖』『柳生忍法帖』が、それぞれ『バジリスク~甲賀忍法帖~』『Y十M ~柳生忍法帖~』として漫画化されるなど、再び脚光を浴びている。年月を経るごとに評価が高まっている作家の一人である。
山田風太郎は子ども向けの青春ミステリー小説も手がけている。『青春探偵団』は、秋山小太郎ら6人の高校生が、町や学校に起こる難事件・珍事件を解決していくミステリーの連作短編集。初出はなんと1956年(昭和31年)というから驚きだ。
とある町の北はずれ、城山の麓にある霧ガ城高校には、男女二つの寮がある。山の東側に男子寮の青雲寮、西側に女子寮の孔雀寮。そこの寮生で霧ガ城高校の同級生、秋山小太郎、穴沢早助、大久保大八、織部京子、伊賀小笹、竹ノ内半子ら6人の男女は「殺人クラブ」という探偵小説愛好会に所属し、探偵小説の批評やトリックの新案、いじわるな先生や舎監にしっぺがえしする方法などを日々討論している。カンニングのうまいやり方を考えたり、脱獄――夜、寮を抜け出す行為を繰り返したりして学校生活を送っている6人は、ふいに殺人事件に巻き込まれることとなり……。
背景や表現など古臭く感じるところもあるが、文章の格調高さ、伏線を回収する構成力、結末の歯切れのよさなど、一流のエンタテインメント作家の技を存分に堪能できる作品となっている。
オススメの一編は、「泥棒再入来」。秀才だが不良ぶったところのある秋山小太郎は、宿敵である舎監の宿直・タラバ蟹に挑戦するため、一人”脱獄”を決行する。しかし、そんな時、舎監の臨時点検があり、さらに泥棒が寮内に侵入するという大ピンチ。町には警官が徘徊し、いつなんどき脱獄がバレるかも分からない。警官が来て、寮の屋根裏に設けた秘密の小部屋の存在がバレたら、安らぎの場所が失われてしまう。小太郎は女子寮にかくまわれるが、またそこから脱出するのも難しく……。小太郎は無事、青雲寮へ帰ることが出来るのか?
スピード感あふれる展開が爽快で、6人の厚い友情が感じられる一編だ。また、結末の小太郎のセリフも痛快でかっこいい。
何しろ54年前の作品なので、現代の小説に読み慣れている人は、違和感があることだろう。女子の造形などジェンダーにまみれているし、言葉遣いも古臭い。だが、違いは違いとして楽しめば、当時の文化背景などがよく分かり、現代の小説とは異なった楽しみ方が出来る。半世紀を経ても残っている作品には、色あせない面白さが確かにあるのだ。
(文=平野遼)
・山田風太郎(やまだ・ふうたろう)
1922年兵庫県生まれ。東京医科大学在学中の47年、雑誌「宝石」の懸賞小説で『達磨峠の事件』が入選。49年に『眼中の悪魔』『虚像淫楽』で、第2回日本探偵クラブ賞を受賞。翌年に作家デビュー。58年に『甲賀忍法帖』を連載開始し、忍法帖ブームを起こす。伝奇小説から、明治もの、室町ものといわれる時代小説、エッセイまで幅広く活躍。著書に『八犬傳』『魔界転生』『警視庁草紙』『柳生十兵衛死す』など多数。01年没。
傑作。
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