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クラウド・ソーシングの新媒体「.review」発起人が語る、メディアの未来

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 2010年1月、『中央公論』(中央公論新社)『思想地図』(NHK出版)などで若手論客として活躍する西田亮介氏がTwitter上で呼び掛けて立ち上げた新媒体「.review」。ネット上の不特定多数の人間を動員して集合的に業務を行うクラウド・ソーシングを採用し、若い書き手や研究者の論文を募集、ウェブサイト上で順次公開している。それらをまとめたもののダウンロード販売も予定するなど、一見、webを中心に独自の活動を展開するインディーズ・メディアに見えるが、5月23日の文章系同人誌即売会「文学フリマ」では約300ページの紙媒体『.review 001』を販売など、複合的な展開を見せている。

 メディア環境が劇的な変化の兆しを見せる中、今月28日にはとうとう日本でもiPadが発売される。出版の電子書籍化に拍車をかけるという見方もあるが、実際のところ電子書籍はメディアや言論を一変させ、各メディアがwebに民族大移動を行うことになるのだろうか? オンラインとオフラインを横断して活動を展開する「.review」の西田氏に話を聞いた。

──「.review」の具体的な方針はなんですか?

西田 「.review」を仕掛ける「project .review」のミッションは2つあります。若い研究者や書き手を社会的に認知させる契機を作ることと、新しい”知のハブ”を作ることです。最近のメジャー媒体は、半ば固定化された執筆陣やコメンテーターに頼むばかりで若手を発掘する「余裕」のようなものがあまり感じられません。そもそも、出版不況で媒体自体が減っている。だから、既存の書き手と若い書き手をシャッフルしつつ「メジャーができないことをやる」ことで、当事者たちで新しい言説のインディーズ・シーンを作っていきたいと考えています。そのためには、一つのメディアの形にはこだわりません。僕らがやりたいのは「本を作る」ことではないので、形態に捉われず、目指すミッションの達成に最適な方法を選びます。

──紙でも電子でも、必要に応じて対応すると。

西田 ただし、正直なところ、作る側としてはコストがかからない電子書籍のほうがやりやすいですね。今回、紙版を制作して痛感したのは、印刷代に紙代、輸送費など結構な額の元手がかかることです。しかも、取次を介すると中抜きされてしまう。直販で本屋に並べるだけでも6掛けされたりする。正直、やってられないと思うこともあります(笑)。電子書籍はコンテンツさえ用意して、運営側がプラットフォームを作ることができれば、ストックするコストもかからないので、自分たちで100%管理することができます。商品に繋がる導線のちょっとした工夫さえあれば、在庫コストもないのでいつでも売れる契機を持っている。だから電子書籍は、インディペンデントな活動においてはすごくやりやすい形態だと思います。

──しかし、情報量が多く埋もれがちなweb上で目立たせることは、難しいのではないでしょうか? 例えばリアルの書店であれば、店内をフラフラしていて元々の目的ではないものに出会う機会があります。

西田 その機会はネットのほうが多いのではないでしょうか。例えば、今の僕の知名度であれば、どこかの出版社で本を書かせてもらったとして、初版3000部といったところでしょう。その内のほとんどが都内のブックファーストさんやジュンク堂書店さんなど、大手書店に並ぶことになります。そこに仮に一週間平積みされたとして──平積みされるかも怪しいですが、それで本当にたまたま来た人に訴求できるだろうかというと、入口がたくさんあるネットのほうがはるかに可能性がある。Twitterで僕をフォローしてくれている人が今大体3800人くらいいて、そこに対して繰り返し告知をするほうが、周知効果が見込めると思います。もちろん層が偏ってしまうことはありえるけれど、部数の制約の中で何とか訴求するしか方法がない紙より、誰でもどこでもいつでもアクセスできるネット上で電子書籍を取り扱うほうが広くアピールできるし、偶有性に開かれているといえます。

──では今後、紙媒体の刊行をやめる可能性もありえる、と。

西田 状況次第です。僕らはいくつかのプラットフォームを設けることを考えています。具体的には、ダウンロード販売のプラットフォームを整備しながら、iPhoneアプリなどで販売できるようにもしたいと考えています。それが軌道に乗れば、将来的には紙媒体はやめる可能性もあります。電子書籍、ダウンロード販売は、単価は下がるが利率は上がる。「単価が低い」という電子書籍への批判がありますが、インディペンデントの場合、小さな機動力でうまく回すのであればやりようはあると踏んでいます。

dottoreview02.jpgメディアの未来を語る西田氏。

──そうして電子書籍に移行した時、メジャー、つまり大手版元などとインディーズは互角に戦えるんでしょうか?

西田 そもそも「.review」は、メジャーとの対立は掲げてません。ジュンク堂書店さんやTSUTAYAさんなど、企業とのコラボレーション企画にも取り組んできましたしね。とは言え、一般論でいえば、ある程度のプレゼンス、存在感も必要になることはあるでしょう。しかし、まともにぶつかったとしたら、やはりメジャーが圧倒的に優位です。資本力でも歯が立たない上、同じ土俵でーー電子書籍ということですが、メジャーが持っているたくさんの商品を並べられたらひとたまりもありません。また、消費者の信頼を獲得できるのはやはり既存出版社のブランド力になるでしょう。だから、そことまともに正面から対抗するのは、僕らが掲げるミッションには適合しないと思っています。むしろ、インディーズ同士が横に繋がってコラボレーションすることで質を高め、メジャーにはない魅力的なコンテンツを増やすことが重要になります。そのための仕掛けを、オンライン/オフラインにまたがって、あらゆる場所に神出鬼没に設けるしかない。現状、「文学フリマ」のような場はありますが、団体やプロジェクト間の密な交流は少ないという認識でいます。それを増やしていきたいですね。23日には「文学フリマ」にも出店しますし、同じ建物内で商業誌の枠に捉われない、『早稲田文学』のプランナーである市川(真人)さんとそういった今のメディア状況についての対談も行います。

──「.review」としての具体的な到達目標はありますか?

西田 ありません(笑)。なぜなら、新しい書き手は常に出てくるから。ネット的な言い方をするならば、”永遠のβ版”ですね。今は、何かにつけて境界を引くことが難しい環境です。「.review」をひとつのメディアとして捉えることもできますが、試み自体が新しいので取り組み自体をコンテンツとして消費することもできます。また、コンテンツとtwitterのハッシュタグを連動させてインタラクション性を設けているので、コンテンツ自体がメディアになっているともいえます。このように、コンテンツとメディアの境界が曖昧な中で、書き手も読み手も相互的になれる新しい時代です。とはいえ、本当はアメリカには、著名人によるオピニオンや他媒体からのニュースを集約して運営する「ハフィントン・ポスト」などが既にあって、日本は10年遅れくらいなんですけどね。

──日本ではなぜ遅れたんでしょうか?

西田 「ネット上で実名記述文化が根付かなかった」とか、「ネットに金を払う文化が根付かなかった」といった諸説があります。具体例をあげれば「オーマイニュース」や「JanJan」も失敗してしまいました。しかし、電子書籍はそういったパラダイムさえ変えてしまうかもしれない。電子書籍が普及することで、「ネットのコンテンツが有料なのは当たり前だ」という認識が広まる可能性があるからです。電子書籍にしても、あるいは政策などに関しても、今求められているのは、日本の関連する社会的条件を読みながら、海外の優れたコンセプトを実装するために日本の社会環境に適した方法を探ることです。僕らがやっているような、緩やかに他媒体や既存メディアとも手を組んでやっていく、一見ぬるく見える方法がもしかしたら意外と日本社会と適合的なのかもしれないとも思っています。

──今、巷では「電子書籍が紙媒体より優位になる」とする論調が多く見受けられますが、今後、紙は亡びてしまうとお考えになりますか?

西田 ユーザー視点でいえば、電子書籍は紙媒体にあらゆる面で勝っているというわけではありません。一長一短といったところでしょう。確かに紙の本はかさばりますし、個人的にはKindleやiPhoneといったメディアを使って、電子書籍を読むことにも抵抗はありません。なので、今のところ趣味の領域での読書は、電子書籍で支障ないと考えています。ただし、仕事で参照する場合には、意外と使いづらいという印象です。電子書籍は検索機能など使い勝手が良い点もありますが、紙の本は、「なんとなくこの辺に重要な論点があったはずだ」といった漠然とした記憶をたどれる点で圧倒的に優れている。ページを越えた文脈の検索もそうです。逆にそう考えれば、本をそこまで徹底的に読む必要がない書籍のライトユーザーにしてみれば、紙にこだわる理由があまりないともいえます。ただ、紙をめくるという身体性が染みついていて変更できない人もやはり一定数いるでしょう。したがって、徐々に紙の本がしめる割合が小さくなりつつも、共存する形に落ち着くと思います。少なくとも、いわゆる”ネオデジタル・ネイティヴ”といった、新しい身体性を持ったさらに下の世代が消費者のメイン層になるにはもうしばらく時間がかかります。そのような理由から、音楽CDからダウンロード販売への変化のように、電子書籍の登場によって直近で全てが置き換わるとは思えません。あえて予測するならば、流動性が高くて、”情報”に近いもの、雑誌・新書・文庫の順に置き換わっていくのではないかと思います。

──インディーズ・シーンにとっては電子書籍は有利だと。しかしネットに馴染みの薄い層に対しては浸透どころか、電子書籍がさらにデジタル・デバイドという情報格差を広げることにはなりませんか?

西田 そもそも電子書籍自体が、現時点ではイノベーターやアーリー・アダプター層に注目されている、いわば「エッジなもの」なので、「格差」があるのは当たり前。しかし、情報機器の利用はかなり高齢者まで浸透してきています。電子書籍は、地理的制約を越え、さらにいろいろなデバイスやプラットフォームから臨機応変にアクセスできるので、将来的には紙媒体よりも格差を縮める可能性があるのではないでしょうか。

●にしだ・りょうすけ
1983年生まれ。独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー。慶應義塾大学政策・メディア研究科博士課程在籍中。東洋大学非常勤講師。専門は地域活性化の分析と実践。既存メディアでの言論活動に取り組む一方で、新しい書き手の発掘とメディアのハブをつくるproject「.review」でも注目を集めている。
http://dotreview.jp/

・イベント情報
「第十回文学フリマ」出店
日時:5月23日(日)/午前11時から午後16時まで
会場:大田区産業プラザPiO
『.review001』販売ブース:V-11 『.review』+V-12KAI-YOU合体出店
http://bunfree.net/

【同日会場内トークイベント詳細】
「〈ミニコミ2.0〉~メディアと流通の機能~」
対談:市川真人(『早稲田文学』プランナー/批評ユニット「前田塁」)×西田亮介
司会:武田俊(KAI-YOU代表)
会場:同6FC会議室
日時:5月23日(日)/午後14時10分から15時30分まで(予定)
※要予約(http://kai-you.net/order/index.html
※当日券あり
入場料:800円(『界遊004』とのセットの場合は1700円)
定員:55名
※ニコ生にて同時配信決定!<http://live.nicovideo.jp/gate/lv17471902>

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最終更新:2010/05/22 18:00
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