トロフィーは青行灯!? 日本で唯一の怪談専門誌が選ぶ、大注目の新人怪談作家
#田辺青蛙 #妖怪
5月11日、メディアファクトリーが主催する「第4回『幽』怪談文学賞授賞式」が行なわれました。「幽」は、本邦唯一の怪談専門誌。年に2回の刊行で、綾辻行人さん、京極夏彦さん、小野不由美さん、謎の覆面作家の山白朝子さん、有栖川有栖さん、福澤徹三さん、平山夢明さん、小池壮彦さん、安曇潤平さん、工藤美代子さん、加門七海さんなどが怪談作品を連載しています。そして「幽」怪談文学賞は、雑誌の「幽」から生まれた怪談文芸の新人賞です。ここからデビュー出来るのは、選考委員に認められた怪談作家だけ。審査員の面子は、小説家の京極夏彦さん、岩井志麻子さん、南條竹則さん、漫画家の高橋葉介さん、そして編集長の東雅夫さん。
同賞には長編と短編の2部門がありますが、今回は短編部門から大賞が2作品選ばれました。神狛しずさんの「おじゃみ」は京言葉の一人称で紡がれる怪奇譚。谷一生さんの「富士子」(「住処」改題)は主人公が発作的に旅先で民宿を購入してしまうことから始まる物語です。
不吉な数字の4がつく回、しかも怪談作品の授賞式と聞いて、会場はお化け屋敷みたいなところで、血のにこごりのような飲み物をみんなが啜りあっているに違いない。そんな風に想像を巡らせながら、会場に到着したのですが……。禍々しそうなのは、入り口近くに置かれた過去に出版された怪談本くらいで、会場は綺麗な白いクロスのかかったテーブルの並ぶホテルの大広間でした。綺麗な背の高い女性に、「お飲み物はいかがですか?」とワインを勧められて手に取り、あたりを見回してみると有名な作家や文芸評論家の方々がズラーリ。ううう……凄いなあと気押されつつも、受賞者のお顔がよく見える最前列をキープ。
最初に、「幽」編集長の東雅夫さんによるスピーチがありました。
「今年は怪談作品の収穫も大きく、受賞作は作風も著者も対照的だった。怪談は生々しさがコアになる、インパクトを秘めたジャンル。これからもどんどん新しい人達を押し出して行きたい」
東編集長の言葉が終わると、選考委員を代表して、漫画家の高橋葉介さんのお話がありました。
「2作品の傑作が出て、めでたさも2倍となった。受賞作の、神狛しずさんの『おじゃみ』は、中身はかなりのスプラッタ怪談なのだけれど、京言葉ではんなりと和らげられている。例えて言うならば、毒のお菓子を砂糖でコーティングしたような感じ。もう一作の受賞作、谷一生さんの『富士子』は、選考委員一致で『いいよね』とコメントが出た。選考委員みんな、富士子さんの大ファンになってしまうほど、魅力的なキャラだった。この作品は、他人に変貌する怖さが書かれている」
高橋さんのコメントの後に、賞の贈呈式が行われました。受賞者に贈呈されたのは、名前が刻まれた、涼しげに透き通った硝子の賞状と、作品をモチーフにして作られた、世界にただ一つしかない青行灯トロフィー。どうして、トロフィーが青行灯かというと、百物語を行うには行灯に青い紙を張った、青行灯のもとでやるという仕来りが江戸時代にはあったそうです。また、百話目を語り終えると行灯のかたわらに立った、髪を逆立てた青行灯という鬼女が出るとも言われています。そんな伝承から、怪談作家に贈呈されるトロフィーとして青行灯が採用されたようです。
今年の「幽」怪談文学賞には512編もの応募が集ったと聞き、怪談作家への登竜門としての盛り上がりを感じさせられてしまいました。500を超える作品の中から受賞を勝ち取った、神狛しずさんは、粋な着物を着こなして登場。「怪談を書いているうちに、怖いが楽しみになって来た、ほんまおおきに」と、作品の舞台ともなっている京都の言葉で締めくくっていました。着物で語られる京言葉っていいなあと余韻に浸っていると、もう一人の受賞者である谷一生さんが壇上に登場。「審査員の岩井志麻子さんから、選評で、「富士子」は悪い女やないという言葉が嬉しかった。器量も性格も悪い中年女だけれど、愛おしい」と作中キャラ富士子を大アピール。
受賞作品については、今現在読んでいる最中なのですが、魅力的で癖のある内容の怪談がギュッと詰まっているといった感じです。詳しい選評を知りたい方や、実は怪談を書いていて、この賞に出してみたいという人や、ちょうど怖い話を先日体験したからこれから書いてみようかなという人。もし、いたら「幽」を読んでみて下さい。怪談小説だけでなく、諸星大二郎や、花輪和一、高橋葉介、押切蓮介、伊藤三巳華と漫画連載も豪華な面子が揃っています。これから先の季節、ぞぞっと怖い読み物を味わってみたいって人にもお勧めの雑誌です。ちなみにお二人の受賞作品は、5月21日に単行本として刊行されます。
(取材・文=田辺青蛙)
●たなべ・せいあ
「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。
淳二の季節がやってきます。
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