【ドボク対談】大山顕×西澤丞『Build the Future』はアイドル写真集だ!(後編)
#インタビュー #サブカルチャー #写真集 #建築 #大山顕
■『Build the Future』はアイドル写真集だ!
大山 取材の許可もらうのも大変ですけど、こうやって写真集にするのも大変じゃないですか。あのー、編集さんいる前でなんですけど、写真集って儲からないじゃないですか(笑)。
西澤 儲かんないっすよねー(笑)。
大山 だから写真家と編集者とが、悪巧みというか、共犯関係みたいにならないと写真集ってできないですよね。ぼくは、自分が写真集出すにあたってそれが素敵だなって思ってるんです。かっこいい! って編集者さんが惚れ込んじゃう、みたいな。七井(『Build the Future』の担当編集)さんはもともと好きなんですか、こういうの?
七井 西澤さんの写真がすごい好きで。実は、前の会社にいるときも西澤さんの写真集を出させていただいて。
大山 あー!『Deep Inside』(求龍堂)も七井さんなんだ! そうなんだ! 今回どうやって企画通したんですか?
七井 とにかく西澤さんの写真を見てもらいました。通常は企画書を出して説明するんですけど、この企画は西澤さんにA3で大きく写真をプリントしてもらって、「とにかく見てください!」と。
大山 どうでした、そのときの反応?
七井 写真を見た瞬間に、「やってみよう!」みたいな。
大山 あー! それ素晴らしいですね! あ、じゃあ企画通したときは西澤さんはすでに撮り終わっていたわけですよね。撮影に同行してないんですね。
七井 そうなんです、行ってないんです。
大山 それ、悔しくないですか(笑)。
西澤 でも、本物見てもこんな風になってないから「なんだよこれかよ」ってなっちゃうかもしれない。
大山 あー、分かります分かります。工場もねー、実際以上に美しく撮ってるので実際見に行って「写真と違う……」っていう人多いです。写真って嘘つきだからなー。
七井 そうなんです、樋口(真嗣)監督が帯で書いてくださっている言葉がすごく分かりやすいんですけど、たぶん社会科見学だけだとこの衝撃は得られないっていうのが本当で。西澤さんの目で切り取ってるこの写真で見たほうが、たぶん実際に見るよりもかっこよく見えちゃってるかも。
大山 そうそう。そういえばこの『Build the Future』見て思ったのは、「この写真って”なに写真”なんだろう?」ってことだったんですよ。単純に、いわゆるアート写真ってのがあって、もう一方に報道とかドキュメンタリー写真っていうものがあるとしたら、西澤さんのこの写真はどっちなんだろう? って。たぶん大きく言えばドキュメンタリーなんだろうけど、でもいま言ってたように、忠実に撮るようで忠実じゃないわけじゃないですか。かっこよく撮って「どう? かっこいいよね!」って。
西澤 単純に言っちゃえばそうなんだよね。
大山 で、ぼく気がついた。「これ、アイドル写真だ!」って。
西澤 あーなるほど。
大山 実際のアイドル見たらあんまりきれいじゃなかったよ、っていうのと同じ。でも、かわいいのは確かで、現場で盛り上がっちゃうっていうのと同じで。腑に落ちたんですよね。
七井 なるほどー、分かりやすい。そうですね。
ここでは超純水を使った手作業での洗浄が行われる」(本書より)
■「耐震写真集」出したいですよね
大山 さっきの前書きの話ですけど、日本っていうところにやっぱりこだわりはあります?
西澤 そうですねー。自分の住んでいる国だからね。これから世界にいくようになれば、世界に変わるのかもしんないけど。
七井 でも、博士たちの話を聞きにいったときに、日本人ならではだなって思ったのがあって。日本て耐震構造を必ず設計に入れてる。
大山 おおー。
七井 海外ではそういうの想定してないので、震度3くらいでポロっといっちゃう。
大山 そうそう! 日本の高架橋のスペックもすごいんですよ。それがまたビジュアルに現れてて。初めて上海の高速道路の高架見たとき、おいおいそんなペラッペラで、大丈夫かよって、思った。でも地震なかったらあれで十分なんでしょうね。日本の見慣れてると、びっくりする。団地もそうなんだよなー。
西澤 そうかー。
大山 「耐震写真集」出したいですよね。
西澤 耐震!(笑)大山さんなんてぼくよりマニアックだと思うよ(笑)。
大山 いやいやいやいや(笑)。
西澤 だってほら、『高架下建築』(洋泉社)でしたっけ? すごいマニアックだなーと思ってさー。しかもよく企画通したなと思ってさ。
大山 いやでも、あれニフティの「デイリーポータルZ」で記事にしたら、アップされて30分後に編集者さんから出版打診のメールが来たんですよ。「こういう写真集が作りたくて、仕事を変えた者です」みたいなひと言が添えられて(笑)。
→この顛末はサイゾーウーマン『気鋭の女性編集者たちにとっての「ドボク・エンタテイメント」とは』でどうぞ!http://www.cyzowoman.com/2009/09/post_981.html
西澤 すごいね(笑)、運命の出逢いだなー。
七井 いやーそういうことですよ、そういうことですよ!
西澤 あと面白いのが、例えばこの写真ね、改修作業に入っちゃうからもう見れないの。今度は超伝導のコイル使うらしい。
大山 おおー!
七井 研究が終わるとどんどん崩してっちゃったり、解体しちゃうので、けっこう儚いんですよ。
大山 そっかそっか! それ面白いな! 確かに、実験器具なんですよね、施設っていうより道具なんだなー!
西澤 装置もどんどん変わってるんですよ。どんどん改修して実験の精度をあげてってるから。
七井 やっぱりアイドル写真集ですよ、16歳の今はここしかないんです!(笑)
一同 うまいなー!(笑)。
どうでしょうか。ぼくとしては「ちゃんと取材企画書書こう!」って反省した有意義な雑談、じゃなくてインタビューでした。取材後、「飲みながら話した方がよかったかもね」なんて話も。すみません。いや、でも本当に有意義なお話しでした。編集さんとの関係も素敵。うらやましい。
そして”アイドル写真集”である『Build the Future』、本当にかっこいいのでみなさんぜひ買ってみてください!
あ、あと、チャンバー室の写真(この記事のトップ)を見ながらこんな会話も:
西澤 これもね、普段は装置を保護するジャケットがかかってるの。でもどうしてもそのジャケット外したときに撮りたいから、メンテナンスのときに呼んでくださいってお願いしたんですよ。
大山 やっぱりアイドル写真ですね(笑)。
西澤 そうそう、脱がしちゃった。着てちゃ画にならないから、って(笑)。
(取材・構成=大山顕)
●にしざわ・じょう(写真左)
自動車メーカーデザイン室、撮影プロダクション勤務を経て2000年よりフリー。広告、広報の写真撮影を行っているが、なかでも、科学技術、工業技術の撮影には定評があり、その写真は国内外のクリエーターに影響を与えている。
http://joe-nishizawa.jp/
●おおやま・けん(写真右)
公営団地を紹介するWEBサイト「住宅都市整理公団」総裁。団地や工場のほかにもジャンクション、水道管、螺旋階段、高架下建築、地下鉄ホーム、駅のパイプ群など幅広い鑑賞趣味を持つ。写真集『ジャンクション』、著書『団地の見究』ほか。
http://danchidanchi.com/
この本の中には、科学の子の、「夢」がある。(出渕裕氏)
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