【ドボク対談】大山顕×西澤丞『Build the Future』はアイドル写真集だ!(前編)
#インタビュー #サブカルチャー #写真集 #建築 #大山顕
みなさんこんにちは。大山です。ぼくは工場や団地やジャンクションを撮って写真集出したりしている人間です。要するに、一般的に写真家と呼ばれる職業ですね。そう、今回なぜだか一介の写真家であるぼくが、インタビューをしました。しかも写真家に!
インタビューする相手は、先日素晴らしい写真集『Build the Future』(太田出版)を出版された西澤丞さん。ぼくの尊敬する写真家です。2006年に発表された写真集『Deep Inside』(求龍堂)では建設中の高速道路や原子力発電所の内部などが収められていて、これがものすごくかっこいい。ぼくの大好きな写真集のひとつ。
で、今回の『Build the Future』でも核融合研究施設や加速器研究施設など、ふつう入ってみることのできない空間の、超かっこいい写真を撮っておられます。
うらやましい!
インタビューは正直気が引けてたんですが、どうやったらこういう写真が撮れるのか、この際そこらへんを聞いてみたい! という下心もあって西澤さんと対談してきました。
そう、これ、インタビューじゃなくて対談、いや、雑談かも。
■「かっこいい!」って言っちゃう
大山 『Build the Future』拝見しました。これ、本当かっこいいですね!
西澤 ありがとうございます(笑)。
大山 こんなにかっこいいものを目の前にしながら、どんな感じで撮ってるんですか? 「うおー!」とか言っちゃいません?
西澤 「かっこいい!」って言っちゃう。言いながら撮ってるよ。
大山 やっぱり(笑)。
西澤 例えばこの表紙の場所、実は2回行ってるんですよ。1回目はあまりのかっこよさに舞い上がっちゃって、人物を入れて撮影するのを逃しちゃったの(笑)。
大山 あはは(笑)。
西澤 それが表紙。
大山 舞い上がっちゃって撮るの忘れたって、いい話だなー。なんかこう、勇気づけられる。で、現場にいらっしゃる研究者の方々はそういう「かっこいい!」っていう感想をどう受け取ってるんですかね。
西澤 現場の方々は見慣れちゃってるから、かっこいいと思ってないんですよ。面白いのは、ぼくは研究者ではなく素人なんで、かっこいいと思ったとこだけ撮るじゃないですか。それは研究の本質じゃないところだったりする。で、現場の博士たちは「そこはそんなに重要じゃないんだけどなー」みたいな目線を送ってくる(笑)。
大山 ああ、分かる分かる。ぼくも工場に招かれて、かっこいいなあと思ったもの撮ってると「それよりこっちの方を見てもらいたいんですけど……」って言われる。博士たちは西澤さんが撮った写真見ても「これがかっこいいのかー。分からないなー」って感じなんですかね?
西澤 撮影したあと、「こんな風に撮らせていただきました」ってメールで写真送るんですよ。そうすると少し反応が変わる。で、こうやって本が出ると「撮ってくれて、ありがとう!」ってなる。
大山 おおー。
西澤 こういう施設って、今までこういう写真集にはなってないじゃないですか。だから、みなさんどういう感じに写るのか想像ができない。で、実際こういう形で目の当たりにして初めて、ちょっと理解できるんでしょうね。
大山 みんなもっと撮ればいいのにね、こういうの。もしかして、自分でも写真撮り始めちゃう現場の方いらっしゃるんじゃないですか?
西澤 いると思いますよ。
大山 それはやっぱり「かっこいい!」って思ってるんですかね。
西澤 うん、だと思いますよ。
大山 それいいな、それいい。
その液体ヘリウムを制御するためのバルブ」(本書より)
よくわからないが、かっこいい。
■「泣ける企画書を書くんですよ」
大山 実は今回ぼくが一番お聞きしたいのは……こういう施設って、どうやって入れてもらって撮影許可もらったんですか?
西澤 (笑)それはねー、企画書書いて、泣き落としですよ。
大山 泣き落とし!(笑) 具体的にどう泣き落とすんですか?
西澤 いやーもう、泣ける企画書を書くんですよ。
大山 それは西澤さんご本人が。
西澤 もちろんもちろん、自分で書く。
大山 それはもちろん撮りたいがための言葉ではなくて、本気ですよね。
西澤 いやマジですよ、マジマジマジ。ぼくは博士みたいに研究はできないけど、撮影して発表するっていうスキルがある。そこでぼくのやるべきことがあるなっていう。博士たちの研究を通訳して発表するような、そんな感じですね。
大山 かっこいい写真一枚で説得力があるっていうのはありますよね。そういうのもっと利用したいですよね。
西澤 そう。海外ではすごく上手に写真を政治の道具に使ってるじゃないですか。
大山 そうそう! アメリカの新聞社のサイトとか、写真かっこいいんですよね。
西澤 うまいんだよねー。使い方もよけりゃ撮り方もうまいしさー。あーゆうの見てると、すごいくやしいんだよ。
大山 そう、すごいくやしい!
西澤 フランスなんてカメラマンを雇って核融合施設の写真をかっこよく撮らせて、世界中に送ってるんですよ。しかもそのカメラマンが日本の施設にも来るらしいんだよ。なんで向こうのやつがこっちにきて撮るんだよって!(笑)
大山 俺にやらせろ! って。
西澤 そうそう、俺にやらせろって思うよね、本当に。
1本あたり1000kWの高周波を伝送する」(本書より)
■「『かっこいい!』ってやられちゃうといいなー」
大山 実はこの写真集でぼくが一番グっときたのは、前書きなんですよ。これすごくいい文章で、たぶん、このインタビュー記事で書くべきことがあるとしたら、もうこの前書きにぜんぶ凝縮されてるな、と思って。
西澤 悩んだ、これ書くの何日もかかった。
大山 最後の段落で「この国にとって重要な~」ってあるじゃないですか。つまり、こういうことですよね。
西澤 それくらいのこと言う人、いま必要だと思うもん。
大山 現場に行ってそこで働いている方の話し聞くと、やっぱり感動しちゃいますよね。
西澤 そうそう。感動しちゃってこういう文章になっちゃうんだよね。これ必要なのか必要じゃないのか、日本はどこへ投資するのか、って考えながら撮るじゃないですか。
大山 おおー!
西澤 そうすると、勉強しないと撮れなくなっちゃうんです。博士たちの物理の話もよく分かんないんだけど、それが何を目的にやってるかっていうことは自分で把握しとかないと、本にならないんです。ぼくが理解しないと読者にも伝えられないと思ってる。
大山 すごいなー。やっぱりこれ見て、かっこいいなーって、たとえば、高校生とかが思って、こういう研究施設で働いてみたいとか、っていうのが……。
西澤 そうそうそう、それ。
大山 うんうん! ぼくも時々ね、『工場萌え』(東京書籍)買ってくれた大学生が、あれがきっかけで工場の研究所に働くことにしましたって言ってくださることがあって。
西澤 それ、うれしいじゃないですか!
大山 そう、すごくうれしいの。
西澤 それですよ。
七井(この本の編集者さん) ちょうど一昨日、高校の図書館さんから注文がきてました。
大山 ああ! いいな!
西澤 それいいね! いいですね。高校生くらいがみて「かっこいい!」ってやられちゃうといいなー。ぜひやられちゃってほしいなー。
大山 あー、ぼく、ちゃんと企画書書いて取材申し込むのやったほうがいいな、っていま反省した。このインタビューの収穫はそれだな。
西澤 そこかい!(笑)
(後編につづく/取材・構成=大山顕)
●にしざわ・じょう(写真左)
自動車メーカーデザイン室、撮影プロダクション勤務を経て2000年よりフリー。広告、広報の写真撮影を行っているが、なかでも、科学技術、工業技術の撮影には定評があり、その写真は国内外のクリエーターに影響を与えている。
http://joe-nishizawa.jp/
●おおやま・けん(写真右)
公営団地を紹介するWEBサイト「住宅都市整理公団」総裁。団地や工場のほかにもジャンクション、水道管、螺旋階段、高架下建築、地下鉄ホーム、駅のパイプ群など幅広い鑑賞趣味を持つ。写真集『ジャンクション』、著書『団地の見究』ほか。
http://danchidanchi.com/
「もう、シビレるっ!」としか云えません。(庵野秀明監督)
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