手のひらに広がる大冒険!「ゲームブック」今昔物語
#サブカルチャー #バック・トゥ・ザ・80'S
アナログとデジタルの過渡期であった1980年代。WiiもPS3もなかったけれど、ジャンクでチープなおもちゃがあふれていた。足りない技術を想像力で補い、夢中になって集めた「キン消し」「ミニ四駆」「ビックリマンシール」……。なつかしいおもちゃたちの現在の姿を探る!
まだゲームが一日一時間と、高橋名人によって決められていたあの頃。どうしてもゲームがしたくて仕方がなかった時にお世話になったのが「ゲームブック」である。異論は認める。
■ゲームブックとはなんぞや?
「ゲームブック」を知らないという方のために簡単に解説すると、読者は番号によって分けられた数十~数百個のパラグラフ(段落)を読み、文章の末尾にある選択肢を選んで指定された番号のパラグラフに移動。また文章を読み、次の選択肢を選ぶ。この繰り返しで物語を進めるゲーム形式の小説のことである。ちなみに本文のイメージは以下の通り。
<1>
君は今、大きな部屋の中にいる。扉は木の扉と鉄の扉がある。どちらを開ける?
・木の扉を開ける→46へ
・鉄の扉を開ける→172へ
<172>
重い扉をやっとのことで開けると、大きな棍棒を手にしたオーガが待ち構えていた!
いきなり殴られて君は即死した。
GAME OVER
こんな感じで、RPGやアドベンチャー・ゲームを本の形式で楽しむわけだ。ちなみに戦闘シーンなどは、サイコロで行動の成否を決めたりする。もちろん、ダメージを受けたりした場合は、ちゃんと残りの体力などをメモしておく必要がある。今にして思うと、驚くほど面倒くさくてアナログな遊びである。しかし、頻繁にゲームソフトを買うお金がないお子様にとって、お手軽に冒険を体験できるゲームブックは、代替アイテムとしてはまさに打ってつけだったのである。個人的には「またゲームばっかりして!」と顔をしかめる母親の目をごまかしながら、思い切りゲームを堪能できる点が素晴らしかった。
私「おかーさん、この本買って!」
母「あら、小説なんて読むようになったのね? いいわよ」
私(ニヤリ。計画通り……)
ってな感じである。
■ゲームブックの時代
さてさて、そんなゲームブックの歴史は1982年のイギリスから始まる。この年に発表された『火吹山の魔法使い』は、元々複数人でプレーすることが前提となっていたテーブルトークRPG(会話とサイコロによる判定で楽しむゲーム。後のコンピュータRPGの元となる)を一人でも楽しむために考え出されたものだった。本作以前にもゲームブック形式の書籍は存在していたが、パラメータ(数値化されたキャラクターの強さ)やアイテムの管理などの本格的なシステムを確立したという点で、『火吹山の魔法使い』がゲームブックの元祖と言われている。その後、84年に同作が日本語に翻訳されたちまちベストセラーとなり、日本にもゲームブック・ブームが訪れた。
80年代半ばには『ソーサリー』シリーズや『バルサスの要塞』など海外でヒットした作品やゲームブック専門誌『ウォーロック』が翻訳・刊行される一方で、国産ゲームブックも非常に多く制作された。オリジナル作品の他に、既存のテレビゲームやアニメを題材としたものも相当数発行されていたわけだが、その理由としてはまだまだゲーム機の表現力が乏しかったことや、ビデオデッキが十分に普及していなかったため、テレビゲームの副読本、もしくはアニメを追体験するためのツールとして重宝されたという側面もあったのではないか、と筆者は考えている。
つまり、当時のゲームファン、アニメファンは足りない技術を文字と数枚の挿絵から喚起される想像力をフル動員して、強引に脳内補完していたわけだ。ちなみに80年代後半には、『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』『MOTHER』といった人気RPGだけではなく、『スーパーマリオ』『魂斗羅』といったバリバリのアクションゲームまでもがゲームブック化されており、この時期はまさにームブック爛熟期であったと言える。
しかし、90年代に入るとビデオデッキはほとんどの家庭に普及し、テレビゲーム機の性能も上昇し単体で十分に物語を語ることが可能になった。ということは、代替品としての性格が強かったゲームブックの存在意義がなくなる、ということでもある。案の定、この90年代半ばには日本国内のみならず、海外においてもゲームブックは市場からほぼ姿を消してしまった。
ゲームブックとして登場!
■よみがえるゲームブック
ゲームブックの刊行が止まってしまったとはいえ、ゲームブックのファンが世の中からいなくなったわけではない。21世紀に入って以降、再び世界中でゲームブックの息吹が聞こえ始めている。
海外ではイギリスのアイコン・ブックスが新ブランド”ウィザード・ブックス”を立ち上げて『火吹山の魔法使い』を復刊。その他、新作もリリースしているらしい。そして日本国内の状況はと言うと、まず創土社が01年より『アドベンチャーゲームノベル』シリーズを立ち上げ、過去の名作のみならず、新作をコンスタントにリリースしている。また、ホビージャパン社からは名作『デストラップ・ダンジョン』、『ハウス・オブ・ヘル』などが今はやりのライトノベル風イラストとテキストでリメイクされた。
その他、携帯端末という新たなフィールドでニーズを模索する動きも見られる。携帯サイト「ゲームブック・ラボR」では『ファイティング・ファンタジー』シリーズを携帯ゲームとして復活させた他、株式会社ブロッコリーは「GAMEBOOK DS」というシリーズを立ち上げ、携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」用ソフトとして『ソード・ワールド2.0』、『アクエリアンエイジ Perpetual Period』、『鋼殻のレギオス』の3タイトルをリリースした。
ゲームブックには無限の可能性がある!?
さらには、いま流行りの「Twitter」を使いゲームブックを再現しようとする強者までもが登場。わずか140文字のツイートを1パラグラフと考え、ツイート末尾に用意された選択肢(リンク)を選び、次のツイートに移動するというものだ(http://twitter.com/peretti/status/10731245477)。肝心のストーリーはと言うと、将軍様の統治する北の某国に潜入し、核ミサイルの発射を阻止するというちょっぴりアレな内容で、選択肢も少なくすぐにクリアできてしまう。とは言え、ゲームブックの新たな可能性を感じさせる面白い試みではある。
■再評価されるゲームブック
「テキストを読み、文末の選択肢を選ぶ」。そのスタイルを変えることなく、今日もさまざまなメディアで断続的に新作が発表されているゲームブック。今なおファンに愛され続けるその理由は、一体何なのだろうか。テレビゲームの表現力は映画をも凌駕し、ビデオデッキどころかインターネットに接続さえできれば、いつでも好きな映像を堪能できる現代、「代替品」として消費されているとは到底考えられない。ということは、やはり「ゲーム」としての面白さが再評価され始めたためではないだろうか。
冒頭の本文イメージにもある通り、読者=主人公一人ひとりに語りかけるような、独特の文体から生まれるロールプレイ感覚。文章(と挿絵)から喚起される想像力。短いセンテンスの積み重ねから生まれるリズム感と、クリア後に用意されている長めの文章を読む時の達成感。そして「自分の手で」ページをめくり、選択肢の結果を確認するという緊張感と、その後訪れる解放感によるカタルシス。そんなアナログで、プリミティブな「快感」こそがゲームブックの魅力だと多くの読者が気付き始めた事が、ゲームブック熱再燃の理由ではないだろうか(実際、デジタルコンテンツで再現されたほとんどのゲームブックが「サイコロでの判定」「ページをめくる」などのアクションを律儀に再現している)。
さあ、全国の冒険者たちよ。書を手に旅に出よう! そして想像力という翼を広げて、自分だけの物語を紡ぐのだ!
■特別企画! 創土社ゲームブック担当者に聞く、「ゲームブックの魅力とは」!
今回は本文中でも話題にとりあげたゲームブックを断続的に刊行し続ける、冒険大好き出版社・創土社のゲームブック担当者に突撃インタビューを敢行! ゲームブックへの熱い思いを思う存分語ってもらった。
──創土社が過去作の復刊や新刊の発行などを始めた理由は何でしょうか?
「私自身、少年時代にゲームブックファンであり、現代でも本で遊ぶゲームには独特の味があって十分に楽しめるモノだという思いがあったからです。オンラインゲーム全盛の昨今、私もオンラインゲームをよくプレーしていますが、ゲームブックにはまたそれらとは違った良さがあり、絶滅して当然のメディアとは考えていません」
──売れ行きは好調ですか?
「儲かっていますか? と聞かれたならば、答えは「いいえ」ですね。私の自己満足で存続しているとか言われることもあります(笑)。って笑いごとじゃないな。もっと他社さんが「うちもゲームブックを」とどんどん参入するくらいにがんばらねば。他社さんもちょっと参入するものの、後が続かないのはやっぱりコスト的に難しいからでしょうね」
──では、読者の反響はありますか?
「実売部数が少ないので、絶対数は大したことありません。ただ、それを考慮すると相対比率としては驚異的な反響があるとも言えます。また、ひとりひとりの声がすごくパワーがあるんですよね。それにお手紙やメール以上に多いのが、ファンの方が直接私に電話してくるケースです(笑)。そういう反響があると、多少赤字でも頑張らねばって思っちゃうんです」
──ファンの心をいつまでも捉えて離さないゲームブックの魅力とは何でしょうか?
「『ゲーム』であり『ブック』であることが特徴ですが、だから魅力的だということはとくにありません。ストーリーがダメな小説は面白くないし、システムが手抜きなゲームがつまらない。それと同じで、ゲームブックも作り手次第で玉石混交です。ストーリー性を重視したゲームブックは小説のように感動できるし、パラグラフ構造の練りこまれた作品は匠の心を感じさせます。要は作品次第ってことですね」
──ありがとうございました! これからもゲームブックの火を絶やさないよう、無理をしない程度にがんばってください!
(取材・文=有田シュン)
これが元祖にして本家!
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