“オブローダー”が厳選! 知られざる地域史が見えてくる『廃道をゆく2』
#本 #サブカルチャー
「廃墟ブーム」と言われて久しい。というより、もはや一般化し、サブカルチャーの一形態としての地位を獲得した感がある。朽ちていく建築に宿る虚無感や退廃的なムードを切り取った写真集や、実際にそこを訪れたい人のためのマニュアル本が現在にいたるまで数多く出版されているのは周知の通り。
本書『廃道をゆく2』は、簡単に言ってしまえばそんな廃墟ガイド本の「道」バージョンだ。写真・執筆は、廃道サイト「山さ行がねが」を運営する平沼義之氏や、ウェブ同人誌「日本の廃道」の永冨謙氏をはじめとする総勢9人の「オブローダー」(「廃道探索者」を表す造語)たちで、全国各地に散らばる計51本の「棄てられた道」を文字通り「探索」している。なお、「2」というからには続編にあたるわけだが、前作と基本スタンスは変わらず、重複する廃道もない。本書を読んでから前作に遡ってもまったく問題ない。
雑草や薮に浸食された舗装路、塞がれた隧道(ずいどう※「トンネル」の古い表記)、苔むした石造りの橋梁、岩壁を切り通した跡……掲載された写真の数々には廃道を彩るさまざまな要素が克明に捉えられている。それらはもちろん素晴らしいが、本書のキモは、ただ単にビジュアルで情緒に訴えるだけでなく、廃道がまだ廃道でなかった時代の人々の暮らしぶり、すなわち地域の歴史を掘り下げようとする執筆陣の姿勢にある。これは特に意図されたというよりは、オブローダーが廃道巡りにおもむく際に抱く欲求ないし動機みたいなものがそのまま表れたのだろう。
たとえば、奈良県吉野郡川上村を抜ける東熊野街道。この廃道で特筆すべきは、それ自体からまた無数の廃道が派生していることだ。本書の言葉を借りれば「廃道のテーマパーク」。川上村は吉野杉の本場であり、その吉野林業を大成させたのは幕末~明治の森林王・土倉庄三郎だ。廃道によって結ばれた集落を辿っていけば、土倉の功績や「林業という産業システムにおける道の役割」が見えてくるし、ひいては「隣村隣県との交通史に繋がっていく」。「道」というものは必ずどこかに通じている。そのネットワークが途切れて欠損した部分が廃道であり、廃道探索とは「地域史のミッシングリンク」に光を当てる作業でもある、というわけだ。
あるいは、富山県南砺市にある「中の谷隧道」と「栃折隧道」。いずれも抜け穴のような、狭く、そのわりには長い「歩行者専用」のトンネルだ。この地域は1971(昭和46)年まで、冬場は豪雪に閉ざされ外界から孤立してしまう山村だったそうだ。しかし、急病人が出たり物資が足りなくなったりすれば、遭難覚悟で雪の峠を越えねばならない。だったら、土の中を進んだほうが安全じゃないか。との村民の思いから、人しか通れないサイズ、逆に言えば、人さえ通れればいい「雪中隧道」が掘られたのだという。
また、この廃隧道というのは、土木建築史的観点から見ても興味深い点が多々ある。簡素な素堀から、重々しい石積み、レトロな煉瓦積み、さらには洗い出しの化粧コンクリートで仕上げたモダンなものまで、個性豊かな隧道写真はさながら近代土木技術の見本市のようだ。実は、道路トンネルの建設技術は鉄道由来だが、鉄道に比べて体系的な資料に乏しく、どのように発達していったのかはよく分かっていないらしい。つまり隧道には謎解きの楽しみもまだまだ残っているのだ。
本書を「廃墟ブームに乗った、二番煎じのサブカル本でしょ?」みたいに侮ってはいけない。
(文=須藤輝)
オブローダーデビューしちゃう?
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