ゼロ年代の最後を飾る映画賞が決定! アンチメジャーな”日プロ大賞”が復活
#映画 #邦画
“日プロ大賞”なる賞をご存知だろうか? 正式名称は「日本映画プロフェッショナル大賞」。1992年に始まった映画賞で、今年で19回目を数える。青山真治監督(第6回作品賞『Helpless』)、黒沢清監督(第7回作品賞『CURE』)、三池崇史監督(第7回監督賞『極道黒社会 RAINY DOG』)ら日本映画界を支える才能を早くから評価し、配給会社の力量や宣伝不足などの理由で興行的に恵まれなかったインディペンデント系の力作、秀作を顕彰してきた映画賞なのだ。映画賞シーズンの終わった今年4月、ゼロ年代最後の映画賞となる「第19回日プロ大賞」受賞作品および受賞者が発表された。
●作品賞=『私は猫ストーカー』
●主演男優賞=菅田俊『ポチの告白』
●主演女優賞=ぺ・ドゥナ『空気人形』
●監督賞=細田守監督『サマーウォーズ』
●新人監督賞=鈴木卓爾監督『私は猫ストーカー』
●新人奨励賞=町田マリー『美代子阿佐ヶ谷気分』
●新人奨励賞=満島ひかり『プライド』
矢口史靖監督の初期作品『裸足のピクニック』(93)、『ひみつの花園』(97)に共同脚本で参加していた鈴木卓爾監督の長編デビュー作『私は猫ストーカー』にスポットライトを当て、また警察組織の腐敗ぶりを生々しく描いた問題作『ポチの告白』での菅田俊の渾身の演技を見逃さないなど、日プロらしい選考結果となっている。満島ひかりは大ヒット作『愛のむきだし』ではなく、興行的に苦戦を強いられた『プライド』での受賞というのも「メジャーな映画賞を受賞した作品は対象外」という日プロならでは。
メジャーな映画会社や芸能プロダクションの政治的な思惑に左右されない”日プロ大賞”の存在は現場で働く映画人たちに高く評価され、池袋・新文芸坐やテアトル新宿で行なわれた授賞式には受賞監督や俳優たちが駆けつけ、手づくり感に溢れた映画賞として歴史を刻んできた。だが、三池崇史監督、麻生久美子、宮崎あおいらが来場するなど大いに賑わった第11回授賞式を最後に授賞イベントは取り止めとなり、受賞作品が毎年発表されるだけになっていた。そんな折、先述の第19回日プロ大賞は8年ぶりに授賞式を開催することに。なぜ、日プロ大賞は今年になって復活の狼煙を上げたのか。日プロ大賞実行委員長である映画ジャーナリストの大高宏雄氏にコメントを求めた。
「もともと、非常に個人的な想いから始まった映画賞なんです。第1回の主演男優賞は『遊びの時間は終わらない』(91)の本木雅弘、新人監督賞が同作品の萩庭貞明監督でした。この作品は非常に面白いにも関わらず、劇場公開時にほとんど話題にならず、あらゆる映画賞からも漏れてしまった。そのことに私は義憤を感じ、衝動的に始めた映画賞なんです(笑)。仲間に協力してもらい、その後も自腹で運営していたんですが、03年に私の父が亡くなり、その年の授賞式は中止しました。その年から授賞式は中断しています。また、私は文化通信社の記者として普段は取材している会社員なわけですが、映画誌や新聞に映画評などを寄稿していることも含め、いち社員が映画賞を主宰していることに対して、当時のオーナーから圧力を受けたのも中断していた理由のひとつでしたね。足を引っ張る力は、どこにもありますよ。まぁ、いずれにしろ、私個人の些細な事情なんです(苦笑)」
お祭りと同じく、人を呼び集めるイベントは、ある種の”磁場”が働くことで成立するもの。時代の流れ、社会の空気みたいなものも、”日プロ大賞”復活に影響を与えたのだろうだろうか?
「そうですね、後付けかも知れませんが、日プロ大賞が選んだ09年のベスト10作品に松江哲明監督の『あんにょん由美香』が選ばれていますが、取材対象に監督が積極的に関与するという新しいスタイルのドキュメンタリーを得意とする松江監督のような若い世代が出てきたということもあるでしょう。松江監督は90年代の日プロ大賞の授賞イベントに観客として参加していたそうです。日プロ大賞の授賞式が盛り上がっていた90年代のインディペンデント映画の熱気を感じながら育った世代が、すでに作り手となっているわけです。また、ダントツの人気で作品賞に選ばれた『私は猫ストーカー』やベスト10に入った『オカルト』もデジカメの特性を生かしたユニークな作品。今回、受賞には至らなかったけれど、他にも『SRサイタマノラッパー』、今年で言うなら『イエローキッド』といったデジカメならではの低予算作品が注目を集めています。90年代は三池監督、黒沢監督、青山監督らが続々と現われたのに対し、ゼロ年代の中盤以降はそういう流れがなかった。でも、ここにきて、ようやく新しい流れが生まれつつあるように感じますね」
日プロ大賞が選出した09年のベスト10作品は以下の通り。また、併せてゼロ年代邦画ベスト5も発表された。
●第19回日プロ大賞作品ベストテン
1.鈴木卓爾監督『私は猫ストーカー』
2.細田守監督『サマーウォーズ』
3.是枝裕和監督『空気人形』
4.光石富士朗監督『大阪ハムレット』
5.松江哲明監督『あんにょん由美香』
6.廣木隆一監督『余命1ヶ月の花嫁』
7.白石晃士監督『オカルト』
8.宮藤官九郎監督『少年メリケンサック』
9.金子修介監督『プライド』
9.田口トモロヲ監督『色即ぜねれいしょん』
●2000年代(ゼロ年代)邦画ベスト5
(00年~09年公開作品が対象)
1. 青山真治監督『EUREKA(ユリイカ)』
2. 若松孝二監督『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』
3. 荒戸源次郎監督『赤目四十八瀧心中未遂』
3. 黒沢清監督『アカルイミライ』
5. 三池崇史監督『殺し屋1』
5月15日(土)、池袋・新文芸坐で開かれる8年ぶりの授賞式には、ベテラン俳優・菅田俊、細田守監督、鈴木卓爾監督、町田マリーら受賞者、さらにゼロ年代邦画で票を分け合った青山真治監督、若松孝二監督らの来場が予定されている。メジャーな映画賞にはない、味のある顔ぶれだ。
「青山監督は今でもプロフィールに”日プロ大賞受賞”と入れています。青山監督にとっても日プロは思い入れが強いらしく、今回の授賞式はカンヌ映画祭に入るのを遅らせて来てくれるそうです。若松監督もずっとインディペンデントシーンで活躍し続けているのは凄いこと。90年代に溜め込んでいたエネルギーが『実録・連合赤軍』(08)で爆発した感があります。昨年11月、テアトル新宿で行なったプレイベントで荒戸源次郎監督と奥山和由プロデューサーの対談を組みましたが、スケジュールの都合でトーク時間が充分ではなかった。その反省もあり、今回の授賞式は受賞者がそれぞれトークできるよう、作品上映の前に1時間20分ほど時間を割いています」
『空気人形』で眩しいヌードを披露した、韓国映画界の才媛ペ・ドゥナの来場はないのだろうか?
「ペ・ドゥナですか? 日プロは日本アカデミー賞のように、韓国からの旅費と宿泊費を用意することができないので、『授賞式の時期に東京に遊びに来ないか』と製作会社を通して打診したが、無理でした。是枝監督も参加できないとの通達があり、少し悲しくなりましたね。いっそ、ペ・ドゥナの代わりに空気人形に来てもらうというのもいいかもしれませんね」
来年は記念すべき第20回を迎えるが、これまで大高氏が自腹で運営してきた体制は次回からシフトチェンジしたいとも語る。
「テレビ局が放映する日本アカデミー賞のようなメジャーな映画賞に対するアンチテーゼとしての意義が日プロにはあると考えています。ただ、アンチ、ゲリラも力を持たないといけない。こちらも、いつまでも”個”に固執ばかりしてはいられないということです。まだ、どういう形になるかは分かりませんが、第20回から変わっていくために、ひとつの節目として今回は授賞式をきちんとやりたいという想いがあったんです。でも、日プロ大賞は個人的な熱い想いから生まれたもの。その部分は大事にしていきたいですね」
5月15日に開かれる「日プロ大賞」授賞式は、日本映画の新しい流れを予感させる生イベントとなりそうだ。
(取材・文=長野辰次)
【第19回日プロ大賞授賞式】
●5月15日(土)午後9時15分開始
授賞式=午後9時15分~午後10時35分
映画上映=午後10時45分から午前6時ごろまで
●会場=池袋・新文芸坐
料金=2500円
主催:日プロ大賞実行委員会
●上映作品
『EUREKA(ユリイカ)』(ゼロ年代ベストワン作品)
『オカルト』(09年ベスト7位作品)、『蘇りの血』
●受賞者ゲスト出席者(5月10日時点での予定者)
菅田俊、町田マリー、細田守監督、鈴木卓爾監督、青山真治監督、若松孝二監督
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