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押井守の勝敗論第2弾 名匠巨匠をぶった斬る『勝つために戦え! 監督篇』

oshimamoru0430.jpg『勝つために戦え! 監督篇』(徳間書店)

 押井守は、映画界・アニメ界で極めて特異な位置にいる監督であろう。アニメ『うる星やつら』、OVA『機動警察パトレイバー』で名を上げ、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』で米ビルボード誌1位を獲得、一躍有名監督となった。アニメ、実写、演劇、ラジオ、ゲームなど幅広い分野で活躍している。が、メガヒットは一度もない。

 押井氏曰く「負けなきゃ勝ち」。そんな氏が勝敗論について語ったのが『勝つために戦え! 監督篇』(徳間書店)。「COMICリュウ」(同)誌上で連載していたコラムをまとめたものだ。前作『勝つために戦え!』(同)で語り尽くせなかった映画監督の勝敗論に的を絞り、古今東西の名匠巨匠を歯に衣着せぬ物言いでぶった斬る。あるいは誉めちぎる。かねてより親交のある宮崎駿を「孤独な人だ」と評し、ジェームズ・キャメロンの『アバター』に敗北宣言、ウォシャウスキー兄弟を「ゲイなんじゃねえか?」と疑う。創作秘話とともに、押井守の人柄や映画についての考えが丸ごと分かる内容となっている。巻末にはスタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫氏との対談もあり、読み応えのある納得の一冊だ。360ページ超のボリュームもうれしい。

 宮崎駿は「負け」、ジェームズ・キャメロンも「負け」、ゴダールは「勝ち」。押井氏の勝敗論とは、一体どういうものなのだろうか。宮崎やキャメロンのような興行収入を更新する監督は、勝ち続けなければならない宿命にある。勝ち続けることは不可能で、いわばその構造を作り出してしまったのが不幸であり、負けである。逆に、興行的に当たらなくても映画を撮り続けていられる監督――ゴダール、北野武、押井守などが、不敗の構造を持つ「勝ち」側の監督なのである、と押井氏は語る。

 この本で一貫して語られる勝敗論は、幸福論に他ならない。映画監督の幸せとは、映画を撮り続けていること。赤字黒字に関わらず映画を撮れる、その特異な位置を確保できた者こそ、映画界における勝者なのだ。負けなきゃ勝ち、負けだと思わなければ不敗。勝ち負けは世間の評価ではなく、自分の中だけの価値基準だということをこの本は教えてくれる。1日3時間ほど働き、好きなサッカーを観て、熱海で犬の散歩をする押井監督は、幸せそうである。
(文=平野遼)

押井守(おしい・まもる)
1951年生まれ。東京都出身。東京学芸大学教育学部美術教育学科卒。タツノコプロ、スタジオぴえろを経て、フリーの映画監督に。アニメや実写映画を中心に、ゲームクリエイター、小説家、脚本家、漫画原作者、劇作家、大学教授と幅広く活動している。代表作に『うる星やつら』『機動警察パトレイバー』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』など。

勝つために戦え!〈監督篇〉

戦え!

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最終更新:2010/05/06 15:00
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