「缶詰は、世界が詰まった宝箱」缶詰博士・黒川勇人のおだやかでラジカルな日常
#インタビュー
2010年4月某日。お台場、東京カルチャーカルチャーにて、『春の缶詰祭り!』が行われた。その内容は、”缶詰博士”こと黒川勇人氏と、缶詰クイーンのタカイチカ氏が、ひたすら缶詰の楽しみ方や味について語り、さらには缶詰の製造法に深く感心する、という非常にマニアック、かつ、缶詰愛に溢れたもの。しかし、意外にも集まったお客は20代から40代頃の働き盛りの男女で、大盛況だった。
「去年辺りから缶詰に対する”熱い視線”を感じますね」
と語るのは、黒川氏。缶詰に特化したブログ「缶詰blog」が話題となり、最近では”缶詰博士”として雑誌やテレビにも登場している。自宅には、世界中の缶詰が常備300缶以上ストックされ、1日1食は缶詰料理を食べるという。気になる缶詰工場には、実際に足を運ぶ熱心さだ。黒川氏がそれほどまでにハマる、缶詰の魅力について語ってもらった。
――まずは、缶詰を好きになったきっかけを教えてください。
黒川勇人氏(以下、黒川) 出会いは4歳です。父親とキャンプに行ったとき、鍋で沸かしたお湯で温めた楕円形の缶詰をパカっと開けると、出来たてのご飯が入っていて、「これ、なんだろう?」と。改めて缶詰がいいな、って思ったのは、ブログを始めた2004年の6月。当時は、まだひとり暮らしで、冷蔵庫のない暮らしが何年か続いて、ご飯を炊いて、缶詰をおかずに朝晩食べるという生活。ところが、一向に缶詰に飽きることがなく、秋刀魚の蒲焼きに小麦粉をまぶして香ばしく炒めたり、いろいろとアレンジをしているうちに、『これをブログで紹介したら面白いかも』と。毎日記事にまとめていくうちに、自分がいかに缶詰好きかということを改めて実感しました。
――缶詰に関する記憶が鮮明ですね(笑)。毎日食べても飽きない、黒川さんを虜にする、缶詰の魅力は何ですか?
黒川 モロッコやイランなど、何を食べているのか分からないような地域のものでも、数百円で世界中の食材が手に入ること。それからサバの水煮みたいに、子どものころ自分が食べていたものを食べると、郷愁が蘇ってきてね。開缶した瞬間に立ち昇る匂いと、目に映る食材の光景。それが何十年という時間を越え、さまざまな記憶をどっと沸き上がらせるんです。缶詰は、ひとつの宝箱ですね。
――名言が飛び出しましたね。ところで、匂いという話が出ましたが、缶詰にはあまり匂いがないような気がしますが……。
黒川 それはね、常温だから。缶詰は加熱すると食材の匂いが出てくるので、魚と肉に関しては大抵加熱した方が美味しい。とくに、サバや秋刀魚など青魚は、身に脂が乗っているので、加熱すると、口の中でふわっと脂が溶けていく。さらに、旬の野菜を使ってアレンジすると、季節感が出て、缶詰としての格が上がりますよ。
――格が上がる(笑)。そういえば、野菜も一緒に入った缶詰はあまり見かけませんが、缶詰にすることは難しいんですか?
野菜と魚という異なる食材を組み合わせ、
それぞれの食感をちょうどよい状態で残すこと
に成功。酒のつまみにも最高。(各320円)
黒川 例えば、青魚の缶詰は、基本的に生の状態の魚を缶に入れ、蓋を閉じて缶ごと加熱しています。そこに野菜を入れると、2つの食材を両方ともちょうど良い食感にするのが難しいんです。高木商店さんが魚と野菜を組み合わせた「ねぎ鯖」と「ごぼういわし」という商品を出していますが、これは本当にすごいですよ。ねぎもごぼうも歯ごたえが残っていて、それでいて味もしみ込んでいる。加熱つながりで言うと、缶詰は加熱殺菌をして、缶の中を無菌状態にし、食材を腐らせないようにするので、保存料を一切使っていないんです。その上、旬の時期に獲れたての食材を使用しているから栄養価が高く、健康にも良いですよ。
――なんだかいいことづくめですね。缶詰がとても上質な食材に見えてきました。ですが、せっかくなので、ちょっと変わった缶詰も教えてください!
黒川 変わり物と言えば、マケドニアの缶詰『HALVA』。ナッツや砂糖など、天然の素材で作ったカリカリした触感の不思議なお菓子。一見、ケーキのように見えるんだけど、砂糖でコーティングしてあってすごく甘い。ものすごい高カロリーです。
黒川 韓国産のカイコのサナギ缶『SILK WORM CHRYSALIS』。恐くてまだ食べてないんだよね(笑)。ものによってはすごく臭いのがあるという噂があって、それだったらどうしようと思って開けてない。たぶん、これからも食べないんだろうな(笑)。
黒川 世界一臭いと言われる、スウェーデン産の『シュールストレミング』。ブログでも開缶の様子を動画でアップしていますが、これは、発酵させたニシンの缶詰で、硫化水素の匂いがすごくてね。周りに人がいないところで開けないと、事件になっちゃいます。それに加え、バキュームカーの匂いも。僕が開封するときに風下に立っていた知人は、急に「アハハ」とか笑い出しておかしくなっちゃって。よく見ると、缶のラベルに『風下に立たないで下さい』と注意書きが書いてあるんだよね(笑)。
――世の中には、信じられないような缶詰が存在しているんですね(笑)。勉強になりました。最後に、缶詰への熱い思いと読者へのメッセージをお願いします。
黒川 缶詰は、”たかが缶詰”と思われがち。けれど、野菜入りの缶詰もそうですが、実はものすごいノウハウが詰まっています。缶詰の定番・シーチキンに、高級志向の「シーチキンとろ」という商品がありますが、それがもてはやされるようになったり、雑誌や新聞で缶詰にひと手間かけて食べる特集が組まれたりと、缶詰界が活気付いています。缶詰が、けっして間に合わせの食べ物ではないことを知ってほしいですね。
(取材・文=上浦未来)
・黒川勇人(くろかわ・はやと)
1966年生まれ。福島県出身。東洋大学文学部印度哲学科卒業。数年間会社員生活を送り、出版社勤務等を経てフリーライターとして独立。2004年6月に世界中の缶詰を紹介する「缶詰ブログ」を立ち上げ、『はなまるマーケット』(TBS)など、テレビ、ラジオ、イベントで”缶詰博士”として活躍中。
缶詰Blog <http://club-amigo.blog.ocn.ne.jp/blogcans/>
・イベント情報
『缶詰講座』
日時:5月8日(土)、6月12日(土)/午後7時から8時30分
場所:埼玉のイオンレイクタウン内・JTBカルチャー倶楽部
受講料:2,625円
講座内容:
5/8「斎藤茂吉とうな蒲缶の関係。世界にはこんなに面白い缶詰がある!」
6/12「大人の缶詰工場見学! 缶詰はこうして作られる」
申込方法:JTBカルチャー倶楽部048-990-1305(午前10時から午後9時30分)
定員:最大60名、先着順。
『カラー版 うまい!酒の肴になる! おつまみ缶詰酒場』
開けるだけで、ビールでも焼酎でも熱燗でもどんなお酒にもピッタリな極上の「おつまみ缶詰」。”缶詰博士”こと黒川氏が、思わず飲みたくなるおつまみ缶詰の世界をこってりとご紹介。
著:黒川勇人/アスキー・メディアワークス刊/980円
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