タカアンドトシ 非関西系漫才のツッコミ新境地「欧米か!」が生まれた理由
#この芸人を見よ! #ラリー遠田 #タカアンドトシ
漫才とは、言葉の快楽を追求する芸能である。あるフレーズの響きが気持ちいいかどうか、ということがとても重要で、その理想を求めて漫才師は自分たちの言葉をつむいでいく。
関西と非関西で比較したとき、ツッコミの語彙に文化的な由来があるのは関西の方である。関西では、「なんでやねん」はただのお笑い用語ではなく、一般人が日常的に用いるフレーズである。だが、それ以外の地域では、そもそも「なんでやねん」にあたる自然な語彙が存在しない。すなわち、会話の中で人間関係の距離を詰めて「ツッコミをいれる」という慣習自体が根付いていないのだ。
だから、非関西地域の漫才師にとっては、ツッコミをどういう形式にするか、ということが大きなテーマになる。
漫才ブーム以降の非関西漫才では、ツッコミの形態にはいくつかの大きな流れがある。1つは、ツービート、爆笑問題に代表されるような、ボケが主導権を握り、ツッコミはそれに追従するだけという「薄味ツッコミ」。もう1つは、おぎやはぎやPOISON GIRL BANDに代表されるような、柔らかな口調で決してボケを強く否定しない「同調ツッコミ」。そしてもう1つは、くりぃむしちゅーに代表されるような、ツッコミの中に気の利いた例え話を差し挟んで、笑いどころを増やす「例えツッコミ」である。
「なんでやねん」にあたる自然なフレーズがもともと存在しない以上、非関西のツッコミは、「言葉の快楽」にかけては関西のツッコミに真っ向から勝負はできない。それが従来の常識だった。
だが、近年に入り、新たなツッコミの形を開拓する意欲的な漫才師が現れた。それが、北海道出身のタカアンドトシである。彼らは、オーソドックスでわかりやすいネタ作りを基本にしながらも、ツッコミ担当のトシの器用さと声質を生かして、その可能性を追求し続けてきた。
その過程で生まれたのが、トシがつっこむべき場面でなぜかボケた張本人のタカがトシにつっこんでしまう、という「ツッコミ返し」の技法だった。トシがタカの頭を叩くのに合わせてタカが同時につっこみ返す、いわばツッコミのクロスカウンター。2004年の「M-1グランプリ」の決勝で彼らがそれを披露した瞬間、審査員席の西川きよしは普段以上に目玉を見開いて体をのけぞらせていた。彼らがM-1に持ち込んだこの大技は、百戦錬磨の西川を驚かせるほどの代物だったのだ。
だが、この年のM-1では、アンタッチャブル、南海キャンディーズ、麒麟という強豪にはばまれて、彼らは4位という結果に終わった。結成10年目を迎えていた彼らは、この年のM-1がラストチャンスとなった。
だが、M-1が終わっても、彼らの漫才道は終わらなかった。ツッコミ返しという技を編み出した2人は、「ここにはまだ何かがある」と感じていた。そこで、タカが同じパターンのボケを何度も繰り返し、トシが同じフレーズでつっこみ続ける、という技を開発した。これは、トシのツッコミの切れ味が強調されるという意味で、彼らにぴったりの技法だった。
そして、そんな漫才の進化の果てに、ようやくあの「欧米か!」が生まれた。欧米風の文化に執拗にこだわるというタカの妙なボケに対して、トシはひたすらどっしり構えて「欧米か!」の一言でつっこみまくる。タカトシの漫才が、「うまい漫才」から「すごい漫才」へと進化したのはこの瞬間だった。一定のリズムで「欧米か!」が繰り返されるタカトシの漫才は、言葉の快楽を極めた漫才のお手本のようだった。
そこからの彼らの快進撃については改めて記すまでもないだろう。「欧米か!」は世間でも流行語になり、彼らは一躍人気者になった。タカトシの2人は順調にレギュラー番組を増やし、この3月には深夜の人気番組『お試しかっ!』もゴールデン進出を果たした。
漫才の可能性を追い求めた果てに生まれたキラーフレーズ「欧米か!」の破壊力は絶大だった。タカアンドトシは、安定感抜群のツッコミの力によって、「M-1の向こう側」を見た唯一の漫才師である。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
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