刑事裁判の不完全性と社会の敵が持つ浄化作用ーー弘中惇一郎【前編】
#宮台真司 #神保哲生 #プレミアサイゾー #マル激
──ロス疑惑の三浦和義、薬害エイズの安部英、さらには武富士の武井保雄やライブドアの堀江貴文ら”時代の人”から、中森明菜や叶姉妹といった”お騒がせ芸能人”まで、そうそうたるメンバーの代理人を務めてきたのが、弁護士の弘中惇一郎氏だ。”負け戦”とされる裁判でも数々の勝訴を勝ち取った彼の手腕は、メディアではつとに有名である。そんな彼が現在、弁護人を務めるのが厚労官僚の村木厚子氏だ。検察と厚労省による刑事事件の矛盾を指摘し、その判決に注目が集まっているが、今回は弘中弁護士と共に、司法の不完全さを多角的に考察する──。
【今月のゲスト】
弘中惇一郎[弁護士]
神保 今回は、これまでロス疑惑の三浦和義さん、薬害エイズ事件の安部英さんなど、著名な刑事被告人の弁護を担当された弁護士の弘中惇一郎さんをゲストに迎え、恣意的な捜査を行っているとの批判が高まっている検察、それを助長するメディアの問題などについて議論を進めていきます。
話に先立って、弘中さんがこれまで弁護をしてきた著名人を紹介すると、三浦和義、安部英、村上正邦、鈴木宗男、堀江貴文、守屋武昌、加藤紘一、矢野絢也、武井保雄、野村沙知代、叶姉妹など、いずれもある種の「社会の敵=パブリック・エネミー」に仕立て上げられた方々だと言えると思います。
宮台 三浦和義さん、安部英さんは”メディアによって”パブリック・エネミーに仕立て上げられ、村上正邦さん、鈴木宗男さん、堀江貴文さんは”特捜検察とメディアの合作”によって、パブリック・エネミーに仕立て上げられた印象です。
神保 今日は、なぜ私たちがパブリック・エネミーを必要としているのかについても議論できればと思いますが、まずその前に弘中さんは現在、元厚労省の村木厚子局長の事件でも主任弁護人を務められています。
この事件は厚生労働省の村木厚子元雇用均等・児童家庭局長が障害保険福祉部の企画課長だった2004年、実態のない障害者団体に対して郵便割引制度の適用団体と認める偽の証明書を部下に命じて作らせたとして、虚偽有印公文書作成・同行使の罪に問われているというものです。こちらも疑義が多い事件ですが、現状をご説明いただけますか。
弘中 昨年7月から年末まで公判前整理を行い、弁護側の主張も出し、証人のリストも確定して、証人尋問は今年2月から集中審理でやっています。3月で証人尋問が終わり、4月には被告人質問、6月には論告弁論というスケジュールです。
神保 証人尋問では、村木さんから偽の証明書を作るよう指示されたと供述していた証人たちが、ことごとくそれを覆す証言をしています。この事件を構成する要素として、残っているものはあるのですか?
弘中 何も残っていません。検察官のストーリーに多少なりとも沿う証言をしたのは、「凛の会」という障害者団体の元会長・倉沢邦夫さんだけです。その倉沢さんにしても、検察官の主張に2割程度しか同意していない。石井一議員が厚労省の元部長に口利きをしたということも、元部長が村木さんに指示したということも、公判では否定されています。また、村木さんから上村勉被告に偽造証明書の発行を指示したということは、双方とも否定している。
唯一残っている証言は、倉沢さんが村木さんから、偽造証明書を受け取ったという一点だけ。しかしそれも、受け取った背景や日時が不明で、「手帳に載っているどの日でもないが、とにかく受け取った」という訳のわからない証言です。
検察側としては、「証言の場に立って、なぜか皆一様に虚偽の証言を始めたのだ」と主張するでしょう。これから検察官が尋問して、検察官面前調書(検面調書)の信用性を証明することで、事件を立証しようというのが、検察側の最後の砦です。
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