アイデア光る秀作が続々公開『月に囚われた男』『第9地区』
#映画 #洋画
日本国内でも興行収入150億円を突破する大ヒットとなった『アバター』は巨額の製作費で作られた大作だが、同じSFというジャンルから、低予算ながらも刺激に満ちた2本の映画が揃って4月10日より公開される。
1本目は、今年の第82回アカデミー賞で作品賞ほか4部門にノミネートされた『第9地区』。アカデミー賞では、作品賞の候補枠が10本に拡大したことでノミネートが実現した感もあるが、それにしても10本の候補作のうちSF映画は『アバター』とこれだけ。監督もキャストも無名の新人ばかりだが、アメリカでは興行収入1億ドルを超えるヒットで大成功を収めた。
舞台は、南アフリカ共和国のヨハネスブルク。突如として街の上空にUFOが出現し、そこから溢れ出たエイリアンたちが第9地区と呼ばれる保護地区に集められた。しかし、時が経つにつれて第9地区はスラム化。治安の悪化を恐れた超国家機関MNUは、彼らを強制的に隔離するための施策を打ち出し、その現場責任者となったヴィカスは、第9地区でエイリアンたちと接するうちに、彼らの重大な秘密に触れ、大事件を起こす引き金を引いてしまう……。
監督はそれまでは全くの無名だったニール・ブロムカンプ。彼が自主製作した短編映画を気に入った『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが、自らプロデュースを買って出て長編映画化したが、それでも製作費は3000万ドル程度。いわゆる大作ハリウッド映画は製作費1億ドル超えはザラで、『アバター』にいたっては2億~3億ドルとも言われているから、そのわずか10分の1にしか満たない。
しかし、南アフリカを舞台に、エイリアンを侵略者でも宇宙からの使者でもなく、難民として描く斬新さと、近年流行のドキュメンタリータッチの映像も手伝って、ネット上でもバイラルに話題が沸騰。人種差別や移民、貧富の格差といった現実世界の問題を想起させる社会性も備えつつ、娯楽作としても観客の要求に応える出来栄えで、興行的成功とアカデミー賞ノミネートという快進撃へと続いた。
もう1本は、これまた全く趣の異なるイギリス製SF映画『月に囚われた男』。こちらは『第9地区』よりさらにインディペンデント色が強い、いわゆるアート系映画の部類で、製作費はわずか500万ドル。資源採掘のため月にたったひとりで派遣された男、サムが、任期終了まであと2週間をきったところで不測のトラブルに遭遇。ケガをして医務室で目を覚ますと、目の前には自分と瓜二つの男が……。話し相手となる人工知能のガーティー以外、誰もいないはずの月の基地に何が隠されているのか? そして、目の前に現れた男の正体は?
デビッド・ボウイの息子、ダンカン・ジョーンズの長編監督デビュー作で、2009年1月にサンダンス映画祭で初上映されて以降、世界各国の映画祭で絶賛。英国アカデミー賞新人監督賞など多数の受賞を果たした。『2001年宇宙の旅』『サイレント・ランニング』『アウトランド』『ブレードランナー』といった過去の名作SFへのオマージュもたっぷりで、当然ながら派手なアクションやスリルがあるタイプの映画ではないが、人間や心理に対する哲学的な問いや風刺も効いていて、知的好奇心を刺激される。
どちらの映画もハリウッドのメジャースタジオ製作ではなく、もちろん流行りの3Dなんてものでもない。映画は、アイデア次第でまだまだ新鮮な驚きに満ちた面白いものができるということを証明してみせた、魅力的な作品だ。
(eiga.com編集部・浅香義明)
『第9地区』作品情報
<http://eiga.com/movie/53212/>
『第9地区』主演シャルト・コプリー インタビュー
<http://eiga.com/movie/53212/special/>
『月に囚われた男』作品情報
<http://eiga.com/movie/55145/>
『月に囚われた男』ダンカン・ジョーンズ監督 インタビュー
<http://eiga.com/buzz/20100402/22/>
SFと言えば、ね。
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