“クビ”からの再起。這い上がる男たちの生き様『プロ野球「戦力外通告」』
#本 #野球
打ったら拝まれる、三振したらドヤされる。
昨年オフ、阪神の今岡誠が戦力外となったのは青天の霹靂だった。かつて、首位打者、打点王、ゴールデングラブ賞のタイトルを獲り、1億円以上の年俸をもらっていた球団の顔とも言える選手が一転、あっさりと職を失う。まさしく「結果が全て」「一寸先は闇」のプロ野球の世界だ。
今岡はトライアルを受け、ロッテへの入団が叶ったが、他国の球団へ渡った者、他の職種へ転職した者、若くして指導者への道を選んだ者、戦力外通告を受けた野球選手の再就職先はさまざま。『プロ野球「戦力外通告」』は、3人のスポーツライターが、戦力外通告を受けたプロ野球選手に取材した新書だ。野口茂樹(元中日、巨人)、川口知哉(元オリックス)、大野倫(元巨人、ダイエー)、吉岡雄二(元巨人、近鉄、楽天)、正田樹(元日ハム、阪神)、寺本四郎(元ロッテ)の栄光、苦悩、挫折、葛藤、再起――6選手の心のひだが細やかに綴られている。各選手のその後と、今だから言える言葉を聞くことができる貴重な一冊だ。
元ロッテ・寺本四郎は、1980年生まれのいわゆる松坂世代。98年夏、甲子園準決勝で、松坂擁する横浜と熱闘を演じた明徳義塾のエースだったが、プロ入り後、与えられたチャンスを活かせず、06年オフ退団。寺本は戦力外通告を受けていないが、能力やモチベーションの限界を感じ、これ以上チームに迷惑をかけまいと任意引退をした。引退後、地元徳島で飲食店を経営していたが一念発起、09年、東京で競馬関連の会社を起業し、わずか半年で2つのオフィス、社員10名を抱える会社にまで成長した。その引き際や思い切りの良さ、バイタリティなどは、勝負の世界で培われたものだろう。
終身雇用制が崩壊し、転職が当たり前となった現代。戦力外通告を受けながらも、這い上がろうとするプロ野球選手の姿は、転進を考えるあなたの励みとなるはず。6選手の前のめりな生き方は、泥臭くもかっこいい。
(文=平野遼)
・美山和也(みやま・かずや)
1967年千葉県生まれ。週刊大衆、週刊女性を経てフリーに。プロ野球、少年野球を含むアマチュア組織の取材をしている。近著は「プロ野球スキャンダル事件史」「スーパースター引退劇の真実」「プロ野球代打物語」(以上、宝島社/共著)
・加藤慶(かとう・けい)
1972年愛知県生まれ。情報誌編集などを経て、編集プロダクション「sutudioKEIF」の代表に。自身はライター兼フォトグラファーで、スポーツ紙や週刊誌に寄稿する。共著多数あり。
・田口元義(たぐち・げんき)
1977年福島県生まれ。出版社でアシスタント、編集プロダクション勤務を経て03年フリーに。野球を中心にスポーツ総合誌などに寄稿。Number Webにてコラム「野球クロスロード」を連載中。
キビし~い世界なのです。
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