アンガールズ キモカワ芸人が精緻に切り出した「人生のNGシーン」に宿る笑い
#お笑い #この芸人を見よ! #ラリー遠田 #アンガールズ
お笑い芸とは、人を笑わせるために作られるものだ。ただ、笑いとは決して、プロの芸人の独占物ではない。私たちは、漫才やコントやお笑い番組を見ているとき以外にも、日常のさまざまな場面で笑うことがある。
大抵の場合、それらのひとつひとつは、実に些細なことだ。普段の生活の中で、不注意から思わぬ失敗をしてしまう瞬間や、ちょっとした勘違いから気まずい思いをする瞬間がある。あるいは、他の人にとっては何でもないようなことが、個人的に妙に引っかかって面白く感じられてしまう、という場合もあるだろう。日常で笑いが生まれるのはいつも、そんな些細な瞬間からだ。
アンガールズは、その点に目を付けて、「日常レベルの小さな笑い」に特化したコントを作る珍しいタイプの芸人だった。「路上で人と正面から向き合い、互いに譲り合って立ち往生してしまった」「力を込めてしゃべろうとしたら、思わず声が裏返ってしまった」など、彼らのコントには、これまでなかなかお笑いネタの題材にはならなかったような、日常で私たちが味わう小さな気まずさや違和感が盛り込まれている。
彼らは、日常にありふれた風景のほんの一瞬を切り取って提示してみせる。そして、確かにそこに笑いがあったという事実を、見る者に思い起こさせるのだ。
それは、人生を1本の映画にまとめるとしたら、間違いなくNGシーンとしてカットされるようなどうでもいい場面ばかりだ。ただ、そこには確かに笑いが含まれている、ということを直感的につかんでいたアンガールズの2人は、あえてそれを深く掘り下げることで、独創的なネタを生み出すことに成功したのだ。
アンガールズが世に出てきた2004年から05年にかけては、『エンタの神様』(日本テレビ系)が爆発的な人気を呼び、一言ネタを中心にした「あるあるネタ」を演じる芸人が次々に出てきた時期でもあった。ただ、アンガールズが得意とする「日常レベルの笑い」とは、いわゆる「あるあるネタ」とは一線を画している。
彼らは、日常にありがちな一場面をそのまま言葉として発するのではなく、あくまでも、コントの中にそれを組み込んで活用していた。いわば、初期の彼らのコントは、「あるあるネタ」を骨組みとして、そこに肉付けを施すことで構成されていたのだ。
さらに、天は二物を与えていた。彼らは、しっかりしたネタ作りができる上に、2人ともガリガリで長身という、芸人としては奇跡的に見事な外見を備えていたのだ。そのインパクト抜群の見た目を生かして、棒読みに近いセリフ回し、手足の細さと長さを強調する「ジャンガジャンガ」という不気味な脱力系ダンスなど、「キモカワ」な芸風を際立たせるさまざまな工夫が功を奏して、彼らはお笑い界に一大旋風を巻き起こしたのだ。
3月27日、お笑いライブの臨場感をそのまま再現して人気を呼んでいた深夜番組『潜在異色』(日本テレビ系)が最終回を迎えた。最終回の1時間スペシャルでは、レギュラーメンバーであるアンガールズの田中が、オードリーの2人を含む他の芸人と混じって、自作のユニットコント「お菓子の家」を披露していた。ここでも、田中のキモカワな個性は健在だった。
アンガールズは、すっかり売れっ子になった今も、定期的に単独ライブを行い、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)でも駆け出しの若手に混じってショートネタを演じるなど、ネタ作りに対する強い意欲を見せている。外見のインパクトばかりが強調されがちな彼らだが、その根底には、良質なコントを作るネタ職人としての高い技能があるのだ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
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