トヨタのリコール問題を契機に「責任」の法文化を再考する【前編】
#宮台真司 #神保哲生 #プレミアサイゾー #マル激
──昨年11月、トヨタは、フロアマットが外れてアクセルペダルが戻せなくなる恐れがあるとして、米運輸省高速道路交通安全局にリコールを届け出ることを発表した。予定されているリコール対象車数は約500万台とされ、アメリカ史上最大規模の数に及ぶという。こうした中、多くのメディアでは、トヨタの安全性やリコールへの対応についてさまざまな意見が語られたが、その根底には、企業と市民の関係や、企業体としての責務という問題がはらんでいるようだ。社会問題と法制度の観点から、トヨタリコール問題を浮き彫りにする──。
【今月のゲスト】
廣瀬久和[青山学院大学法学部教授]
神保 今回は民法と消費者法の専門家で、経済産業省・国土交通省・内閣府のそれぞれで、リコール関係の検討会に加わってこられた、青山学院大学法学部教授の廣瀬久和さんをゲストに迎え、トヨタ自動車のリコール問題について議論したいと思います。
2月9日、トヨタのリコール発表に際して、工学院大学の畑村洋太郎教授と弁護士で、名城大学教授の郷原信郎氏(ともに国土交通省「リコール検討会」メンバー)が緊急の記者会見を開き、そもそも今回の「不具合」は「自動車の安全基準に関わるものではなく、新たな製品開発を行った結果、一部ユーザーが期待していた操作感と合致しなかっただけで、『リコール』には馴染まない」との見解を発表しました。郷原氏は、「一定の状況下で一部ユーザーがブレーキの利き具合に違和感を持つという限局された問題が、ただちに”欠陥”だと認識された。これは自動車技術の発展に影響する」と危機感を表明しています。
われわれは気軽に「リコール」という言葉を使っていますが、実はその意味や実態を必ずしも理解していないのかもしれません。今回はまずリコールとは何なのか、そしてその意味についても確認していきたいと思います。
宮台 リコールという言葉を耳にすると、僕らは1970年代に軽自動車「ホンダ・N360」から始まった「欠陥車問題」に結び付けて考えがちです。しかし畑村先生は「欠陥があるからリコールをする面もあるが、それとは別に、イノベーティブなプロセスの中で消費者と協力しながら製品の調整を行う手段としても考えられる」と言います。それを見逃して「リコール=欠陥=企業イメージ低下=不買」と捉えるのは違うのではないかということですね。
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