「スナックはママのキャラが命!」 都築響一が覗いた”いちばん身近な天国”とは?
#本 #インタビュー #サブカルチャー
日本全国の「こんなところ誰が行くんだろう」というような珍スポットを巡った『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』(筑摩書房)や、無名な人たちの生活感あふれる部屋を追った『TOKYO STYLE』(同)など独自の視点で日常を切り取り、そこに新たな魅力を提示しつづけてきた都築響一。
そんな彼が新刊『天国は水割りの味がする~東京スナック魅酒乱~』(廣済堂出版)で注目したのが”スナック”! 東京各地にある50軒ものスナックを自ら取材し、ママさん、マスターの波瀾万丈な人生を880ページにわたりギッシリと詰め込んだ本作について話を伺った。
――今回の本は都内のさまざまなスナックを紹介していますが、都築さんがスナックに行きはじめたきっかけは何だったんですか。
都築響一(以下、都築) 僕は地方に出張することが多いんですが、地方で飲む場所ってスナックしかないんですよ。それで自然と通うようになりました。スナックの入口って入りづらい雰囲気がありますけど、いざ入っちゃえばすごくフレンドリーだし、きどってなくて居心地がいい。それなのにメディアからは全く無視されているので、どういうことだと。だって、居酒屋とか立ち飲み屋はどうでもいいガイドブックがたくさんあるのに、スナックの本って一冊もないんですよ。世の中で編集者とライターだけがスナックに行ってないんじゃないかと思うくらい。
――確かに僕もスナックって行ったことがないです。
都築 それはダメですねぇ。スナックって全国に16万軒はあると言われていて、実は日本で一番多い業態の飲み屋なんですよ。地方に住んでいる人たちにとっては、本当に身近な存在ですからね。今、雑誌やテレビを作っている人ってみんな東京でしょ。だから分かってないだけなんですよ。雑誌ではオシャレなワインバーがどうのこうのやってるけど、9割の人は田舎に住んでて、スナックでJINRO飲んでカラオケ歌ってるんだから。日本人の1割の中で生きていると、その他大多数の”普通の人”たちが何をやっているのか分からなくなっちゃうことって多いんです。メチャクチャに偏った情報ばっかり出してその気になってたら、9割の人から「自分たちとは違う世界だな」って思われちゃいますよ。
――そんなスナックですが、今回はお店自体というよりは、そこで働くママやマスターの人生にスポットを当てていますよね。
都築 スナックって、適当にカウンターと椅子とカラオケがあってお酒も普通のお酒だけ。ご飯をちゃんと出すわけでもないから、基本的にママやマスターのキャラだけでもっている店なんですよ。長くやってるスナックって必ずいい感じですからね。接客は慇懃無礼だけど美味しいから行く、みたいなのはスナックではあり得ない。そして、いいキャラを持ってるママにはいいお客さんがついてて、温かいコミュニティが形成されている。そこが一番の魅力なんですよ。そういう意味では最も日本的な業態なのかなって思うんですけどね。
――インタビューの途中で常連さんが話に混ざってきたりして、そこもスナックらしいですよね。取材は営業時間中にやっていたんですか。
都築 基本的にはお客さんが少ない、早い時間に行くことが多かったです。お客さんが来たら相手しなくちゃならないし、かなり長い時間話してもらうんで。だからいきなり行って取材は出来ないんですよ。3、4回は通ってからじゃないと。
――一本電話入れて「取材させてください」みたいな手続きじゃダメだと。
都築 そんなんじゃどこも受けてくれないんじゃないですかね。店にとっては雑誌に載って客が増えるとか関係ないですから。逆に行列とか出来て常連さんたちの居心地が悪くなったら困っちゃうもん。だから最初は取材とか言わないで黙って飲みに行く。しばらく通って仲良くなったところで「こういうことやってるんですけど、このお店を気に入ったんで紹介させて下さい」って頼むんです。
――お店になじむ期間も必要だと、かなり手間がかかりますね。
都築 それに、取材が終わってからも行きますから。いきなり手のひら返しで行かないってわけにもいかないんで(笑)。だから一軒につき最低5回は行ってるんじゃないですかね。でも本当はそういう取材をやるべきなんですよ。だって電話一本入れて取材依頼するって、その電話番号をどうやって知るの? 結局、他の雑誌やネットで調べるってことでしょ。それってもう誰かがやっていることを後追いしているだけなんですよ。自分が普段行ってて、もっと世の中に知られるべきだってお店を紹介するのがスジじゃないですか。ところが今の雑誌は「今回は下北沢のカジュアルイタリアン特集にしましょう」とか先に決まって、それからネットで調べて電話かけて……みたいな作り方をしてる。地方だったら仕方ないけど、自分の地元でそれをやっちゃダメですよ。
――そうやって丁寧に懐に入り込んでこそ聞き出せる話ってありますからね。
都築 何回か通って、ボトルも入れて……ってやらないと(笑)。インタビューなんてされたこともない普通の人たちだから、いきなり知らない人が来ても「あの時、自殺未遂しちゃってね」なんて自分の人生を話してくれるわけがない。今回はすごく手間のかかる取材のやり方でしたけど、取材って本来こういう風にやるんだよなっていうのを思い出せましたね。
――これはもともとWEBマガジンでの連載だったわけですが、店によって文字数が多かったり少なかったりと、すごくネット媒体らしい作りだなと思いました。
都築 特に今回のはインタビュー記事なんで、文字数を気にしたくなかったんですよ。だって、いざ行って話を聞くまでその人の人生が濃いか薄いかなんて分からないじゃないですか。それなのに最初っから「2ページ」とか決められちゃうと……。つまらなかったら1ページでいいし、面白かったら10ページ、みたいな作り方を今の紙媒体はしてないんで。内容に自信がないからデザインだけでも格好よくしなきゃって、デザインありきみたいになっちゃってるんですよね。でも大事なのは中身でしょ。
――紙媒体だと「デザインからはみ出しちゃうんで、文字を削って下さい」とか普通にありますからね。
都築 そういうのがどれだけ本末転倒なのかってことですよ。今回の連載はブログ形式で掲載していて、PC用のページしか作ってなかったんですけど、アクセス解析してみたら6割近くの人が携帯電話で読んでいたんです。携帯から見たらデザインなんて全部崩れちゃうし、毎回1万~1万5千字もあるような記事なんだけど、それを通勤途中や歩きながら携帯で読んでくれている。そんなジェネレーションが現れている時代にデザインがどうこう言ってられないですよ。パソコンや携帯、これから電子書籍もはじまって、同じ情報が様々なメディアで読まれるようになったら完成系のデザインって昔ほど大事じゃなくなると思いますね。
――都築さんもWEBで自分のメディアを持つ計画があるらしいですが、そこではどんなことをやろうとしているんでしょうか。
都築 まあ僕がやりたいことって結局、ネット上で読める本っていうことですね。お金があれば紙の方がいいとは思うんですけど……。だってパソコンや携帯がなくても読めるんだから。でもそれには何百倍もお金がかかっちゃうんで。だから紙にしてもネットにしても僕としては”情報”を発信したいだけですね。僕のやってることって報道だと思っているんで、この写真を見てくれ、文章を読んでくれ。それでその場所や人に興味を持ってもらえたらいいのかなって。別に作品として鑑賞してもらいたいわけじゃないですからね。
(取材・文=北村ヂン)
・つづき・きょういち
1956年東京生まれ。76年から86年まで「ポパイ」「ブルータス」(ともにマガジンハウス)誌で現代美術、建築、デザイン、都市生活などの記事を担当。『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』(筑摩書房)で第23回木村伊兵衛賞受賞。日ごろ光の当たらない空間や人々、文化など、ジャンルを問わずリアルな日本社会を切り取り続け、精力的に執筆活動を行っている。
<http://roadsidediaries.blogspot.com/>
知らなきゃ損する極上世界。
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