エハラマサヒロ 「究極の器用貧乏芸人」が無限の笑いをコラージュする
#お笑い #この芸人を見よ! #R-1ぐらんぷり #ラリー遠田
バラエティー番組などで活躍するお笑い芸人には、総合的な能力が求められる。一見、お笑いとは関係ないような趣味や特技が、そのまま仕事に結びつくようなところがあるのだ。その点では、何でもこなせる器用なタイプの人は、芸人に向いているように思われる。だが、必ずしもそうとは限らない、というのがお笑いの難しいところだ。
「R-1ぐらんぷり」で2年連続準優勝を果たした新鋭・エハラマサヒロも、かつてはそのことで大いに悩んでいた。彼の公式ブログのタイトルは「器用貧乏株式会社」である。彼は、自他共に認める「器用貧乏」な芸人の代表格だ。歌って踊れる、ギターも弾ける、物真似もできる。お笑い界広しと言えども、彼のように何でもそつなくこなせる芸人はそれほど多くはない。
ただ、数年前まで、彼は自分のそういう部分にあまり満足していなかった。なぜなら、その器用さを生かして爆笑を勝ち取る方法をつかめていなかったからだ。どんなにうまい歌を聞いても、高度なダンスを見ても、人はそれだけでは笑ってはくれない。そのような特技で笑いを取るための武器にするには、もう一工夫が必要なのだ。
現在のテレビやライブでは特に、即物的な笑いが求められる。観客に声を出して笑ってもらって初めて、彼らの芸は認められたということになるのだ。ただ無言で感心されたり拍手をされたりしても仕方がない。笑わせなくては意味がない。エハラは、器用貧乏な自分をうまく生かし切れず、試行錯誤を続けていた。
そんな中で彼は、自分の器用さの本質がどこにあるのかということを考えた。そして、1つの結論に達した。彼の器用さは、煎じ詰めれば「真似する能力の高さ」ということになる。エハラは、他人の声を聞いたり動きを見たりして、それをなぞって本物そっくりに演じる能力に長けていたのだ。
自分でも言うように、エハラは歌はうまいが、本職の歌手ほどではない。ダンスもできるが、プロのダンサーのレベルにはほど遠い。ただ、まるでプロのように見える歌やダンスを自分に取り入れて即座に演じることはできる。その模倣する能力こそが彼の器用さの根底にあったのだ。
そこで彼は、ある画期的な方法を編み出した。それは、自分が得意とする複数の物真似を組み合わせて、1つのネタを作り上げることだった。そういう形式のネタの典型とも言えるのが、09年の「R-1ぐらんぷり」の決勝で見せた「めっちゃうっとうしいミュージシャン」だろう。
あのミュージシャンのキャラには、エハラの芸のエッセンスが詰まっている。そこに含まれているのは、誰もがどこかで見たことがあると思う共感ネタと、数人の歌手のクセのある歌い方である。彼は、それらを題材にして、面白くて特徴的な部分ばかりをつなぎ合わせて1本のネタにまとめ上げたのだ。言わば、エハラ独自の「コラージュ芸」とでも呼べるような独創的なスタイルを開発したのである。自分の器用さを最大限に生かせるこの手法を開発したことで、彼はR-1準優勝を成し遂げた。
今年も昨年に続き2年連続で決勝の舞台に上がり、またしても準優勝に輝いた。芸歴制限のないR-1で、まだ若手の彼が優勝に迫る活躍を続けているのは快挙と言っていいだろう。ミュージシャンのネタがきっかけとなり、「ミスタードーナツ」のCMにも出演を果たした。エハラは、自らの能力を最大限に生かしたコラージュ芸を編み出すことで、見事にブレイクを果たしたのだ。
単発の歌ネタや物真似ネタを豊富に持ち、それらの素材を細かくちぎって組み合わせて、誰にも真似できない個性的なキャラを生み出すエハラマサヒロ。彼は、新しいスタイルを確立したお笑い界の切り絵職人である。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
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