ボクシング事故に実績のある病院が搬送拒否 問われるJBCの責任とは?
#ボクシング
日本におけるボクシングの聖地と言える東京・文京区の後楽園ホール。これまで業界関係者は「世界で一番安全なボクシング会場」と胸を張っていた。だが、2月に起こった不幸な死亡事故をきっかけに、業界内では「後楽園の安全神話が崩壊したのでは」という不安の声が渦巻いているのだという。一体、どういうことなのか。
「亡くなった選手が、慈恵医大病院と日大病院の両方から搬送を断られたと聞いて驚きました。これまでそんなことはなかったから。今は、ほかのジムの関係者と話すなかでも『これから大丈夫なんだろうか』という話になっている」と語るのは、中堅ジムの会長。
2月19日に後楽園ホールで行われた8回戦でTKO負けした八巻祐一選手は、試合後に意識混濁に陥り、病院に搬送された。急性硬膜下血腫と診断されて手当てを受けたが、22日に帰らぬ人となった。
関係者によれば、試合後、八巻選手はファンにお詫びの挨拶などしながら控え室に戻ってきたが、リングドクターによる試合後のチェックを受けるなかで、急に意識を失ったという。
「ドクターから『今日は何日ですか?』とか『ここがどこか分かりますか?』といった規定の質問をされている最中に、『アレ? 今日は?』などといって意識が混濁しはじめ、そのまま意識を失ってしまったんです」(八巻関係者)
これまで後楽園ホールの試合では、選手が意識混濁などに陥った場合、必ず慈恵医大病院か日大病院の脳外科に搬送されるよう、JBC(日本ボクシングコミッション)が手はずを整えていた。
中堅ジムのベテランスタッフがこう語る。
「この2つの病院には、ボクシングのケガに詳しい専門医がいて、必要ならば事故の40分から45分後には開頭手術が始まるという体制が整っていた。だから後楽園ホールは、世界で一番安全だと言われていた」
とくに慈恵医大に関しては、脳外科の教授がJBCの理事も務めてもおり、ボクシングの事故に対する理解が深く、実績も多かった。
ところが今回、2つの病院に受け入れを要請したところ「手術室が塞がっている」といった理由で搬送を断られ、救急隊員が探した脳外科のある別の病院に搬送されたという。
前出の中堅ジム会長によると、「なかには『一体どういうことなのか』と怒っているジムの会長さんもいて、今度の東日本ボクシング協会の定例理事会で、この問題を議題にしようという話も出ている」というのだ。
ではなぜ今回、今までと違う対応になったのか。
「実は、昨年暮れにJBCのベテラン部長が定年退職したのですが、これまでその部長が、日ごろの付き合いも含めて慈恵や日大の教授など病院の幹部とホットラインを維持していた。それが今回、なかったんです」
JBCの内情に詳しい前出のベテランスタッフによると、これまでは後楽園ホールで試合のある日には、2つの病院のどちらかに専門医が待機するか、待機までしなくとも、専門医とすぐに連絡できて対応が取れる態勢が整えられていたのだというのだ。
「過去には遠距離の出張に出かけようとしていた専門の先生を、急遽、空港から呼び戻して手術してもらったことなどもあったのですが……」(ベテランスタッフ)
ちなみに今回の八巻選手のケースで言えば、試合直後の段階でかなり容態が悪く、病院への搬送時間に問題がなかったため、「たとえ慈恵や日大に搬送されていても助からなかったとは言われてはいます」(八巻関係者)。
とはいえ、今回のリング禍が1952年にJBCが発足してから37件目というなかで、業界内では「(ホールの試合で)最善の手配ができていなかったというのは初めて。なぜそうなったのかは検証しないといけない」(前出の中堅ジム会長)との声が出ているのだ。
一方、JBCの安河内剛事務局長はメディアに対して、「早急に原因の分析を行い、改めて対策の検討をしていきたい」とコメントしている。ところが、その安河内事務局長が、「今回の不手際を招いた」という批判もある。
ある業界関係者は「JBCが定年制を導入したのは安河内氏が事務局長になってから。それで安河内氏の先輩にあたり、苦言も言えたベテランのスタッフが次々とJBCを離れることになった」という。
そのうえで、「昨年末に退職した部長についても、安河内氏は身近な関係者に悪口を話していた。つまり、自分の意に沿わないベテラン職員を、そのノウハウの引継ぎもなしに追い出してしまった安河内氏にも問題があったと思う」と指摘するのだ。
果たして、JBCは業界が納得のできる体制を整え、後楽園ホールの安全神話を再構築できるのだろうか。
(文=原田翔)
手術数で分かるのかしらん。
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