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芋虫、キノコ、魚の内臓……写真家・うつゆみこが創り出すキモカワ・エロのカオス

IMG_4029_f.jpg

 遠くから見ると、かわいらしい猫の顔がアップで写った1枚の写真。手に取り、よく見てみるとギョッとする。「目が、目が……」。これは、現代写真家うつゆみこの写真集『はこぶねのそと』(アートビートパブリッシャーズ刊)のカバー写真である。中をめくると、芋虫やカブトムシやキノコ、魚の内臓たちが、なんとまあ卑猥な姿で登場する。一瞬ゾワゾワっと鳥肌が立ち、思わず目を背けてしまう人もいるというが、よーく見てみると結構笑ってしまう写真の数々。

 うつゆみこが描き出すカラフルでキッチュな独特の世界は、ティム・バートンやジュネ&キャロのようなちょっと特殊なファンタジー、はたまたチェコのヤン・シュヴァンクマイエルのシュールな映像を彷彿させる。

 一度見始めるとクセになる、キモカワ・エロのカオスを描くうつゆみこに、作品の作り方や物の見方、写真に込めた思いを伺った。

──うつさんが描くのは、グロいんだけどちょっと笑ってしまうような不思議な世界で、私はわりと「きもっ」と思いながらもじーっと見てしまうんですが、これはどんなところから影響を受けているんですか?

utsuyumi03s.jpgヘラクレスカブトの幼虫とサンゴを
組み合わせた「リッキー」
(クリックすると拡大表示します)

うつゆみこ(以下、うつ) 見る人によって本当に受け取り方はさまざまなんですが、作品を作り始めた大学時代に好きだったのが、チェコの映画監督ヤン・シュヴァンクマイエルです。もう、最初に見た時から「好き~!」って(笑)。「肉、肉が動いてる~」って思いましたよ。作品としては全部好きなんですが、特に『ファウスト』や『アリス』が好き。それから絵画では、15世紀の宗教画家でヒエロニムス・ボスという人がいて、鳥と人がくっついている怪鳥が人間を食べている姿とか、現実の世界を皮肉ったような作品を描いているんです。あと、それに似た人ではピーター・ブリューゲルも好き。

──うつさんの作品は、結構大変な作業だと思いますが、全部一人で作っているんですか? 使った食材はどうされるのかな、とかいろいろ疑問がありまして(笑)。

うつ 誰か手伝ってくれるといいんですが、ちまちまと一人でやっています。作品を展示する時に、たまに撮影に使った小道具を一緒に展示するんですが、「こんなに小さかったの?」とよく言われます。写真だとサイズ感がよく分からなくなるらしくて。今は、大きな作品でも、だいたいオフィスデスク1個分くらいのスペースにセットを組んで撮影をしています。撮影に使う物は、生モノが多いんですが、残念ながら8割くらいは食べていません。乾燥させて保存できるものはそうしています。

──それはいいことですね(笑)。写真だけを見ると、どんな素材を使っているものか分からない作品が多いんですが、いくつか教えてもらってもいいですか?

utsuyumi01s.jpg「カビダイブ」2008
(クリックすると拡大表示します)

うつ この作品(p117)は、「爽健美茶」にカビが生えたものなんです。お茶ってずーっとそのまま放置しておくと、ほわほわのカビが生えてきますよね。それを丹念に育てて熟成させました。中に沈んでいるのは黄色いクマの人形なんですが、それをお茶の上に置いてどんどん沈ませると、ずぶずぶずぶと茶色のカビを身に纏い、こういう風になります。このカビがついたままのクマは、撮影した後に乾燥させて家にしまってありますよ。あと、「キャットフード曼荼羅」という作品(p110)は、1、5、9、13と4つずつパーツが増えていってそれをコマ撮りのように撮影しているので、全部で170枚くらい撮影しているんですが、結構根気が入りましたね。

utsuyumi02.jpg「キャットフード曼荼羅」2005

──ひとつひとつのヴィジュアルの構想はいつ考えるんですか? ネタを貯めておいたりするんですか?

うつ それはあんまりしていなくて。書いておくと面白くならないんです。でも、素材に使えそうなものは普段から集めていますね。例えば布やフィギュア、リボン、乾物など生モノ以外の素材ですね。撮影をする際には、最初に生モノを買ってきたり、虫を採ってきたりするところから始めて、物と背景を合わせていきます。だから旬のものしか扱えないんですよね(笑)。シーズンをいつも逃しているものとかもあると思います。

 生モノや生き物って触っていてすごく気持ちがいい。子ども時代の泥んこ遊びに近いんですかね。あとは、基本的に動物や虫が大好きで。小さい頃から、父親が、虫とかヘビとかを捕まえてきて飼っていたんです。その影響があるのかも。

──作品のエロ的な部分についてもお聞きしたいです。性についてのド直球な表現も多いですよね。でも、エロい写真もやっぱりコミカルに仕上げている、センシュアルな感じがあんまりしない。

「白子ベイビー」2005(クリックすると拡大
表示します)

うつ 6年くらいヌードグラビアのカメラマンのアシスタントをしているんですよ。なので、人の裸を見るのは日常になっています。あとは、単純にエロが好きなんだと思う(笑)。すごく興味があることだし、そこに対してあんまり羞恥心がないんですよね。だって、キレイじゃないですか。男の人の裸にはあんまり興味がないんですが、女の人の体には興味があります。写真にエロさを感じないのは、精神性をとっぱらって、物とか状況とかをシンプルにシチュエーションを作っているからでしょうね。

――うつさんが作品を通して伝えたいメッセージというのは、物の見方なのでしょうか。

うつ そうかもしれないですね。物をじっと見ると見えてくる面白さがあって、私もそれを発見するのが面白くて写真を撮っているので、それを感じていただければと思います。ゆっくり見ること、ゆっくり考えること。

――最後に今後やりたいことを教えてください。

うつ 今、取り組んでいるのは4×5という大判のカメラで撮影をし始めました。まだ1回しか撮っていないので感触が掴めていないんですが、今後それを使って新しいシリーズに挑戦しようかなと思っています。
(取材・構成=上條桂子/協力=協力:G/P gallery <http://gptokyo.jp>)

●うつゆみこ
1978年東京都荒川区生まれ。早稲田大学第一文学部を中退し、東京写真学園写真の学校入学。05年第25回一坪展入賞、06年第26回一坪展グランプリ、第29回写真新世紀でも佳作を受賞。現在も精力的に作品を発表し続ける期待の若手写真家。
ブログ「うつゆみこの日々のこまごま2」
http://utuyumiko.cocolog-nifty.com/blog/

はこぶねのそと

定価:3675円
発行・発売:アートビートパブリッシャーズ

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最終更新:2010/03/08 18:18
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