愛知・蟹江町の”眼球破裂”通り魔事件 昨年5月「母子3人殺傷事件」と同一犯か!?
#事件 #殺人 #犯罪 #日本"未解決事件"犯罪ファイル
何かが狂ってしまった現代社会。毎日のようにニュースに流れる凶悪事件は尽きることを知らない。そして、いつしか人々はすべてを忘れ去り、同じ過ちを繰り返してゆく……。数多くある事件のなかでも、未だ犯人・被疑者の捕まっていない”未解決事件”を追う犯罪糾弾コラム。
[第10回]
愛知県海部郡蟹江町蟹江本町地内における強盗殺人事件(2009年5月)
今年2月28日午後11時頃、愛知県海部郡蟹江町学戸7丁目の路上で、自転車に乗って帰宅途中の女性が棒のような物で顔面を殴られて左目眼球破裂・頭蓋骨骨折などの全治2カ月の重傷を負い、現金1万8,000円などが入ったバッグを奪われるという”通り魔事件”が起きた。その残忍な手口と痛々しい怪我の具合から、全国でニュースが流されるや否や、すぐさま世間から注目を浴びた。そのなかで、「蟹江町」というキーワードにピンときた人はどのぐらいいただろう。今から約10カ月前、同付近の民家において、母子2人が殺害されて1人が重傷を負うという凶悪事件が発生。少なくとも同県内の住民、警察・マスコミ関係者にとっては記憶に新しい事件である。
09年5月2日午前11時半頃、愛知県海部郡蟹江町のケーキ店に勤務する男性が出勤してこないことから、店長と同僚が2人で同本町地内(今年1月16日から市町村の統廃合により蟹江町城4丁目に変更)の自宅を訪ねたものの応答がなく、不審に思って交番に届け出たことにより、事件が発覚する。
再び店長らと警官が自宅を訪ねてインターホンを鳴らすと、しばらくして鍵を解錠する音が聞こえた。警官が扉を開けると、玄関には憔悴しきった表情の山田勳さん(当時25歳)が首と背中から血を流し、手首を縛られた状態でぼう然としていたという。このとき、警官は玄関付近の廊下でうずくまっている男を見つけて「大丈夫ですか? 出て来なさい!」と声をかけたが、反応はなかったという。警官は勳さんを外に連れ出して保護。そのまま署に事件の報告、救急車の手配をしている間の約2分間に、前述の男の姿は消えてしまう……。
愛知県警は犯人の逃走から約10分後に半径8kmに渡って緊急配備を約50分間敷いたものの、「若い男」「黒っぽい服装」などの基本的な特徴を捜査員に伝えていなかったため、犯人が網にかかることはなかった。ちなみに、この事実は事件発覚後から6日後の8日に公表されたため、同署には批判が集中したが、「ケガをした三男の治療を優先した」「現場保存や鑑識活動を慎重に行う必要があった」「公表しなかったのは捜査上の秘密と判断した」「住民を混乱させたくなかった」「確実な情報ではなかった」などと説明。初動捜査のミスは頑として認めなかった。
その後の警察の調べによると、三男の勳さんは前日午後7時50分頃まで勤務先の清涼飲料関係会社で仕事をしたあと、一旦8時頃に帰宅。服を着替えて友人と飲みに出かけ、深夜2時半頃に帰宅して玄関で靴を脱いでいたとき、背後から男に襲われ、着ていた服をたくし上げられたあとに手首を電気コードのような物で緊縛されたという。勳さんは「犯人ともみ合いになった際、一度刃物を奪った。足に当たったかもしれない」と話している。犯人は血液の付着した包丁や遺留品の一部を脱衣所の洗面台で洗い、浴槽に水を溜めて衣類を洗い流した。さらに洗濯機にはTシャツやタオルが放り込まれていた。勳さんの証言によれば、長時間居座り続ける犯人に理由を尋ねたところ、「血の付いた服を洗うまで帰れない」と答えたという。洗濯機が動いていたという証言から、犯人は出血したため、または返り血を洗い流すため、自分の衣服を洗濯したものと見られている。追加の洗濯物は洗い忘れたか、時間がなかったか、どちらかの理由によるものだろう。
そして、同自宅の1階からは、ケーキ店勤務の次男・雅樹さん(当時26歳)が顔を激しく殴打されて背中を刺された上に、首を絞められた状態で亡くなっているのが発見された(死因は左肺動脈切断による出血性ショック)。この時点で警察による公式発表があり、一部マスコミの速報では「3人暮らしの母親が行方不明」とされたため、まるで、逃走中の犯人のごとく扱う報道まであった。しかし翌日、1階の押し入れの中から母・喜保子さん(当時57歳)の遺体を発見……。愛知県警は犯人逃走を許したことに続き、2つ目の大失態を犯してしまう。このことについても、特別捜査本部は「犯人の遺留品と証拠収集に神経を使い、優先したため」と説明して遺族や関係者の感情を逆撫でした。
検視の結果、喜保子さんはモンキーレンチ(スパナ)で複数回に渡って強打され、頭蓋骨まで砕けていたという(死因は外傷性脳障害)。さらにヒモ状の物で首を絞められ、両腕には抵抗したときについたと見られる打撲痕、背中には鈍器による擦過傷(当初は「刺し傷」と発表されていた)が残されていた。そして、母殺害後に殺されたと見られる飼い猫と一緒に、押し入れの中に肌着1枚の姿で隠されていたという。遺体は毛布でくるんであったが、これは犯人の良心ではなく、自分の手や着衣を汚すのを嫌ったためではないかと思われる。喜保子さんは1日の午後9時頃に友人と電話で話していて、日頃は9~10時に就寝する習慣があったため、就寝直前に襲われた可能性が高い。また、雅樹さんは9時半頃に自宅から約8km離れた職場を出ているので、車で帰宅した推定時刻は9時45分頃。警察の調べにより、10時に同僚の女性が携帯電話に連絡したものの、応答がなかったことが分かっているため、すでにこのとき殺害されていたものと見られている。
わずか1時間足らずの間に家族2人を殺害した犯人は、そのまま現場を去ることなく、その4時間半後に帰宅した勳さんを襲い、さらに約10時間も居座り続け、喜保子さんが息子たちのために作った食事をすべてたいらげている(食器から唾液を検出)。勳さんが目を醒ましたとき、「早く帰ってくれ」と告げたが、犯人は「まだやることがある」と答え、母と次男が殺されたことを聞かされた勳さんが動機を聞くと、”たまたま金目当てで襲った”という意図の返事だったという。この会話で勳さんが気付いたのが、犯人は外国人のようなイントネーションの話し口調だったこと。そして、顔も一瞬だけ目に入ったが、顔見知りではなかったということ。結局、犯人は3人の財布から現金を抜き取ったものの(当初の発表では「現金は手付かず」とされていた)、喜保子さんのタンス預金60万円は見つけることができなかったようだ。勳さんを生かしておいたのは、何とか大金をせしめたかったからだろうか。長時間、犯行現場に居座り続けた事件と言えば、00年の大晦日に発生した”世田谷一家殺害事件(上祖師谷三丁目一家4人強盗殺人事件)”に類似しているが、血液型が異なるため同一犯の可能性は限りなく低い。それよりも、このゴールデンウィークに起きた惨劇から10カ月後に近辺で起きた先述の”通り魔事件”が気がかりでならない。もしも同一犯だとすれば、緩い捜査の目をかいくぐって近隣に居座り続け、凶行を繰り返していることになる。これ以上、同じ犯人や模倣犯による被害者を増やさないために、愛知県警特別捜査本部の奮起を期待したい。
(取材・文=神尾啓子)
<事件詳細>
被害者:山田喜保子さん(死亡)、雅樹さん(死亡)、勲さん(重傷/当時)
犯人の特徴:20歳代、血液型O型、身長170~175cm、中肉中背、坊主頭を伸ばした感じ
犯人の衣服:パーカー(前面に「who involves」ほか英語の長文/色はMOKU GRAY/サイズLL/03年11月~04年2月に全国の大手スーパーで約450着を販売/価格1,029円)、マスク(使い捨ての不織布マスク)
犯人の遺留品:モンキーレンチ(商品名は「ワイドモンキレンチ・エコワイドHY42」/2005年12月~全国のホームセンター・工具店などで発売中/価格5,010円)、クラフトナイフ(サイズL型/79年7月~全国のホームセンター・工具店・文具店などで発売中/価格630円)、紳士用ジャージ二重手袋(全国のスーパー・ディスカウントショップなどで発売中/価格1,000円程度)
公訴時効成立:2034年5月1日
<情報>
懸賞金:300万円
(平成22年12月9日まで)※延長の可能性あり
<連絡先>
愛知警察署特別捜査本部
TEL.0120-011-076
蟹江警察署
TEL.0567-95-0110(内線332番)
逃げ切れないよ!
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