仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』
#映画 #仲里依紗 #邦画 #パンドラ映画館
映画は残酷なメディアだ。原田知世主演作『時をかける少女』(83)を観る度にそう思う。27年前の作品ながら、撮影時15歳だった原田知世の輝きは今なお色褪せることがない。しかし、その美しさは、ちょっとした環境の変化にも耐えられない希少種の蝶のようなはかなげなもの。その後の原田知世は『時をかける少女』で演じた芳山和子のイメージを引きずりながらも、『私をスキーに連れてって』(87)、近年も『さよならCOLOR』(05)、『紙屋悦子の青春』(06)、『となり町戦争』(07)と活躍しているが、当然ながら映画の中の芳山和子は時計の針が止まったかのように成長することがない。青春映画の名作として誉れ高い大林宣彦監督の『時をかける少女』には、クロロホルムをかがせた美しい蝶をピンセットで愛でるような危険な香りが漂う。そんな陰性の魅力をたたえたオリジナル版に対し、仲里依紗主演による実写版『時をかける少女』はエネルギッシュな陽性の魅力が溢れる作品となった。
筒井康隆が1967年に発表した同名小説をベースにした映像作品は、これまで浅野真弓(72年『タイムトラベラー』)、原田知世(83年)、南野陽子(85年)、内田有紀(94年)、中本奈奈(97年)、安倍なつみ(02年)らがヒロイン・芳山和子を演じてきた。細田守監督による劇場アニメ『時をかける少女』(06)で芳山和子の姪・紺野真琴として声優を務めた仲里依紗だが、谷口正晃監督による実写版で演じるのは芳山和子の娘・芳山あかり役。思い込んだら後先考えずに走り出す、直情型の現代っ子。母親想いだが、タイムリープする年代を間違えてしまうドジっ娘という、従来の芳山和子像と異なるキャラクターだ。
74年の世界で大学生の涼太(中尾明慶)と
知り合う。涼太が自主製作する8mm映画を
あかりは手伝うことに。
中学生のときに不思議な体験をした芳山和子(安田成美)は薬学者となり、タイムリープを可能とする新薬の開発に成功する。しかし、運悪く事故に遭い、昏睡状態に。母親が中学のときに出会った初恋の男性のことを今も想い続けていることを知った娘の芳山あかり(仲里依紗)は、母親の代理として70年代にタイムトリップ。しかし、そそっかしいあかりは到着する年代を微妙に間違ってしまう。たまたま出会ったお人好しの大学生・涼太(中尾明慶)や高校時代の母親・和子(石橋杏奈)らを巻き込んで、母親の初恋の相手である深町一夫を探し回る。
タイトル通り、劇中の仲里依紗はしゃにむに走る。オープニングから、タイムリープしながら、そして70年代に迷い込んでからも母親の初恋を成就させようと懸命に走る。公開を控えた仲里依紗に話を聞く機会があった。中学時代は走るのが苦手で、50m走は11秒台だったそうだ。「まずピストルの音にビビって、出遅れちゃう(苦笑)。そんな私ですが、芳山あかりとして走ると意外と颯爽と走ることができました」と笑う。
原田知世と同じ長崎県出身の仲里依紗は、不思議な女優だ。黙っていると美少女だが、しゃべり出すと親戚の女の子みたいに気取りがなくなる。細田監督の『サマーウォーズ』(09)では子持ちのオバさん役を嬉々として演じていたが、普段の彼女もそんな感じ。その一方、女優モードにスイッチが入ると、別人になりきってしまう。第30回ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞を受賞した『純喫茶磯辺』(08)での口喧嘩シーンでは、共演の麻生久美子を半泣きさせるほどの迫力を見せた。当の本人は演技中は意識がなく、”プチ記憶喪失”状態らしい。きっちり役づくりしようとするとロボットみたいにぎこちなくなるので、自分が現場で感じたまま、素直に笑ったり泣いたりしているそうだ。本作のクライマックスでは8mm映画を観ながら涙を流すシーンがあるが、「自分の中の誰かが泣いていたような感覚」だったらしい。
今回の『時かけ』はタイムパラレル的な面白さよりも、89年生まれの女優・仲里依紗を70年代の風俗の中に置いて、彼女がどういうリアクション、表情を見せるのかを楽しむといった趣向がメーンとなっている。コタツに入って袋入りラーメン(サッポロ一番)を鍋から美味しそうにすすり、銭湯でフルーツ牛乳をこぼして目を白黒させるシーンなどは、ほとんど素の表情だろう。大林宣彦版へのオマージュである弓道場でのシーンも、テスト段階でのNGカットの表情があまりに良かったのでOKテイクとして採用されている。10代最後の時間を過ごす仲里依紗が『時かけ』という舞台上で走って食べて泣く姿をカメラが追いかけるドキュメンタリーを観ている気分になる。
仲里依紗いわく、「映画の中の私を観て、生き生きしてるなぁと思った(笑)」とのこと。『時かけ』というフィクションの世界で、芳山あかりという一種の”アバター”を得て、彼女は現実世界よりも、もっと自由でキラキラと輝いてみせた。これこそ、映画のマジックだろう。
アニメ版に続いて、実写版で新しい『時かけ』ヒロイン像を築いた仲里依紗だが、三池崇史監督の『ゼブラーマン2 ゼブラシティの逆襲』(5月1日公開)では180度違ったダークサイドの女王さま役に挑んでいる。『ヤッターマン』(09)で深田恭子が演じたドロンジョさまより過激でセクシーらしい。ひとつのイメージに囚われることなく、作品ごとにいろんな役に飛び込んでいく彼女の姿には頼もしさを感じさせるではないか。
新世紀版『時をかける少女』では仲里依紗扮する芳山あかりの生命力に感応して、長い間止まったままだった時計の針が動き出した。ずっとラベンダーの香りの中に閉じ込められたままだったフィクション上の芳山和子を、彼女はとにかく全力疾走するという過剰なエネルギーを持って解放してみせた。歴代の『時かけ』ヒロインたちとは違った自然体で陽性の魅力を持った仲里依紗は、これから一体どこまで女優道を駆け抜けていくだろうか。
(文=長野辰次)
●『時をかける少女』
原作/筒井康隆 脚本/菅野友恵 主題歌・挿入歌/いきものがかり 監督/谷口正晃 出演/仲里依紗、中尾明慶、安田成美、青木崇高、石橋杏奈、千代将太、柄本時生、キタキマユ、松下優也、勝村政信、石丸幹二 配給/スタイルジャム 3月13日(土)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー <http://tokikake.jp/>
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