妖怪並みの衝撃! 変態おじさんとの思い出がフラッシュバックする『バカ男子』
#本 #妖しき本棚 #田辺青蛙 #清野とおる
「日本ホラー大賞短編賞」受賞の小説家・田辺青蛙によるオススメブックレビュー。
僕は実はあまりその手の話は信じないのですが、ここしばらく洒落になんないほどヤバイ事件のドキュメンタリー本や、怪談、ホラーの本ばかりを読んでいました。するとまあ、不思議。夜中に全身蕁麻疹が出るわ、犬が盗まれるわ(マジ)、今年3回目の風邪に感染するわ、治ったと思ったら花粉症だよと酷いことばかりが続いたので、今回ご紹介する本は、ちょっと毛色の変わった明るい? 本にしました。
清野とおるさんの『バカ男子』は、著者の小学校から成人式までの、思い出すとちょっと痛々しくて笑えるエピソードについて描かれています。同級生への著者の愛溢れる酷い仕打ちや、中学生の時にヨーグルト教の教祖になる話なんかも滅茶苦茶面白いんですが、やっぱり秀逸なのは、ご近所の変態さんに関する記録です。
『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン刊)などでも知られる、清野さんのちょっとアレな感じのおっさん描写は、ページを開いた瞬間どこから突っ込めばいいのか分からず、軽い混乱を引き起こしてしまいそうになるほど凄いです。
例えば、「ケツおじさん」は、白いブリーフ姿に革靴、手には黒いアタッシュケースを持ったおじさんで、子どもたちに存在を気づいてもらえるまでずーーっと塀から尻だけを突き出して待っていたそうです。って、こう書くと何か妖怪のようですね。
そういえば、お化け変態説というのがありまして、妖怪の一部は地元にいた変態さんが元になっていたというお話もあるとか無いとか……。他にもこの本の中にはもっと、もっと酷い変態のおじさんについて描かれていますので、その手の話が好きでたまらんって人にはお勧めです。
昔、僕の住んでいた町にも小学校の頃、変態四天王と呼ばれるおじさんがいました。人によって、四天王の呼び名や姿が違ったので、本当に4人いたのかどうかは不明ですが、その中の1人に出会ったことがあります。その人はタンポポおじさんと呼ばれていました。セーラー服を着たおじさんで、頭にはタンポポで作った冠を載せていたことからついた呼び名と思われます。そして何故か、春にしかその姿で現れない人でした。
大阪のS区にあった、S町の公園で遊んでいた時のことです。ビービー弾の透けたのを、1人で夢中になって探しながら拾っていると、柔らかい声で「タンポポ、タンポポ、わたしはタンポポ」という自作と思われる歌をうたいながら、タンポポおじさんが佇んでいました。正直、トトロに出会ったとしてもあれだけ驚けたかどうか……。
「ボウヤと一緒に遊んでもいい?」という声を背中に受けながら、全速力で走って家に帰ったのを覚えています。だって、当時の僕にとっては学校で噂されている怪人になんの心の準備もなく、生で出会ってしまったわけですよ。隣にいきなり口裂け女が立っていたようなものです。
軽いトラウマを思い出したりしながら、ああ、集めたなあ「ビックリマン」シールとか、この時代はまだイカれたこういう先生いたよなぁ……と現在20代半ばから30代はじめの人には懐かしいと感じれる「バカ男子」。他の世代の人でも、次々と出てくる大人気ない大人や、変態さんの登場は間違いなく楽しめると思います。
そんなわけで、同じ80年代のひねくれっ子として、勝手に今後も清野とおるさんを応援しようと思っています。
あと、洒落にならんほど怖い本は、後日体調と相談しながらご紹介していこうかなと考えています。
※犬は後日無事保護されました。
(文=田辺青蛙)
●たなべ・せいあ
「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)も好評発売中。
男はバカなんです。
■「妖しき本棚」INDEX
【第5回】「げに美しき血と汚物と拷問の世界に溺れる『ダイナー』
【第4回】「グッチャネでシコッてくれ」 河童に脳みそをかき回される『粘膜人間』
【第3回】なつかしく、おそろしく、死と欲望の詰まった”岡山”を読む『魔羅節』
【第2回】“大熊、人を喰ふ”史上最悪の熊害を描き出すドキュメンタリー『羆嵐』
【第1回】3本指、片輪車……封印された甘美なる”タブー”の世界『封印漫画大全』
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