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『TAJOMARU』DVD発売記念インタビュー(後編)

“小栗旬の後見人”山本又一朗が明かす『TAJOMARU』の過剰すぎる舞台裏!!

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■前編はこちらから

──今回の『TAJOMARU』ですが、中野裕之監督の8年ぶりの長編映画というよりも、むしろ山本又一朗カラーが前面に出ている作品だと感じます。

又一朗 そうですか、そうかもしれませんね(笑)。今回、中野監督はきっぱり割り切って引き受けてくれたんです。もう、この『TAJOMARU』はクランクインに至るまで、七転八倒の連続でした。最初、この企画は豊田利晃監督を予定していたんです。豊田監督は主にインディペンデント系の作品を撮っているけど、彼の作風がボクは好きなんです。それで、ボクと豊田監督とで丁々発止で創れば、面白いメジャー作品ができるんじゃないかと思ったわけです。


──豊田監督から『蘇りの血』(09)の前に大作の準備に取り組んでいたと聞いていましたが、『TAJOMARU』だったんですか……。

又一朗 最初の脚本は市川森一さんに書いてもらって、文芸作品として素晴らしい脚本ができあがったんです。それで自信を持って東宝に持っていきました。そのときに「素晴らしい脚本ですが、これでカンヌ映画祭で賞でも狙うつもりですか? これだとインテリ層にしか訴求しないですよ、きっと。なのに、こんな大作予算じゃあ回収できない。大体、主演の小栗さんのファンと芥川龍之介や黒澤明監督の『羅生門』(50)が好きな層とはかけ離れていますよ」と言われてね。確かに言われてみれば、そうだなと。もっと大衆好みの作品にしなければいけない。そこで豊田監督に脚本を手直ししてもらうことにしたんです。

 豊田監督のやろうとしていた方向性は、市川森一さんの上質な脚本世界とはまた違った、アンダーグランド的な面白さのあるものだった。その作品をメジャーなエンタテイメント映画に修正していくことで、いろいろな問題が生じてくるわけです。豊田監督はギリギリまで頑張ってくれたんですが、あまりに時間がなかった。脚本の上がりを徹夜で待っていたある朝4時に「もうダメです。これ以上は……」とギブアップのメールが届いた。

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──すでに撮影のスケジュールが組まれた段階だったんですね?

又一朗 クランクインの1カ月前です。1カ月前に監督だけでなく、脚本も白紙状態になってしまった。これは通常どういうことかと言うと、「この映画はもう流れた」ということですよ。でも、外部の人間には誰にも言えませんでした。そこで一大決心をしたんです。クランクインを15日間後ろにズラして、2カ月間の撮影期間を1カ月半にしようと。そのためには予算も縮小しなくてはいけない。最大のセットだった足利義政の御所だけでも5,000~6,000万円かかるから、御所とその周辺のシーンをカットすれば1億2,000万円は予算を削れると。でも御所をカットするということは、足利義政役のショーケン(萩原健一)の出番もなくなるということ。

 ショーケンとは古くからの付き合いで、彼はこの作品で俳優として再起することになっていた。「又さんに声を掛けてもらった!」とショーケンは大変な気合いの入れようだった。映画そのものが流れたならまだしも、「ショーケンの出番はなくなったから」なんて言えませんよ(苦笑)。そこで現場で予算を管理しているプロデューサーに、「今、この映画を中止にしたら、いくらの損失になるか?」と尋ねたんです。「今なら、6,000万円の損失で済みます」と。そこで「よし、1億円捨てる覚悟でやろう。あと4,000万円までは捨てていい」と。昨年はそこそこ稼いだので、何とかなるだろうと。そこで再スタートを切ることにしたんですが、そこでまた問題が……。

──撮影を1カ月後に控えたメジャー作品が、監督も脚本も宙に浮いているという驚愕の事態。ここから山本又一朗プロデューサーの大綱渡りショーが始まるわけですね!

又一朗 監督に関しては、中野裕之監督の名前が浮かびました。『SFサムライ・フィクション』(98)などで見せた彼の映像センスはすごく好きだし、数多くのPV作品を撮ってきたことで現場経験を積んでいる。実は中野監督は別の作品を撮ることになっていたのですが、諸事情があったらしく流れてしまった。オレさ、もういい年齢だから、本当のことしか話さないよ(笑)。取り繕ったこと言っても、仕方ないからね。それで中野監督にスケジュールが空いてるなら、オレのをやってくれ。助けてくれよと頼んだんです。そこまで言うなら、と中野監督は非常に厳しい現場だということを分かった上で引き受けてくれたんです。

 先ほど山本又一朗カラーが強いと言われましたが、確かにそうかもしれませんが、同時に現場能力に長けた中野監督じゃないと完成しなかった作品でもあるんです。マスターショット(一度に複数のカメラを回して、さまざまなアングルを撮り切る手法)でやろうと提案してくれたのは、中野監督です。フィルム代がかさむけど、フィルム代を惜しんでいる場合じゃなかった。1カ月半という短期間で、これだけ豪華な作品に撮り上げてくれた中野監督には大感謝ですよ。

tajo_sub04.jpg(c)2009「TAJOMARU」製作委員会

──監督を決めている間に、脚本作業も進めていたわけですね。

又一朗 市川森一さんの脚本に合わせて、すでにセットは発注していたので、完成済みのセットを生かした新しい脚本が必要だった。鎌倉にいる脚本家の一色伸幸さんに声を掛けて、4日間という短期間でプロットを書いてもらったんです。でも、そのプロットだとセットも新しく作らなくてはいけなかった。新しくセットを作る時間も予算もありませんよ。鎌倉まで押し掛けて、一色さんと話しました。一色さんは「今のプロットなら3週間で脚本にする。でも山本さんの言う内容なら、2カ月くれ」と。そりゃ、当然です。脚本家として、きちんとテーマを咀嚼した上で書き上げたいと考えるのは当たり前ですよ。

 脚本完成が白紙に戻ってしまい、鎌倉から帰る途中でワインをしこたま飲んだんですが、そのときに車を運転してる秘書から「これはもう社長が自分で書くしかないですね」と言われた。「ふざけるな、オレにできるわけがない。製作の仕事は甘くないんだぞ」「でも脚本なしじゃあ、全ておしまいじゃあないですか」「ごもっとも」なんて、やりとりがあってね(苦笑)。東京に戻って、絶望的な夜をひと晩寝たら、ムラムラムラッとエネルギーが湧いてきた。

──確かに『あずみ』(03)、『あずみ2 Death or Love』(05)では水島力也名義で脚本を執筆されています。

又一朗 2週間マンションに篭って、ぶっ続けでパソコンに向かったんですが、途中でストーリー上の矛盾にぶつかって、一度書いた脚本を全部棄てなくてはいけなくなった。一瞬、神経が拡散するというか、頭が収拾つかなくなり自失寸前。「あっ、まずい。オレ、発狂するな」と思いましたね。とりあえず、携帯電話と財布だけ手にして、外に飛び出した。ヒゲボーボーでサングラスをしたパジャマ姿の男が、目深に帽子をかぶって街を歩いて来たので、すれ違った人たちは「狂人が歩いている」と思ったんじゃないですか(苦笑)。しばらく歩いてから、四国にいる実兄に久しぶりに電話して1時間ぐらいしゃべっていたら、心が落ち着いてきてね。マンションに戻ってからシャワーを浴びて、河口湖までドライブして、翌日と翌々日は休みました。のんびりデパートで買い物などしてね。

 そうしていたら、見せ場のひとつとなった森の中の真実……、大どんでん返しのお白州のシーンへつながる一連のアイデアを思い付いて、「神はまだオレを見捨ててないぞ」ってわけで物語の辻褄がうまく合ってきた。それから後はもう、「発狂してもいいから書き上げよう」と覚悟を決めて一気に脚本を書き進めたんです。撮影の早いシーンから、1ページごと現場に渡していくという調子でしたよ。

tajo_sub03.jpg(c)2009「TAJOMARU」製作委員会

──スタッフも時間がない状況の中で、よく対応できましたね。

又一朗 脚本が書き上がる前にね、スタッフの怒りが爆発しそうになったんです。監督はどうなったんだ? 脚本はあるのか? スケジュールを空けて待ってくれているスタッフたちも気が立っていた。そこで、メーンスタッフを集めて、昔、日活の専務だった江守清樹郎さんから「石原裕次郎と酒を飲んで話した内容が、3カ月後には映画になって公開されたもんだよ」と聞かされたことを話したんです。この話は”昔のスタッフはすごかった”ということではなく、”どんなに時間がなくても、間に合わせてみせるのがプロだ”ということですよ。「みなさんには迷惑かけますが、ひとつそのことを胸にお願いします」と頭を下げました。結局スタッフは誰ひとり辞めませんでしたよ、ハハハハハ。

 クランクインまでのエピソードだけで充分に面白い『TAJOMARU』の舞台裏。実はこの後、『ベルサイユのばら』『アメリカン・バイオレンス』『Mishima』にまつわる武勇伝も拝聴したのだが、面白すぎるため、後日改めて追加取材した上で掲載することになった。せっかくなので、中締めとして映画プロデューサー・山本又一朗氏の考え方が凝縮されたコメントを紹介したい。

又一朗 映画はお金さえあれば、素人でも創れるというものではありません。プロデューサーという仕事の難しさは、すべて見込みでやらなくてはいけないということ。監督に話をすると、「配給は決まったの? 製作費は集まったの?」と尋ねられます。役者のところに行くと「監督は決まったの? 脚本はもうあるの?」と尋ねられます。配給会社に行くと「キャスティングは決まってるの? 制作費は大丈夫なの?」と。どれも未確定の状態で、みんなをウンと言わせなくてはいけない。「もう、決まっています」というとウソになるので、「もう、決まったようなもんです」と答えます。でも、これもウソですよ(笑)。そこから映画づくりは始まるんです。

 原作、脚本、キャスト、スタッフ、配給会社、そして資金。これらの要素が限られたスケジュールの中でひとつに収まるようにしなくてはならない。どれか、ひとつが欠けても大変なことになる。それを成り立たせるにはプロデューサーに力も必要だし、技もなくちゃ務まらない。でもいちばん大切なことは、みんなから信頼されるということ、そしてその信頼を裏切らないということなんですよ。

 ホラを吹きながら、同時にみんなの信頼に応えるという摩訶不思議なる職業、映画プロデューサー。山本又一朗さん、小栗旬監督作『シュアリー・サムデイ』公開の折には、さらなる伝説をお待ちしています。
(文=長野辰次)

やまもと・またいちろう
1947年鹿児島県出身。さいとう・プロダクションなどで劇画原作の修行を積んだ後、映画・テレビ業界へ。映画プロデューサーとして、オールフランスロケによる実写『ベルサイユのばら』(79)、皇居前での撮影を敢行した『太陽を盗んだ男』(79)、近藤真彦と中森明菜が禁断の共演を果たしたスピリチュアルムービー『愛・旅立ち』(84)、カンヌ映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞しながら日本未公開となった『Mishima』(85)などの衝撃作、問題作を次々と製作。近年は水島力也名義で『あずみ』(03)、『あずみ2 Death or Love』(05)の脚本も手掛けている。芸能プロダクション「トライストーン・エンタテイメント」の代表取締役でもあり、所属俳優・小栗旬を『クローズZERO』(07)、『クローズZEROII』(09)でスター俳優へと育て上げた。最新プロデュース作は、小栗旬の初監督映画『シュアリー・サムデイ』(今夏公開予定)。

TAJOMARU
原作/芥川龍之介 監督/中野裕之 脚本/市川森一、水島力也 プロデューサー/山本又一朗 主題歌/B’z 出演/小栗旬、柴本幸、田中圭、やべきょうすけ、池内博之、本田博太郎、松方弘樹、近藤正臣、萩原健一 発売・販売元/アミューズソフトエンタテインメント 通常版¥3,990円(税込み) 発売中
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最終更新:2010/03/03 00:05
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