風・雲・雨・空・雪にまつわる言葉1500語を収録した『てんきごじてん』
#本
大人になってから、四季の移り変わりを肌で感じているだろうか。
桜のつぼみが膨らみ、咲き乱れ、風に飛ばされ空を舞い散っていく春。ねっとりとした重みを持った空気に包まれ、太陽がカーンと照りつける夏。澄んだ空気に、黄、赤、オレンジなど、色鮮やかに葉の色が変化していく秋。そして、グレーに覆われた静かな空から、真っ白な雪がはらはらと舞い降りる冬。
古来より、日本人は自然をこよなく愛し、その小さな変化を大切にとらえ、表現してきた。本書では、春夏秋冬、そして風・雲・雨・空・雪の気象にまつわることば約1500語を写真とともに紹介している。そのどれもが、気象の様子を見事に表していて、これほど多くの言い回しがあるということに驚かされる。
風を例に挙げてみると、「薫る風」(かおるかぜ)若葉の間を吹きぬけて、初夏の香りを運ぶ風。「瑞風」(みずかぜ)みずみずしい風。吉兆を表す、めでたい風。「青風」草木や水の上を吹く風。青々とした木々、水の上を吹きすぎる春の風。「軟風」(なよかぜ)しなやかでやわらかく吹く風。
どれをとっても、なんて爽やかでイメージが浮かぶ言葉なんだろう。
それとは対照的に、暗くて恐い様子を表す雲の言葉もある。「黒雲」「邪雲」「怪雲」は字面の通り、いずれも不吉なことが起こる前に現れるとされている。もちろん「綿雲」「鱗雲」「入道雲」など、心がほんわかとする雲もある。
この『てんきごじてん』は、タイトルの”じてん”という言葉が指す通り分厚い本だが、ほとんど全てのページに空の写真があり、写真集的要素も強いので、あっという間に読むことができる。
写真を提供しているのは、今注目の若手写真家・鈴木心氏。広告や雑誌などを中心に活躍する傍ら、自身の作品作りにも取り組んでいる。今回使用された写真は、何年にも渡り撮りためたものの中から厳選した約80点。
どれも想像力をかきたてるような写真で、その上に短く添えられた言葉が、さらに強く印象を残す。
日本人が古くから大切にしてきた、季節の移り変わり、そして刻々と変化していく気象をとらえた「てんきご」。いつの時代からか、今に至るまでに途切れず伝わった言葉を知ることで、改めて日本語の美しさを実感できる。その日の気分で思い思いにページをめくり、何度でも繰り返したくなる一冊だ。
外はどんな様子だろうか。まもなく、新しい季節が始まろうとしている。
(文=上浦未来)
●鈴木心(すずき・しん)
1980年、福島県生まれ。写真家。広告、雑誌を中心に活動。エプソンカラーイメージングコンテスト藤原新也賞、第24回ひとつぼ展写真グランプリ、キャノン写真新世紀佳作(森山大道選)ほか、多数の受賞歴を持つ。広告、雑誌の写真制作とCMムービー撮影をする傍ら、自身の作品制作を行っている。作品集として『鈴木心 写真』(発売元:ブルーマーク)がある。
言葉で楽しむ日本の四季
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