蝶、タコツボ、UFO? 世界のAmazingな住居を集めた『可笑しな家』
#本 #建築
幼いころ、『ヘンゼルとグレーテル』に出てくるお菓子の家に、憧れた経験はないだろうか。大人になった今、想像すると「蝿がたかりそうだなあ」「中性脂肪が溜まりそうだなあ」と不粋なことを考えてしまうが、あんな家があったら、さぞかし楽しいことだろう。一国一城の主は、男の夢だと言うものね。
今回紹介するのは、お菓子の家ではなくて『可笑しな家』。建築家の黒崎敏氏が、世界の奇妙な家60軒を収録・解説した写真集だ。東西南北、手作りの家から、名高い建築家による家まで多種多様。不思議な意匠を凝らした家々は、見る者を圧倒するような存在感に満ちている。家の内部、全体像、俯瞰写真、とさまざまな角度からの写真があり、可笑しな家の構造が手に取るように分かる。詳細なコメントに断面図、間取り図も備えた親切設計の本である。
現在、日本は没個性的なプレハブ住宅で溢れているが、世界には珍妙で個性的な家が数多く存在する。巨大な岩に寄生するポルトガルの「岩の家」、海辺の草原の下に潜り込んだ「草屋根の家」など自然と上手く調和したもの、イギリスの「蝶の家」、フィンランドの「妖獣の館」など遊び心満載のもの、どれも世界に二つとないデザインだ。奇抜なデザインでも、どれひとつ”浮いた”ものはなく、環境としっかりフィットしている。断熱、日照など、機能性に優れている点も大きなポイントだと言える。家主も怖がる地上15mのヤシの木の上に作られた「ミノムシの家」は、あまり機能的とは言えないけども。
それぞれの家主は、一体、何を思って可笑しな家を建てたのだろう。訪れた者に「?」マークを浮かばせ、「してやったり」という家主の遊び心か、はたまた強烈な自己主張か。可笑しな家の設計は、建築家の創意・技術の結晶であり、家主の人生哲学の実践であると言える。収録の60軒中、名作もあれば、中には首を傾げたくなる迷作もある。それでも、家主が頭を悩ませ、試行錯誤した結果の家は、妙な自信に溢れている。実に、可笑しな家は可笑しな家主その人であるのだ。建てた家主の顔を想像しながら、世界のキテレツ住居を眺めよう。
(文=平野遼)
・黒崎敏(くろさき・さとし)
1970年、石川県金沢市生まれ。建築家、一級建築士。94年、明治大学理工学部建築学科卒業後、工業化住宅の新商品企画開発に従事。00年、APOLLO一級建築士事務所設立。現在、代表取締役、日本大学理工学部非常勤講師。都市住宅や集合住宅を中心に、大小様々な建築を手掛ける一方で、都市や建築に関する記事を雑誌に執筆中。代表作に『SEVEN』『DINO』『REF』など。
へんてこです。
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