宇多丸さんの至言「人にはだいたい『ちょうどいい』ところがあるんです」(前編)
#インタビュー #対談 #サブカルチャー #小明 #大人よ教えて!
モテない、金ない、華もない……負け組アイドル小明が、各界の大人なゲストに、ぶしつけなお悩みを聞いていただく好評連載。第10回のゲストは、ミュージシャンだけでなく、アイドル評論家としても有名な、ライムスターの宇多丸さんです!
[今回のお悩み]
「アイドルのキラキラ感が欲しいです……」
──先日初めてライムスターのライブに行かせてもらったんですけれど、素晴らしかったです!
宇多丸(以下、宇) ……本当ですかぁ?
──嘘ついてどうするんですか! 私、ヒップホップってちょっと怖いイメージがあって苦手だったんですけど、そういう偏見を持っていた自分がいかに愚かだったか思い知らされました!
宇 いやいやいや(恐縮して)!
──ステージの宇多丸さんを見たら、なんで今までずうずうしく、馴れ馴れしくしゃべってたんだろうって激しい自己嫌悪に襲われて……本当失礼しました!
宇 あはは! 何言ってるんですか! でも、小明さんはヒップホップとかは苦手だと思っていたから、あの日は会場にいらっしゃったのに最初は気付かなかったですよ。
──ええ、打ち上げパーティー的な席で完全に目があって挨拶しているのに気付かれなくって、私の影が薄いせいだと反省してたら「あ! どうもサーセン! サーセン!」ってすごい礼儀正しい挨拶をしていただいて(笑)。
宇 いやいや、ああいう場に小明さんがいるわけがないって脳が勝手に決めてるんですよね。で、挨拶してから「……あれ!?」って感じで、申し訳ない!
──いえいえいえ! でも、本当最高でしたよ! 特に新しいアルバム『マニフェスト』にも収録されたシングル「ONCE AGAIN」の「♪夢、別名、呪いで」っていうフレーズ、すごいと思って!
宇 いや、本当そうですよ、うん!
──私はアイドルを目指し始めたときは、若さゆえの変な自信みたいなのがあったので、自分は将来きっと大きな何かになれるような気がしてたんです。でも、半ば過ぎから「あ、これは駄目だな!」って気づいて、ずっとそれに縛られ続けて、寝ても脂汗をかいて起きたりで……もう、呪いですよ、完全に。本当素晴らしい歌詞だ!
宇 そうなんですよ。でもまぁ「夢は呪いだ」っていうのは完全に『仮面ライダー555』第8話からの引用ですけどね!
──えっ! そ、それは知りませんで、すいません……。
宇 いやいや、いいですよ。『仮面ライダー555』第8話、良い話ですからね。
──でも、他にも「これは自分のことだ!」って思うような歌詞がたくさんあって、宇多丸さんは言葉の魔術師だ! って、目からうろこが落ちて……。
宇 いやいや、いいですよいいですよ、そんな、すいません、ありがたい話です。でも、まあ、僕の話はいいんですよ! そんなもん、サイゾーにとって需要がないですから……。
──いえいえ、本当に共感する人が多いと思うんですよ、私もすごく好きで……。
宇 いやいや……いや……(伏し目がちに)。
──……ちょっと、宇多丸さん?
宇 ああー、ありがとうございます。すいません、ほめられると黙る傾向にあって……本当、よく分かんない感じになってきましたね、お互い。小明さんは汗かきながらほめて、こっちは「すいません、すいません」てね。あの、小明さんもそうかもしれないですけど、ほめられたときに、「すいません」って答えちゃう。それって本当良くなくて(笑)。
──あ、確かに私もそうです……ほめられ慣れてなかったり、自分の中の仮想敵といつも戦っててむしろ武装してる方だから、人からほめられると萎縮しちゃうんですよね。
宇 そうそう、でもこれって下手すると相手に不快感を与えかねない返答の仕方だと思うんですよ。「すいません」って言うくらいならやるな! っていう。
──いろいろ考えすぎちゃった結果、なんでか「すいません」に着地しちゃいますよね。
宇 そうですね。これ、同じタイプだから、まずいですよ。
──謝りあって会話にならない(笑)。で、あの、今回はちょっと相談なんですけれど、宇多丸さんは「BUBKA」の連載をまとめた著書『マブ論』でアイドルソングを語られているし、どうしたら私がアイドル的なキラキラ感が出せるのかを教えて欲しくて……。
宇 小明さんの場合、もうそんなにザ・アイドル! って感じでやっていきたいとは思ってないんじゃないですか?
──そんなことはないですよ! でも、なんだろ、ものを書く仕事をさせてもらった頃は、一応『現役のグラビアアイドル感』が自分にあったから、原稿も「グラビアアイドルの中では上手い方」ってくらいだったと思うんです。結局はその「アイドルの中では~」っていうジャンルの中で評価してもらってたんですよ。で、いま25歳になって、アイドル仕事なんてなかなかないし、地上波なんて宇多丸さんに呼んでもらったTBSラジオくらいでしか出てないこの現状っていうのが……。
宇 あの、地上波って言ってますけど、あれはAMラジオですよ。あんまり地上波って言わないと思うんですけど。
──えっ? ウソだ!
宇 地上波って言ったら、テレビの民放を指すと思うんだよね。
──え……じゃあ地上派はほとんどなしで、ますますヤバイじゃないですか……。あの、これは完全に甘えなんですけれど、今までは「アイドルが書いてる」ってだけで、ある程度下駄をはかせてもらっていたわけですよ。でも、だんだんこうしてアイドル活動が減って、「アイドルにしては上手い」から「アイドル」って看板が外れて、「文筆家の中ですごく下手」っていうジャンルになってくるんで、それで勝負するってことが、毎日毎日すごく不安なんです……。
宇 ああー、おっしゃってる危惧はわからなくはないですけど、うーん……でも、小明さんは、別に、うまいですよ。
──本当ですか? なんか私いま誘い受けみたいなマネしませんでしたか?
宇 やっぱり文筆シーンってそんなに甘くないから、アイドルだから下駄をはかせてもらってるっておっしゃるけど、そんな下駄に、お金、誰も払わないですよ。だからみんな、お金払ってる以上は、ぜんぜんそんな下駄なんかないってことですよ。
──えー? ほ、本当ですか?
宇 実はご本人が思ってるより、ぜんぜん、アイドル感なしっていう。
──あはは! ありがとうございます、アイドル感なかったんだな、私。でもやっぱりアイドル的な現役感は欲しいです。どうして失われてしまったんだろう。昔はもう少し道歩いててもアイドルって分かるような、キラキラオーラが出てたと思うんですよね。
宇 えーっと……ブログに変顔とか載せすぎなのがいけないんじゃないですか? すさまじい顔してるのあるじゃないですか、あれ、駄目ですよ!
──えっ、変顔って駄目なんですか? だって、自分撮りのキメ顔が上達しすぎて、どんどん実物との差が開いていくんですよ! それでイベントとかで実物を見られたときに「詐欺だ!」「ぜんぜん違う!」って思われないように、変顔で中和しようと思って……。
宇 その間がないのが駄目なんですって! でも、照れ屋なんでしょうね。
──あ、照れもあります。照れというか、本当の自分を見られて否定されるのが怖い。
宇 それもそうだし、自分の下の限界をあらかじめ見せておくことで、何かを防衛しようとしてるんでしょうね。それは僕も分かりますよ。そういう時は僕もあるけど、アレは本当に良くない。自己防衛なんだけど、あんまり誰も得しないやり方なんですよね。
──そっか……。自己防衛のつもりの自虐で自分を卑下しすぎてしまって、逆に人に不快感を与えてしまうっていうのが良くあります。
宇 そうそう。それに、「本当はその尊大な自意識を守るためにそれをやっている」というのは、分かる人には分かっちゃうから。
──それを悟られたときの恥ずかしさたるや……死にたい!
宇 そぉーゆうことです! 僕もそういうとこあるから……その「死にたい!」ってなったときに、それをうまくプラスに転換する方法として僕の場合は……これを言うと、みんな呆れたり引いたりするんですけど。
──知りたいです!
(後編につづく/取材・構成=小明)
●宇多丸(うたまる)
1969年生まれ。ヒップホップグループ「ライムスター」MC。また、ラジオDJ、評論執筆など、その活動は多岐に渡る。2月3日より、ライムスターとして4年ぶりのオリジナルアルバム『マニフェスト』(キューンレコード)が発売中。
●小明(あかり)
1985年、栃木県生まれ。02年、史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。初著『アイドル墜落日記』(洋泉社)での自虐っぷりが一部で評判を呼んでいるとかいないとか。
ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/>
待ってたよ。
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