真面目だからなお滑稽 重~い名作を笑って読む『生きる技術は名作に学べ』
#本
『赤と黒』『異邦人』『魔の山』……、タイトル、装丁ともに重そうなニオイがぷんぷん漂い、ページの厚さに気が滅入る。予想通り内容も重く、文字もぎっちり……読み通す気力尽き果てあえなく挫折、――名作文学に挑戦してそんな経験をしたことはないだろうか。「きょう、ママンが死んだ」「太陽のせいだ」と言われても、主人公が人を殺めた理由がよく分からない。
しかし、名作には名作と呼ばれるワケがある。あの頃読み通すことが出来なかった名作には、いまを生きるヒントが詰まっていたのだ。『生きる技術は名作に学べ』(ソフトバンク新書)は、書評や映画評で人気のブロガー・伊藤聡氏が、名作を分かりやすく解説した本だ。ヘッセ『車輪の下で』、オーウェル『1984』、トゥェイン『ハックルベリィ・フィンの冒険』など、世界で名作とされる10の小説を取り上げ、あらすじと読み方を教えてくれる。伊藤氏のユーモア溢れる筆致と、現代人の視点からの鋭いツッコミが、笑いを禁じ得ない”必笑”の書といえる。特に、第4章『アンネの日記』で、アンネの文才を絶賛しながらも、その自意識過剰ぶりをやんわりとあげつらう件のさまはたまらない。
もちろん、笑いだけではない。性、死、家族、少年の成長など、名作は人生について回る普遍的な問題を描いているからこそ、名作足りえている。主人公たちは、それぞれ生きにくさを抱えて、もがき、苦しみ、試練に打ち克とうとする。物語は必ずしもハッピーエンドではないが、逃げるのも、ごまかすのも生きる技術かもしれない、と伊藤氏は語っている。克服できなかったにしても、不幸な結末に至るまでの道筋を辿ることで、困難を解決する糸口が見つかるはず。50年前も100年前も、人が抱える問題はそう変わらない。ダメなやつのダメな生き方にこそ、本当の生きる技術が隠されているのだ。
名作を真正面から受け止めては肩がこる。『生きる技術は名作に学べ』は、重い文学をナナメから読む方法と、再挑戦するガッツを与えてくれる。大人になったいま、読み返したら、名作も以前とは違った姿で表れるはずだ。挫折したら「太陽のせい」にすればいい。
(文=平野遼)
・伊藤聡(いとう・そう)
1971年、福島県生まれ。会社員のかたわら、2004年よりブログ「空中キャンプ」を始める。ブログでの文学・映画などについての読みもので好評を博す。
ブログ「空中キャンプ」
<http://d.hatena.ne.jp/zoot32/>
嗚呼、滑稽。
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