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『20世紀少年』三部作堤幸彦監督インタビュー(前編)

「ボクには”ともだち”の心情が分かる。カルト社会は特別なことじゃないですよ」

tsutsumi01.jpg第1章39.5億円、第2章30.1億円、最終章43億円突破という
興収を弾き出した『20世紀少年』三部作の堤幸彦監督。
「興行的には一応の成功と言っていい数字が残せ、ほっとしています。
演出に関しては、観た方によっていろいろとご意見、
ご感想があるかと思いますが(笑)」

 高度経済成長期以降の日本社会を総括した壮大なストーリー、累計2,800万部に及ぶ浦沢直樹の大ベストセラーコミックの映像化、総製作費60億円、台詞のあるキャストだけで300人、原作とは異なるエンディングなど、さまざまな話題を呼んだ映画『20世紀少年』三部作。この一大プロジェクトの現場指揮を執ってきたのが堤幸彦監督だ。「自分は芸術家ではなく、商業監督」と自称する堤監督だが、当然ながら映像の中にはビジネスだけでは割り切れない生々しい情感が込められている。劇場未公開シーンを盛り込んだDVD『20世紀少年〈最終章〉ぼくらの旗』が2月24日(水)にリリースされるのに続き、『トリック』『BECK』の劇場公開も控える”超売れっ子”堤監督が日刊サイゾーに初登場。三部作が完結した今、思いの丈を語ってくれた。

──三部作合わせて総製作費60億円というバジェットの大きさが話題になりました。

堤幸彦監督(以下、堤) 大作中の大作、持てる力を全て振り絞った作品ですね。表現の方向性が多種多様にわたっていました。世代性、国際性、近未来を含む時代性と、ひとつの作品の中にさまざまな要素が入っていたので、そりゃ~、楽しかったです。

──大変ではなく、楽しかった?

 えぇ、楽しかった。これ以上の大作は、もうやることはないと思うんで(笑)。

──撮影だけで10カ月間。ずっとホテル暮らしですか?

kenji.jpgケンヂ(唐沢寿明)、オッチョ(豊川悦司)ら、
それぞれの登場キャラクターたちが”20世紀”に
やり残したことに対して落とし前を付ける
『20世紀少年〈最終章〉ぼくらの旗』。
(c)1999、2006浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館
(c)2009 映画「20世紀少年」製作委員会

 ロケが多かったんで、日本各地をちょこちょこ回っていました。愛知県常滑市(ケンヂたちの少年時代)や栃木県宇都宮市や岩舟町(近未来シーン)とか。

──1年間”住所不定”。

 そうですね(笑)。だいたいホテルルートインでした。ルートイン、大好き(笑)。ロケだと体調が良くて、朝4時には起きるんです。撮影の2時間前には現場に入るようにしているので、朝9時撮影スタートなら、7時には現場に入って現場をチェックしていました。それで日が暮れたら、帰りにちょっと一杯やって、ホテルに帰るという生活でしたね。

──三部作続けての監督業は、肉体的にしんどくなかったですか?

 いやぁ、普段の作品に比べれば、潤沢とは言わないまでも予算的にかなり余裕があったので、撮りたいと思った映像が撮れたんです。スケジュール的にも、ケータリングのメニュー的にも、いつもに比べ、贅沢させてもらいました(笑)。ほとんどは自分で撮りましたけど、監督補の木村ひさしクンがB班の監督として、ボクだけでは回せなかった子どもたちのシーンなどを撮ってくれました。海外パートは海外のスタッフが動いてくれましたし。

──超大作を任されたという苦労よりも、メリットのほうが多かったんですね。

 そうです。やっぱり、話題の作品で多くの人に観てもらえるというのは何よりもうれしいことです。どんなに苦労して完成させた作品でも、宣伝が行き届かずに集客が奮わないと、望まずしてマニアックな作品扱いされてしまいますから。こういう話題作をボクに任せてくれたプロデューサーたちの勇気には感謝しているし、監督冥利に尽きますよ。

──そう言える堤監督って、大人だなぁと思います。原作のイメージを損なうと原作ファンが怒るし、原作のまんまの展開だと映画マニアが厳しいことを言う気苦労の多い案件じゃないですか。

 それは当初から分かっていましたからね。第1章はとにかく原作原理主義を掲げ、原作の完コピで行こう。でも、その先があるからね、と。第2章は映画ならではのグルーヴを出していき、最終章では自分のやりたかった世界をじっくり描こう。そして、”ともだち”とは何かということをハッキリと見せようと。その設計が自分の中にあったので、最後までブレずに辿り着けたと思うんです。

──最終章のケンヂ(唐沢寿明)が帰還してのフリーコンサートは、半世紀に及ぶ大河ドラマが収束していく盛り上がりが感じられます。堤監督にとって、コンサートシーンはクライマックスだった?

 あのシーンを描くために向かっていったことが、ブレずに三部作を完成させることができた最大の要因でしょうね。原作はもちろん、映画でもライブシーンの後もドラマは続くんですが、ボクにとってはライブシーンがいちばんの”泣き”ポイント。人類の危機を救った男が、若い頃に組んでいたバンドのメンバーと一緒に曲を演奏する。”20世紀の男”の帰結点って感じがしますよね。最終章でのケンヂは設定上では58歳。しかも二足歩行の巨大ロボットとブルース・ウィリスばりに戦った後です。そりゃ、バイクもコケますよ(笑)。でも、そんなボロボロな状態で歌う姿に、ボクはロマンを感じるんです。
(後編につづく/取材・文=長野辰次)

『20世紀少年〈最終章〉ぼくらの旗』
原作/浦沢直樹 脚本/浦沢直樹、長崎尚志 監督/堤幸彦 出演/唐沢寿明、豊川悦司、常盤貴子、香川照之、平愛梨、藤木直人、石塚英彦、宮迫博之、佐々木蔵之介、山寺宏一、高橋幸宏、佐野史郎、石橋蓮司、中村嘉葎雄、黒木瞳

※”もうひとつのエンディング”のシーン一部を含む特報配信ほか、スペシャルキャンペーン実施中。
<http://www.vap.co.jp/20thboys/index.html>

つつみ・ゆきひこ
1955年愛知県出身。東放学園卒業後、テレビ業界に。95年の『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系)で注目を集め、以後、『ケイゾク』『池袋ウエストゲートパーク』『世界の中心で、愛を叫ぶ さけぶ』(TBS系)、『トリック』(テレビ朝日系)などの連続ドラマを手掛ける人気ディレクターに。森田芳光監督によるプロデュース作『バカヤロー!私、怒ってます』(88)の一編『英語がなんだ』で映画監督デビュー。主な監督作に『ケイゾク/映画Beautiful Dreamer』(00)、『恋愛寫眞』(03)、『明日の記憶』(06)、『サイレン』(06)、『包帯クラブ』(07)、『自虐の詩』(07)、『まぼろしの邪馬台国』(08)などがある。

20世紀少年 <最終章> ぼくらの旗 豪華版
2月24日 発売
2枚組 5,775円(税込)
発売/販売元:バップ
※通常版、Blu-ray同時発売。2月19日DVDレンタル開始
amazon_associate_logo.jpg

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最終更新:2010/02/16 18:00
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