「君はどうしてダメ男ばかり好きになる!?」堕ちてゆく女の美学『ララピポ』
#アイドル #映画 #梶野竜太郎
アイドル映画をこよなく愛する「アイドル映画専門」映画監督が、カントク視点でオススメのアイドル映画を、アノ手コノ手で解説します。
●今回のお題
『ララピポ』
監督:宮野雅之 女性主演:中村ゆり
どうしてそんなにダメ男ばかり好きになる? 一生懸命がんばってるボクよりも、まともに仕事に就かず、生産性も何もないやつを!? 毎日、キミの為に仕事をがんばっているボクより、そこの酒とギャンブルと女に溺れたそいつの方が上なの!? どうして!!?? どうしてなんだぁー!!!!
健治(成宮寛貴)は風俗専門のスカウトマン。囲った女たちの心と体を繋ぎとめる為、マンションに連れ込みフォローのSEXに励む日々。ある日、健治はデパートに勤めるトモコ(中村ゆり)をスカウトし、風俗店へと送り込んだ。(Amazonより引用)
DVD発売中/4,935円(税込)/ 発売:日活/ 販売:ハピネット/(C)2009「ララピポ」製作委員会
もともと女性には母性本能というものがあり、「まったく、あの人は私がいなくちゃダメなんだから」という、どんなバカ男でも好きになっちゃったらその人を心で守るという性質がある。これは有機生命体である限り女性~女子~女の子~メスまで全てが持っているものであり、男にとっても、人類にとっても、なくてはならないものであり、「あたし、肉食系だからぁ!」とか「うっぜーんだよ!」とか口では男勝りなこといっても、体の奥底ではこの世で一番温かい母性本能が燃えに萌えているのである。
とはいえ、最近はその女性としての女性にしかない最強の武器をひた隠し、肉食系の勢いのある女がこの世を元気にしている……ように見えているだけで、普通にかわいい女の子も、優しい女性も、温かいお母さんもたくさんいる。マスコミが持ち上げているだけ。やはり、女の子は花となり、優しさで世界を包むのが一番。男はそんな女を守らなければいけない。それが本来の姿。
……なんだけど、それを逆手にとったバカ男と、逆手に取られていることを分かっていても離れられないダメ女がいる。今回紹介する映画『ララピポ』は、そんな人物が登場する6つの物語をうまく構成した作品だ。
風俗専門のスカウトマン、昼は繁華街で道行く女の子をナンパしまくり、夜は女を部屋に連れ込み取っかえひっかえセックスし放題。
そのあえぎ声を盗聴することが生きがいの階下の住人は、引きこもりの売れないフリーライター。ひょんなことからロリータファッションの太った女と知り合い、彼女のマンションへ。ところが彼女はデブ専AV女優。
一方、カラオケ店で働く気弱なオタク青年は、妄想の世界で正義のヒーロー”キャプテン・ボニータ”となり、エロという名の悪に立ち向かう……。
5つ目の物語は、ゴミ屋敷の淫乱主婦が街でスカウトされ、熟女モノAVに出演することになってしまうというお話。そして、6つ目が「アイドル映画評」だからこそ! な、トモコの堕ちっぷり物語で構成されています。
この手の、いろんな物語がひとつの共通点で絡みあう作品は『パルプ・フィクション』『マグノリア』の成功から1ジャンルとして確立され、”もどき作品”もたくさん作られている。そんな中でもこの『ララピポ』は、かなり良くできた作品だ。
しかも、かなり下品! 冒頭からちんちんのUFOキャッチャーが登場。ここまで下品に面白いと股間も一緒に拍手したくなる。そして、この6つの物語の中でも、最高に笑えて、泣けて、感動して、いい女像を堪能できるのは、元OLトモコの章。典型的な女の弱みモロ出し女性を演じるのは、これがまた素晴らしい堕ちっぷりを演じている中村ゆり。
中村ゆりといえば、『パッチギ!LOVE&PEACE』でエリカ様の代役に抜擢されたことが記憶に新しいが、テレビ東京系列『ASAYAN』でデビューしたアイドルユニット・YURIMARIのYURIでもある。
その中村ゆりが演じるのは、ごくフツーのOL。ただ、この場合のごく普通とは、一般的な遊んでるOLではなく、家庭環境の流れから地味に生活しているOLのこと。毎日にストレスや不安があってもなくても、敷かれたレールの上を運転するだけの生活を送っている”ごく普通”の方。でもこの手の人間は、ちょっとした刺激を喰らうと、物凄い勢いで、変化する! 獣化する! トランスフォームする!!
その刺激を与えたのが、女優のスカウトマンだったり、趣味で書いている小説の入選だったり、スポーツの結果だったりする場合は喜ばしいことだけど、悪の刺激だった場合、もう堕ちるところまで堕ちてゆく……。
それは風俗だったり、AVだったり、犯罪だったり、クスリだったり。まぁ、後半2つは堕ちるとかいうレベルではないのですが、風俗やAVはその女性がその道へ進みたい場合はいいとして、そうではなく、商売男に遊ばれているのだとしたらそれはもう、見るに見かねる結果になる。
この映画のトモコの堕ちっぷりは、物凄いものがあり、撮り方によっては、『レクイエム・フォー・ドリーム』のまったく救いのない主人公達のような救いようのない堕ち方や『嫌われ松子の一生』のような本人は幸せだと感じている第三者的視点の悲劇にも撮れる(この映画は「嫌われ~」の中島哲也さんが脚本ですが)。
けど、トモコは……いや、中村ゆりは、終始、笑顔なのである。
風俗スカウトのバカ男を、成宮寛貴さんが極上のバカっぷりで演じているから尚更悲劇。
「キャバクラやらない?」
だまされるな!
「ヘルスにしようか!」
だまされるなよぉ!!
「ソープやってみる?」
だまされるなってば!!!
「……AVやってみようよ、おれ、マネジャーになる!」
あ~~~~ん!!!!
ハゲデブオヤジとの4Pや親子丼なんか当たり前のAV業界。でも、表のキレイさだけを信じ、裏の姿には気づかず、常に笑顔なのだ。それはまるで、裏が裸だということに気づかれていないと確信している、貧ぼっちゃまくん(by 『おぼっちゃまくん』)のよう。
堕ちてゆく女の姿を、順を追って見せられているのに! 男がトモコを騙していることは明確なのに! 究極の悲劇のヒロインのはずなのに!
なのに、トモコの笑顔はあまりにも美し過ぎるがために堕ちる姿を応援してしまう。涙しながら応援してしまう。「がんばれ! トモコ! おれ! 買うよ! トモコのAV、買うよ! 握手会も行くよ!」。
うまいよ、この映画、チクショウ! コメディー仕立てだから楽しくて、風俗スカウトのバカ男を怨めない! 一緒に堕ちてゆく快楽感。必要以上なまでの特殊効果と輝かしい演出と、中村ゆりの笑顔、さらに目の奥にはひとりの男に騙されながらも愛を貫いて行くという強き母性本能。
参りました。中村ゆりの章、スピンオフ希望。
(文=梶野竜太郎)
ゆりちゃんがYURIMARIだったとは!
●かじの・りゅうたろう
映画監督・マルチプランナー。1964年東京生まれ。
短編『ロボ子のやり方』で、東京国際ファンタスティック映画祭の部門グランプリを受賞。08年に長編『ピョコタン・プロファイル』でメジャーデビュー。第2回したまちコメディ映画祭 in 台東にて、新作『魚介類 山岡マイコ』を上映。2010年に長編版として劇場上映が予定されている。現在、ニコニコ動画チャンネル『魚介類TV』(毎週日曜日20時~)に出演中。
詳しくは→http://mentaiman.com/
ブログは→http://ameblo.jp/mentaiman1964/
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