“カルト映画”のヤングマスター!? 深作健太監督はゲリラ戦で戦い続ける
#映画 #インタビュー #萌え #邦画
撮影現場で倒れた父・深作欣二監督の意志を継ぐ形で『バトル・ロワイアル2』(03)を完成させ、センセーショナルなメジャーデビューを果たした深作健太監督。その後も次々と問題作、異色作を発表している。ミニスカの松浦亜弥がボンデージルックの石川梨華と激突する『スケバン刑事 コードネーム=麻宮サキ』(06)はアイドル映画の範疇からはみ出し、鈴木亜美がチェーンソーで巨大ハサミを持つ小沢真珠と対決する『エクスクロス 魔宮伝説』(07)はホラー映画、いや日本映画という枠組みから大きく飛び出してしまった。”カルト映画の若き巨匠”とでも呼びたくなるキャリアを歩んでいるのだ。
大阪・西成地区で起きた暴動事件を題材に準備が進んでいた『エルの反乱』は押井守が脚本を担当し、日本映画界に風穴を開ける野心作になるはずだった。しかし、『エルの反乱』のその後の情報は途絶えたまま、別の新作が完成した。松田美智子原作のノンフィクション小説の映画化シリーズ第7弾となる『完全なる飼育 ~メイド、for you~』がそれだ。原作からは大きく離れ、オタク青年が人気メイド嬢をネットカフェに監禁するという、ぶっ飛んだストーリー。さらに、”飼育女優”にはサンズ所属タレント・亜矢乃を起用し、濡れ場シーンがスクリーンから飛び出すという3D映画なのだ。あまりに面白すぎる企画に挑み続ける”映画界のサラブレッド”の素顔を伝えたい。
──深作監督の前作『エクスクロス』は大傑作コメディでしたね!
健太 ありがとうございます。でも、劇場で怒ったお客さんも多いと思うんです。「ホラー映画だと思って観に来たら、こりゃ何だ!?」と。ボク自身が、じめっとしたJホラーが苦手で、にぎやかな映画をどうしても作ってしまうんです。
──西成の暴動を扱った『エルの反乱』の完成を楽しみにしていたんですが……。
健太 なかなか企画が進まなかったので、押井守さんに脚本をお願いして『ケルベロス・サーガ』の一編として軌道修正していたんです。中国大陸から難民が押し寄せて、東京湾に難民島ができ……という大掛かりな構想でした。でも予算がかかり、中国政府の許可も必要などの諸問題があって、凍結した形ですね。その後、別の企画での中国への取材旅行で、今回の脚本を担当している厨子健介さんと知り合ったんです。「母親(中原早苗)が女優のせいか、女優コンプレックスなんです。女優を使ったセクシーな現場が苦手」なんて話をボクがしたら、『飼育』シリーズの企画があるよ、と声を掛けてもらった。『飼育』シリーズはずっと観ていたので、「やらせてください」ということになった次第です。
の個室にメイド喫茶に勤める苺(亜矢乃)を監禁
する。野田会長率いるサンズ所属の亜矢乃が大胆
な初ヌードに挑んだことで話題を呼んでいる。
亜矢乃へのインタビューも近日アップ。
──今回の『完全なる飼育』は濡れ場になるとスクリーン上にサインが現れて、観客は3Dメガネを掛けるという、いわばキワモノ感たっぷりな作品。
健太 一種の覗き見感覚ですよね。そこはボクとしても本望なところなんですよ(笑)。今はどの劇場もシネコンになって均一化されています。昔の映画館は××東映、○○松竹……と怪しい雰囲気の劇場もあれば、ちょっと上品ぶった劇場もあった。いろんな劇場があったほうが面白いと思うんです。テレビ局が作ったテレビドラマの劇場版がダメってわけじゃないですけど、もっと映画館ってドキドキする場所であっていいと思うんです。見世物小屋感覚で観てもらえればと思いますね。
──企画にはどの段階から参加されたんでしょうか?
健太 秋葉原が舞台ということで、すでに脚本はある程度固まっていました。3Dは企画を固めていく途中で、部分的に使おうということになったんです。そんな中で行なったヒロイン・苺役のオーディションで出会ったのが亜矢乃。寺山修司が好きで、日本映画は塚本晋也監督の『六月の蛇』(03)がいちばん好きという変わった女の子。オーディションで話していて面白かった。決してセクシー系ではないけど、ナチュラルな女の子。苺を監禁する主人公・椛島役の柳浩太郎は、以前から舞台を観ていた好きな俳優でした。彼は交通事故に遭いながらも、ハンデを克服して芝居を続けている気概のある役者。彼は所属事務所の反対を押し切って、今回の役を引き受けてくれた。2人とも初めての濡れ場。クランクイン前に1週間、3人で密室に篭ってリハーサルを重ね、台詞などはイチから練り直していった感じですね。
撃ち込み、手錠を掛けられたことも。「警察署に
は翌朝、オヤジが引き取りに来てくれました。オ
ヤジに花火を撃ち込んだことを話したら、『何だ、
そんなことか』で終わりました(苦笑)」
──”女優コンプレックス”を持っていたということですが、今回の撮影を通して克服したわけですか?
健太 ボクの場合、母親が女優であり、母親を演じている女優という意識が子どもの頃からボクの中にあったんです。逆マザコンなんでしょうね。その点、オヤジはオンオフ関係なしで、常に”深作欣二”でした。ボク自身は女好きなんですけど、どうも芝居をする女性に抵抗があったんです。例えば、キャバクラ嬢で言えば、営業中の作り笑顔よりも、営業終わった後の疲れた顔にセクシーさを感じるんです(笑)。演技がうまい女の子も大キライ。『スケバン刑事』のあややも、『エクスクロス』のあみーゴも、アイドルの壁を壊して素の彼女たちの魅力を伝えたかった。でも逆に、女優をセクシーに撮ることに関してはずっと苦手意識があったんです。今回、ボクにとっても初めての濡れ場の演出。主演の2人に対して失礼があるかもしれない、と悩む部分もありました。でも、そんなボクに「大丈夫です。私を踏み台にしてください」と亜矢乃は言ってくれた。柳くんも、まだ事故の後遺症が残っているにも関わらず、体を張って演じてくれた。ボクの中のコンプレックスを押し流し、一歩前に進ませてくれた2人には感謝しています。
──本作は今までの『飼育』シリーズに比べ、より女性上位の展開に感じます。やはり現代は、草食男子/肉食女子と言われるような女性上位の時代なんでしょうか。
健太 ボクの作品は、どれも女性が強いですよね(笑)。オヤジからも「お前の脚本は女が強すぎる」と言われました。でも、やはりそういう時代ですよ。『バトル・ロワイアル』(00)ではオーディションで1,000人近い若者に会ったんですが、いちばん強い目力を放っていたのが柴咲コウでした。
──当時の柴咲コウは”日本一鎖ガマの似合う女優”でしたね!
健太 えぇ(笑)。純粋にいい俳優を選んでいくと、男優は藤原竜也くんみたいなナイーブな雰囲気で、女優は目力の強い柴咲コウだったんです。
──『スケバン刑事』に登場した謎の青年・騎村(窪塚俊介)も印象に残っているキャラ。何を考えているのか、最後までさっぱり分からない不審人物でした。
健太 そうですよね。ボクにもさっぱり分かりませんでした(笑)。散々周囲を振り回して、最後に「あ~、楽しかった!」とひと言残して自爆してしまうキャラでしたね。ゴダールの『気狂いピエロ』でしょうか(笑)。今回の主人公たちも思いつきで短絡的な行動に走るんですが、ボク自身が100%理解できて撮っているわけじゃないと開き直っています。ボクの作品の主人公たちは絶えず悩み、迷い続けているんです。
──どこかに脱出口はないか、傷だらけになりながら捜し続けている主人公たちの姿は、監督自身の姿でもある?
健太 そうだと思います。助監督時代は先輩にボロクソ扱いもされたし、監督になってからも世間から「親の七光り」扱いされ、挫折も経験しています。自分としては東映でメジャー作品を撮っていた時も、メジャーという枠組みの中で常にゲリラ戦を繰り広げている意識でした。『バトル・ロワイアル』には『バトル・ロワイアル』としての戦い方があるし、『エクスクロス』にも『エクスクロス』としての戦い方がある。今回の『完全なる飼育』はTVでCMも流せないような低予算の作品ですが、それでも『完全なる飼育』なりの戦い方があるんじゃないかと思っています。辛い戦いですけど、まぁ、みんなに共感されるテロリズムなんてありえませんからね(笑)。オヤジも体制的なものに向かって吠え続けましたが、ボクも負け犬の遠吠えにならないように頑張ります。
──最後にシリアスな質問。原作小説の題材になった女子高生監禁事件の加害者はウィリアム・ワイラー監督の映画『コレクター』(65)の模倣犯だったと言われています。映像と犯罪の関係については、どう考えます?
健太 ボク自身がそうですが、映画を観て感動して、映画監督を目指す男の子もいれば、女優を夢見る女の子もいると思うんです。その男の子が監督となり、女の子が女優になった場合、それは映画の影響なのか? 最終的に監督への道、女優への道に進ませたものは本人の意志だったんじゃないでしょうか。事件が起きると映像表現を規制しようという動きが必ず出ますが、ボクが強調したいのは、表現活動のネガティブな面だけを捉えるのではなく、ポジティブな面もあることを忘れないでほしいということなんです。何事にも表面と裏面があるはず。人間社会でも、「この頃の世の中はおかしい」とよく言いますけど、ずっと大昔から言われていることですよね。同時に人間の暮らしはどんな状況になっても幸せに満ちたものでもあると思うんです。今回、『完全なる飼育』を撮ったボクもそうだし、主役を演じ切った柳くん、亜矢乃もリスクを冒したのと同時に、次の新しいステップを踏み出すことが出来たと思うんです。現在7~8本ほど次の企画を進めていますし、『エルの反乱』も、まだ諦めたわけじゃありません。面倒な、政治的なことに縛られずに、ゲリラ戦でこれからも戦い続けるつもりです(笑)。
(取材・文=長野辰次)
●ふかさく・けんた
1972年東京都生まれ。成城大学文芸学部卒業後、一般企業への就職を経験し、東映特撮ヒーロー作品などの助監督に。『バトル・ロワイアル』(00)でプロデューサー&脚本家デビュー。『バトル・ロワイアルII』(03)は撮影中に逝去した父・深作欣二監督との共同監督作に。以後、監督作に『同じ月を見ている』(05)、『スケバン刑事 コードネーム=麻宮サキ』(06)、『エクスクロス 魔宮伝説』(07)、オムニバス映画『斬 KILL』(08)の一編『こども侍』がある。5月には『8人の女たち』で知られる作家ロベール・トマの舞台『罠』で初演出に挑む。
●『完全なる飼育 ~メイド、for you~』
原作/松田美智子 脚本/厨子健介 監督/深作健太 出演/柳浩太郎、亜矢乃、前田健、久野雅弘、黒川芽以、竹中直人、西村雅彦 配給/ゴー・シネマ 1月30日(土)よりシネマサンシャイン池袋ほかにて公開
http://www.maidforyou.jp/
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