八ッ場を売った小沢一郎と強引すぎる東京地検特捜部の”狂気”って!?
#雑誌 #出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
●第28回(1月13日~1月18日発売号より)
第1位
「豪腕幹事長は『参院選のために八ッ場マニフェストを売った』」(「週刊ポスト」1月29日号)
第2位
「全日本人必読!もう中国には勝てないのか」(「週刊現代」1月30日号)
第3位
「エロメール事件 早大セクハラ委に訴えられた政治ジャーナリスト」(「週刊文春」1月21日号)
このところ、テレビドラマ化されたこともあるのだろう、「筆談ホステス」についての記事が目につく。「ドラマ化『筆談ホステス』支配人が暴露したウソ八百」(文春)「筆談ホステス斉藤里恵さん(25)『ひどい評判』が飛び交う『銀座という迷宮』」(ポスト)「印税の奪い合いも起きていた『筆談ホステス』美談の裏側」(新潮)
聴覚障害というハンディキャップを乗り越え、銀座ナンバーワンホステスに上りつめた斉藤さんが書いた本(光文社刊)は、20万部を超えるベストセラーになっている。写真を見る限り、なかなかの美人。彼女が在籍していたクラブは、客が10人も入れば一杯になるような店だそうだから、銀座ナンバーワンはいい過ぎだが、本が売れるのは分かる。
そうなれば、やっかむ人間がでてくるのは世の常。だが、「銀座というのはそもそも虚飾で成り立っている世界。(中略)そうした世界で生まれたのが、『筆談ホステス』の美談。私からいわせれば、斉藤里恵という女性の実像がどうあるかなんて、銀座では大して意味がない。店側や彼女を使うママからすれば、いかにその美談を売りにするかで手腕が問われる。一方のホステスも、いかに自分を売ってくれるかで店を判断するだけのことです」(銀座の複数の高級クラブで長年店長を務めてきたA氏・ポスト)
そういえば、あの虚飾の世界に足を踏み入れなくなってずいぶん立つ。しばらくぶりに覗きに行ってみるか。
今週は、小ネタにおもしろいものが多かった。「エロメール事件 早大セクハラ委に訴えられた政治ジャーナリスト」(文春)もその一つ。その教授は、日経新武運で論説副主幹まで務め、現在は、テレビ東京系で冠番組を持っている田勢康弘氏(65)だというのだ。早大のハラスメント防止委員会にセクハラ被害を訴えたのは、昨年9月に同大学院を修了したA子さん。田勢氏の授業を受け、08年4月から、彼のティーチングアシスタントもしていた。
「文春」によると田勢氏は、長崎への一泊二日旅行に誘ったり、その旅行中に、共作で不倫小説を書こうと持ちかけたのだそうだ。そして「お許し願えればあなたの美しい姿をすべて見せてくれませんか」というメールまで送った。
さすがに田勢氏は、インタビューに答え、旅行へ行ったことも認めて、こう語っている。
「メールも送りましたが、小説を書く上で、彼女の胸や体を見ると見ないではリアリティが違う。肉体関係を求めていないし、手を握ったことさえない」
この弁明、どこかおかしいと思わない?
第2位は、「現代」の「14ページぶち抜き大特集 全日本人必読!もう中国には勝てないのか」。中国経済は今年も8%成長をクリアするとみられ、GDPで日本を追い抜き、アメリカに次ぐ世界第2の経済大国になることが確実視されている。輸出額でもドイツを抜いて世界1位。時価総額を基準とした世界の銀行ランキングでも、上位3位を中国の銀行が占めている。その超大国について、様々な角度から取材してあり、30分で中国の現状が分かるという意味で、読んで損のない記事である。
「超日」を合い言葉に、技術分野でも日本を超えるものが次々に出てきている。武漢-広州間を結ぶ高速鉄道の試運転で、日本の新幹線を抜く396km/hを記録したり、中国の航空機メーカー職員が、「我々は2020年までに、ボーイング社やエアバス社と競えるような大型旅客機を製造する計画を立てています」と語っている。
自信を持った中国は、アメリカに対しても強硬路線を採ると読む。その理由は「三大問題」があるからだ。「第一に、台湾へのパトリオット・ミサイル売却問題。第二に、オバマ大統領が近く、チベット独立派の頭目ダライ・ラマと会おうとしている問題。そして第三に、オバマ政権が中国製の鉄鋼管への、不当な高額関税を発表した貿易問題です」(中国の外交関係者)
もしオバマ・アメリカが強行するなら、その報復の中身は、おそらく、米国債の一部売却だろうと推測している。米中冷戦時代の始まりか。
人材育成の上でも、中国は日本を抜き去ろうとしている。今年、中国政府は約6,000人の優秀な大学院生を選抜して、海外に留学生として派遣する計画があるというのだ。また、中国の大学のレベルも年々上がってきて、今では、北京大学は世界ランク50位、精華大学は56位で、東大19位、京大25位に迫ってきている。
中国語を勉強しようという人間は日本にも多いが、アメリカの公立学校でも、日本語教育プログラムの予算を削り、浮いた分で新たに中国語教育プログラムを組むところが増えているという報告もあるそうで、言語においても日中の逆転現象が進んでいる。
今年は上海万博の年。カネも人材も有り余る中国に、日本はどの分野で太刀打ちできるのか。ジャーナリストの富坂聰氏は「これからは中国が手に入れられないものはなにか、を考えるべきなんです。具体的にいえば、水、環境技術、省エネ技術に光明があります」といっている。経済小国への道をひた走っている日本は、アメリカではなく、中国に頼って生きていかなくては、明日はないのかもしれない。そんな暗澹(あんたん)たる気持ちにさせる特集でもある。
元秘書が3人も逮捕され、「小沢逮捕の可能性」(現代)まで出てきた小沢一郎幹事長スキャンダルは、民主党VS.検察の全面戦争の様相を呈してきた。
産経新聞が反民主党・反小沢で突っ走っているが、週刊誌の多くも、反小沢で固まりつつある中、朝日だけは検察の強引な捜査を批判し、今号では、ジャーナリストの上杉隆氏を起用して「検察の狂気」を書かせている。
上杉氏は、検察側が新聞にリークし、情報操作をしていると批判。元秘書石川議員の逮捕には、「公職選挙法でもない事案で、しかも秘書時代の政治資金規正法の不記載によって現職の国会議員が逮捕されるというのは異常である」と難じている。
この検察の強引なやり方の裏には、「イチかバチかで政界の最高実力者の小沢を捕りにいき、結果として法律的な処罰が無理でも、政治的に小沢を葬ればいい」という検察の思惑があるのだという。「これは、人事と既得権を死守しようとする検察=記者クラブメディア連合体と小沢の『権力闘争』なのである」とし、検察が正義であった時代が終わろうとしていると結んでいる。
さらに山口編集長は編集後記で、メディアが権力の暴走を止めようとしなくなったら、再び「いつか来た道」をたどることになると案じ、いまの検察官僚は当時の軍官僚と重なるという。「はなはだ微力ですが、せめて弊誌だけでも検察に迎合することのない国民目線の報道に徹したいと思います。ご支援下さい」と書いている。
その言やよし。週刊誌に必要なのは多様な意見である。小沢が好きか嫌いかは別にして、今回の検察のやり方は、強引すぎると思うのは、小沢氏嫌いの私も同じである。
だがそれと同時に、これまで、小沢氏がゼネコンを支配することで権力を拡大してきた手法は、ここら辺できっちり「検証」されなければならないはずである。かつてミスター検察といわれた伊藤栄樹元検事総長は就任した時、「巨悪を眠らせるな、被害者と共に泣け、国民に嘘をつくな」と語った。国民に嘘をついているのは小沢か検察か。
そんな中で、小さな記事だが、「ポスト」の「豪腕幹事長は『参院選のために八ッ場マニフェストを売った』」が光っている。
小沢氏は、参院選の候補者選定のため全国を回っているが、全国区比例候補の一人に、小寺弘之前群馬県知事を公認した。小寺氏は自民党系だったが、中曽根弘文元外相の「クビ獲り」のために引き抜いたのだそうだ。
だがこの小寺氏、92年に、国と県、長野原町の間で締結された八ッ場ダム建設推進の基本協約書に調印したときの県知事なのだ。「ポスト」は、小寺氏が八ッ場ダム中止反対を訴える地元住民の代表である萩原昭朗氏とも親しく、萩原氏の誕生祝いの宴会にも出席していると、以前報じた。
そんな彼が「ダム中止」を掲げる民主党から出馬するというのは、ブラックジョークだとし、小沢氏は、国民との約束であるマニフェストを軽んじていると批判する。こうしたことを含めて、小沢という政治家を考える時期がきていると思う。
(文=元木昌彦)
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか
……とも言っていられない時代
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