『マイマイ新子と千年の魔法』地味すぎるアニメ映画が起こした小さな奇跡(後編)
#映画 #アニメ #インタビュー
真骨頂。「実はフィルムで緑は意外を発色しないので、
それを際立たせるのとか、かなり、イマジカに無理を
言いました」と片渕監督。
(c)2009 高樹のぶ子・マガジンハウス/「マイマイ新子」
製作委員会
■「感動した理由が解らない」という究極の伝達
──この作品は、ネットでも多くの反響を呼び、上映存続の署名運動(http://www.shomei.tv/project-1385.html)なども起こりました。かつては評論家やプロのライターだけのものだった”映画批評”が、いまは無名の書き手が無報酬でたくさんの意見や感想を披露しています。そうした声は意識されますか?
片渕 『マイマイ新子と千年の魔法』をやるまでは、そんなに意識してなかったかもしれません。実は作り手としての自分は、物事を理屈として言葉に突き詰めないで作っているわけです。言葉にしちゃったらそこで終わってしまうモヤモヤした感触やイメージを、イメージのまま放つようにね。それが、観客の側で実に驚くべき精度で、的確に把握されていたりもします。一人ひとりの見方は仮に一面的だったとしても、それが多方向からあんなにたくさん集まって、ネットを見る方はそれを眺められるわけだから、すごく面白い状況だな、と思います。
──そうした感想のなかで印象的だったのですが、「感動したけれど、なぜ感動したのかよく解らない」という、同じ文言をあちこちで見かけました。こうした観客の反応に監督が分析を与えるとしたら……。
片渕 その「作るときになるべく言語化しないほうがいい」と我々が思っているままに受け取られているということなんじゃないでしょうか。これはひょっとしたら、理想的な形で伝達が働いているんじゃないか、という気がするんですよ。言葉にすべきものが何か解らないのに、作り手と観客のコミュニケーションが成立しているわけで。
──作り手がイメージとして出したものが、イメージとしてそのまま届いている。
片渕 もちろん、言語化しないとシナリオや絵コンテは書けないですから、ある程度、絵コンテのト書きには「ここはこういう意味で」みたいなことを書くんですが、そのシーンを観客の方が観たときに感想としていただいた文言がト書きとまったく同じだったりすることが稀にあるんですね。まるでテレパシーが通じたように、こちらの言いたいことが伝わったと思う瞬間がある。
それが、今回の場合はさらに、言葉にする以前のものが直接伝わっていると。……そうだとしたら、これはもう究極の伝達が成り立ってしまっているんじゃないかと。よく、ものを作るときには「考えるより感じろ」って言うじゃないですか。そうして作ったものを観客の側も、「考えるより感じたまま」受け止めていただいているというのは、こちらとしてもすごく面白いし、わくわくしますね。そうして得た観客の方々が、今度は各地のあちこちの映画館に、『マイマイ新子と千年の魔法』というこの映画をかけてやってくれとアピールしてくださっている……。
だから、エンディングまでちゃんと観てね」
■「児童映画なるものを取り戻す企み」とは
──今作、監督はこの映画を「児童映画なるものを取り戻そうとする企みである」とおっしゃっています。監督にとっての「児童映画」とはどういったイメージを指しているのでしょうか。
片渕 まず、それは単純に子どもに向けた映画ではないのかもしれません。でも、子どものころって、何だか解らないけれど観た映画ってたくさんあるんですよ。例えばぼくは7歳のときに衣笠貞之助監督の『小さい逃亡者』という作品を観て、今でもよく憶えているんです。それは実は、怪獣映画を観に行ったときに併映でかかっていた作品だったんですが、大怪獣同士の決戦を見たのと同じくらいの強さで印象を受けて今でも心に残ってます。いまは子ども向け映画も、テレビ番組の映画化という形でプログラム的に作られているばかりだと思うんです。そんななかで、テレビでは全然顔見知りじゃない映画だけど、偶然の出会いで心に残る作品が、もっとあってもいいんじゃないかと思っています。
──子どもと映画を偶然出会わせる。
片渕 子どもが偶然映画と出会おうにも、子どもは一人で観るわけではない。まず、ちゃんと大人の、親のほうにアピールする映画である必要がある、そう思いました。おかげさまで、「映画を見終わったあと子どもの気持ちになってしまって、バスに乗らずに歩いて帰った」という大人の観客もいたし、「自分の子どもを叱れなくなった」なんて感想もありました。
子どものことは、ぼくは全然なめてかかってませんから、相当いろいろなことを理解してくれると思うし、よしんば理解しなくても、子どもは丸飲みしちゃうことが多い。それが、10年20年記憶しておいてもらえるならば、そのときにひょっとしたら何か、大事なものになっているかもしれない。自分が子どものころ、そうやっていろいろなことを心に刻んできたな、というのがありますから。映画がどれもこれも同じような展開をするものばかりで、子どもはこの程度理解してればいいって言いきっちゃうものばかりだったら、それは栄養になっていかないんじゃないかなって気がするんです。
──もらったものを返す、という。
片渕 そうですね。監督として、というより元・子どもとしてね、映画に恩返しをするという、そういうことじゃないかと思っています。『マイマイ新子と千年の魔法』とは、「大人に子どもの心を取り戻させる映画。子どもを子どものままではいさせない映画」、そんな作品のつもりです。
(取材・文=編集部/写真=長谷英史)
●かたぶち・すなお
1960年、大阪府生まれ。日大芸術学部在学中から宮崎駿作品に脚本家として参加し、虫プロダクションなどを経て1986年、STUDIO4℃の設立に参加。その後、マッドハウスを拠点に精力的な活動を続けている。監督作として『名犬ラッシー』(96)、『アリーテ姫』(00)など。また、テレビアニメ『BLACK LAGOON』シリーズは今年、第3期がOVAとして発売予定。
Twitter<http://twitter.com/katabuchi_sunao>
●『マイマイ新子と千年の魔法』
監督・脚本/片渕須直 原作/高樹のぶ子『マイマイ新子』(マガジンハウス・新潮文庫刊)
出演/福田麻由子 水沢奈子 森迫永依 本上まなみ
配給/松竹
アニメーション制作/マッドハウス
上映スケジュールなどは公式サイト<http://mai-mai.jp/>にてご確認ください。
サントラもすてきです。
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