トニー・ジャーは本気なんジャー! CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』
#映画 #パンドラ映画館 #タイ
ゾウの大群に立ち向かう。ゾウの背渡りシーンは圧巻! 良い子は絶対に真似しないように。
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CGはいっさい使わんのジャー! ムエタイ王国タイの誇るアクション俳優トニー・ジャーにとって、5年ぶりとなる主演作『マッハ!弐』が公開中だ。初主演作『マッハ!!!!!!!!』(03)は、ハリウッド映画『マトリックス』(99)シリーズの影響でワイヤーアクション&CG映像が全盛を極める中、ブルース・リー、ジャッキー・チェンたちが積み上げてきた生身のアクションの持つ爽快感と痛みを感じさせる渾身の一作だった。
ノースタント、ノーCGのこだわりは、さらに主演第2作『トム・ヤム・クン!』(05)で爆発し、4分間にわたる格闘シーンを1カットで撮り上げるという驚異的な映像を生み出した。トニー・ジャー主演作には、ブルース・リーの『ドラゴンへの道』(72)、『燃えよドラゴン』(73)や、ジャッキー・チェンの『ドランクモンキー酔拳』(78)、『プロジェクトA』(83)のように、何度も繰り返し観たくなるアナログ的な味わいがある
盗まれた仏像を奪い返すためにバンコクに上京した田舎青年の縦横無尽な活躍を描いた『マッハ!!!!!!!!』の続編となる『マッハ!弐』だが、ストーリーはまるで関係ない。舞台はアユタヤ王朝が権勢を誇った15世紀。勢力を拡大するアユタヤ王朝に脅かされる山岳地帯の王国の王子として主人公ティンは生まれるが、国王と王妃は家臣の裏切りに遭い憤死。あわれ幼いティンは流浪の身に。そんな折、人食いワニと闘う少年ティンの常人離れした生命力に目をつけた山賊のリーダー・チューナン(ソーラポン・チャートリー)に拾われ、ムエタイ、剣術、クンフー……とありとあらゆる格闘技の英才教育を受ける。やがて無敵の格闘マシーンとして成人したティン(トニー・ジャー)は山賊団の跡目を継げという頼みを保留して、復讐の旅へ。アクションを引き立てるため、ストーリー展開は極シンプルなものになっている。
前作『マッハ!!!!!!!!』は型の美しさを強調した”古式ムエタイ”にこだわっていたが、今回は何でもありのバーリトゥードスタイル。日本から来た侍からは居合い抜き、中国人からはクンフーを学び、さらには酔拳、サブミッション、棒術、縄標(手裏剣に縄を付けた中国武術)、タイ舞踊まで次々と披露するトニー・ジャー。まさにアクションの満漢全席状態。さらには両親を殺した真犯人に復讐するというモチベーションの高さも加わり、トニーの戦闘能力は前作以上にアップ。また、『マッハ!!!!!!!!』『トム・ヤム・クン!』でメガホンを取ったプラッチャヤー・ピンゲーオ監督はプロデュースに回り、トニーの師匠であるアクション監督パンナー・リットグライとトニー自身による共同監督作となっている。自身の限界を超えたトニー・ジャーの”アクション・バカ一代”ぶりを堪能してほしい。
ンコでヒジ&ヒザを当てに行く。本人は『酔拳』の
新シリーズでジャッキー・チェンと共演することを
望んでいるそうだ。
アユタヤ王国の兵たちとのソードアクションもワクワクさせるが、今回の最大の見どころはトニー・ジャーvs.巨大ゾウ軍団という本当の意味での”異種格闘技戦”だ。『空手バカ一代』(講談社)の実写版『けんか空手 極真拳』(75)でソニー千葉(現・JJサニー千葉)は牛と闘ったが、トニーは巨大ゾウですよ! 暴走するゾウの大群の背渡りだけでは飽き足らず、ゾウのボディを利用した華麗な三角蹴りやバイシクルキックで押し寄せる敵兵たちをなぎ倒してしまう。それはもう、密林の王者ターザンを思わせる見事な暴れっぷりですよ。
あまりにゾウとの格闘(愛護?)シーンが迫力満点なので、『トム・ヤム・クン!』で来日した際のトニー・ジャーのインタビュー記事を読んでみた。『トム・ヤム・クン!』は狂おしいまでにゾウへの愛に満ちた恋愛アクション映画だったが、なんでもトニーは「自宅でゾウを2頭、飼っているんだ」と涼しげに語った後、バナナをマッハのスピードで食べ尽くしたそうだ。ペットとしてゾウを飼っている映画スターがいたとは。やっぱり、トニー・ジャーはすごいんジャー!
『空手バカ一代』と言えば、『空手バカ一代』の韓国版『風のファイター』(06)の公開時にサイゾー本誌で真樹日佐夫先生に話を聞く機会があった。『空手バカ一代』の原作者である梶原一騎氏とモデルである大山倍達氏は、梶原氏の実弟・真樹先生を加えた3人で義兄弟の杯を交わし、月に一回のペースで築地のステーキハウスで食事会を開いていたそうだ。その食事会で梶原氏と大山氏は白熱した討論を繰り広げたそうだが、そのテーマは「虎とライオンが闘ったら、一体どちらが勝つか?」ということだったらしい。白昼、2人の熱い討論は尽きることがなかったそうだが、真樹先生が「そんなの、実際に闘ってみなきゃ分からないよ」と割って入って、その場を収拾したそうだ。「大山先生も兄貴もロマンティストだからな。その点、オレはリアリストだからさ」と格闘界の歴史に名前を残す2人のビッグネームとの思い出を真樹先生は懐かしそうに語ってくれた。格闘家はやっぱり猛獣がお好きらしい。真樹先生がムエタイ戦士と激突する『カラテ大戦争』(78)も格闘映画好きには堪えられない不朽の名作であることを付け加えておきたい。
またまた話は変わるが、日本の有名なアクション時代劇のリメイク作が作られた際に、主演俳優は傑作の誉れが高いオリジナル作に少しでも近づこうと乗馬のトレーニングに励んだそうだ。しかし、実際の撮影現場では「もしも主演俳優が落馬して事故にでもなったら」と本人が乗馬しての殺陣シーンは見送られ、スタントマンの演技に主演俳優の顔だけすげ替えたとのこと。スタントマンの使用を否定する気は全くないが、やはりCG加工ではスクリーン越しに伝わってくる現場の熱気、緊張感は変容してしまうのは否めないだろう。
『マッハ!弐』に話を戻そう。洞窟に潜むオオカミ女と闘ったり、ゾウの大群をひれ伏せさせたり、さらにゾウに股がるトニー・ジャーに突如カラス男が襲い掛かったり……とかなりの無茶ぶりが展開され、ラストの幕切れにも驚かざるを得ない。でも、それでいいのだ。誰も整合性を求めて、映画館に足を運ぶわけではない。現実社会ではすっかりいなくなった無茶苦茶なバカ者が大暴れする姿を観たいのだ。何者にも縛られない自由なエネルギーの大噴火を目撃したいのだ。常識なんか、ブタに食わせろ。命知らずのトニー・ジャーには、バナナを食わせろ。とにもかくにも『マッハ!弐』は熱いんジャー!
(文=長野辰次)
●『マッハ!弐』
監督・原案/トニー・ジャー、パンナー・リットグライ 出演/トニー・ジャー、ソーラポン・チャートリー、ダン・チューポン、ペットターイ・ウォンカムラオ 配給/クロックワークス 1月9日より新宿シネマスクエアとうきゅう他全国ロードショー公開中。
<http://www.klockworx.com/movies/movie_82.html>
タイといえば、トニーか象か。
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