トップクリエイターが語る「ニコニコ動画」と「商業」の未来(前編)
#アイドル #ネット #インタビュー #Perfume #ニコニコ動画
オープンから3年、国内有数の巨大サイトに成長した動画共有サイト「ニコニコ動画」。「歌ってみた」カテゴリやVOCALOID「初音ミク」周辺を中心にメジャーシーンからも注目を集め、作品を商業ベースに乗せた一般ユーザーも数多い。「ニコニコ動画」では、プロとアマチュアの垣根は取り払われ、優れたアマチュア・クリエイターには大きく門戸が開かれたように見える。
その一方で、第一線の現場で活躍しながら、「ニコニコ動画」に作品を発表し続けているプロのクリエイターも決して少なくないという。なぜ彼らは時間と手間をかけて無償で動画を作成するのか。また、プロの目には現在の「ニコニコ動画」はどのように見えているのか。
「アイマスMAD」(*註)などのハイクオリティな動画で知られ、第一線でデザイン関係の仕事をしながら「ニコニコ」内でも人気作品を発表し続けている、”わかむらP”に話を聞いた。
──まずは、わかむらPが映像制作を始めたきっかけを教えてください。
わかむらP 映画とかミュージックビデオとか、映像がもともと好きだったんです。学生のときは、映像の監督とかやってみたいと思っていたんですが、ああいう業界は下積みの時代が長く厳しいわけです。だけど、性格的に地味な下積みは向いてないし、この不況下にそんなつぶしの利かない仕事はどうなんだろうという疑問もありまして。あとは家族の生活を支えるためにっていう理由もあって。それで今の仕事に就いたんです。
──今はどういった仕事を?
わかむらP 簡単に言うと、デザイン関係ですね。ポスターを作ったり。映像も扱わないわけではないのですが。
──わかむらPの「アイマスMAD」は「ニコニコ動画」で大きな人気を集めていますが、その要因はどこにあるのでしょう。
わかむらP 2007年夏の参入当初は、ほかのMADとは違うものがあればいいと思って、当時はあまりなかった動画での「切り抜き」(背景からキャラクターを切り抜き、独自のセットで踊らせる技術のこと。短縮して「抜き」とも呼ばれる)を使って、1部分だけでもキャラクターの見せ場になるところを作りました。アイドルPVとしての基本ですよね。キャラをソロカットとして可愛く見せるところとか。「パーフェクトスター・パーフェクトスタイル」の映像で、バックライトで照らされてアクリルの床に寝っ転がっているイントロの映像は、ぼくの中ではBjorkのイメージなんですよ。口パクを作画したり、絵の足りない部分は描き足したりもしていて。
──そこまでしている人は、なかなかいない。
わかむらP 「アイマスMAD」をやっている人は当時もたくさん居たんですけど、そういう人たちが思いつかない発想というのは、他のジャンルをやっていたから出てきたのかもしれないですね。アニメMAD的発想だと思いますし。そういう手のこんだことをやったのも、当時は物珍しかったんだと思います。それ以降の動画でも、ミュージクビデオのお約束、アイドル映像のお約束をうまくアイマスという素材に落としこんでいきました。アイマスを知らない人にも、曲を知らない人にも分かりやすく。とにかくキャッチーに。パッと見、シロウト目で凄いものに見えるということを大事にしているんですよ。コアな人が「こんな手間かかってるんだよ」と思うものでは意味がなくて。そうやって何作も作っていくうちに、作者の名前がある種ブランド化していったんじゃないでしょうか。
──「WAKAMURA RECYCLE VOL.03」については、仕事でやるなら500万はかかる仕事だとか。
わかむらP そうですね。映像の構成があって、コンセプトデザインがあって、そこにWEB・CM・視聴者プレゼントがあって。集中的に連続シングルカットしてアルバムにあたる「WAKAMURA RECYCLE VOL.03」がリリースされる。要するに完全なプロ仕様です(笑)。
●「ニコニコ」商業化の問題点は
――ニコニコがきっかけで”わかむらP”として仕事を受けたりすることはあったんですか?
わかむらP 有名になって、mixiからぼくに飛び込みの仕事をお願いしてきたりとかは、ありました。企業もあるけど個人も多いんですね。同人みたいなものって、正直収入として考えたら却下レベル、なんでしょうけど、時間に余裕があればやってもいいかな、というレベルで受けてます……って、あんまりおごり高ぶってる感じで書かないでほしいんだけど……(笑)。
――いやまあ、プロが時間使ってやるわけですから。
わかむらP 「歌ってみた」やVOCALOIDの人も、みんなニコニコでは収入ゼロでやってるじゃないですか。そういうところに、たとえば「CDにしませんか」「DVDにしませんか」という話がいったとき、たぶん相場を知らない人たちがいっぱいいるんですよ。で、そういう人たちがたくさん出てきたときに、業界自体のダンピングが起きる可能性があるな、と思っていて、それがぼくは最近すごく気になるんです。ニコニコ世代のクリエイターが羽ばたいたとき、それまでゴハンを食べられてきた人たちが食べられないようになってはいけないと思うんですよね。先駆の同業者に迷惑をかけるのは良くない。それは「値引き」とか「デフレ」ってこととは意味が違いますから。
プロは、自分の価格をこれ以上絶対に落としちゃいけないラインを持っているものなんですね。それはもちろん時間がかかっているから、その時間に対しての請求をしなきゃいけないというのと、会社の場合は、その会社を維持するためにもお金が必要だから。個人で動画制作をするなら、ソフトやPC、住んでるところの家賃なども含めた全部で回ってるわけじゃないですか。で、そのときに例えば5分の動画を「1万円でいいですよ」と受ける人たちが出てきちゃったりすると、そこが成り立たなくなってくる。ニコニコで名前が売れるとそういう商業的な話もあったりするので、その時、そこだけはみなさんお気を付けになってください。
(後編につづく/取材・文=ノトフ)
註*アイマスMAD=人気ゲームソフト「アイドルマスター」の画像・動画と既存の楽曲を合成した動画のこと。
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