世間を震撼させた猟奇殺人事件のその後『判決から見る 猟奇殺人ファイル』
#本 #裁判 #裁判員制度
裁判員制度が施行されてから半年が過ぎ、世間では死刑の是非が活発に議論されている。「足利事件」のような冤罪事件もあるし、「死刑になりたいから(殺人を)やった」などと言って殺人を犯す者も少なくない。今、死刑の有効性が問われているのだ。ショッキングな殺人事件が起こると、各メディアはこぞって取り上げ、過熱した報道がなされるが、しばらくすると熱が冷めたように忘れ去られてしまう。控訴、上告と、裁判に時間がかかりすぎるためだ。また、刑が確定してからも、なかなか執行されない。逮捕された容疑者のその後、死刑が求刑された被告のその後など、知っている人はおそらく少ないだろう。
この本『判決から見る 猟奇殺人ファイル』(彩図社)は、ノンフィクションライターの丸山佑介氏が、世間を震撼させた殺人事件、いわゆる”猟奇的”な殺人事件のあらましをまとめた本だ。古くは終戦直後に起きた、100人超の赤子を殺した「寿産院もらい子殺し」に始まり、近年では「和歌山毒カレー事件」「佐世保小六同級生殺害事件」など、戦後に起きた多くの事件の中から23の事件を取り上げている。特に逮捕されてからの法廷での争いに重点を置いて書かかれていて、戦後の殺人事件史・裁判史ともいえる内容になっている。事件は多くの場合、一審の判決が確定してから熱を失うものだが、本当に面白いのはそこから先であり、裁判は被告人や弁護人、検察官や裁判官による手に汗握るせめぎ合いなのだ、と著者の丸山氏は語っている。
問題はその再犯率の高さにあるという。ここで取り上げられた事件のうち大部分が「前科者」によるもので、過去に刑務所に入ったことのある者が起こした事件なのだ。法務省の統計によると、受刑者の再犯率は50%。この数字は、刑務所での矯正が充分でないことを表している。死刑の是非は無視できない問題だが、問題の根っこは元犯罪者の矯正方法にあるのではないだろうか。
保険金殺人、少年の非行化、死刑願望の殺人鬼。重大事件には、その当時の社会状況が如実に反映されている。この本は世相を知るうえでも興味深く読める一冊だ。重大事件の「背景」「流れ」「その後」を見て、いつか自分の身に訪れるかもしれない裁判員裁判に備えよう。
(文=平野遼)
●丸山佑介(まるやま・ゆうすけ)
1977年生まれ。ノンフィクションライター。大学院まで考古学を専攻。日雇い派遣、測量会社、出版社勤務を経て現在に至る。取材・執筆分野は猟奇殺人、裏社会、都市伝説、古代遺跡の盗撮や遺物の贋作など多岐にわたる。
人の性は悪なり?
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