お笑い評論家・ラリー遠田の2009年「お笑いシーン総決算」!
#お笑い
2009年もそろそろ終わりを迎えようとしている。政権交代で政界も揺れている中で、お笑いの世界でもさまざまな動きがあった。今年のテレビお笑い界の主な出来事を振り返ってまとめておきたい。
●M-1、R-1からKOC、S-1まで、お笑い賞レースが大ブームに
M-1の成功に続けとばかりに、今年もさまざまなお笑い賞レースが開催された。2月に行われたピン芸人日本一を決める「R-1ぐらんぷり」では、中山功太が優勝。関西を拠点に活動している彼は、いまだに全国区でのブレイクは果たしていないが、バカリズム、エハラマサヒロ、鳥居みゆきといった強豪を抑えて、知られざる実力を見せつけた。
3月には、ソフトバンクモバイルが主催するお笑い映像コンテスト「S-1バトル」がスタート。携帯用の短い動画を作るだけで毎月賞金1000万円が贈呈されるというシステムには否定的な意見も多く、世間の注目度もあまり高くない。1年が終わった段階で行われるという「年間チャンピオン大会」が、具体的にどういう内容のイベントになるのかも気になるところだ。
9月には、コントの大会「オロナミンCキングオブコント」で東京03が優勝。12月に行われた漫才コンテスト「オートバックスM-1グランプリ」ではパンクブーブーが優勝。彼らはいずれも、業界内ではその実力を高く買われていながら、今ひとつ世間には認知されていなかった芸人である。そんな彼らが、激闘を制してようやく日の目を見ることになった。
●オードリーの歴史的ブレイク
今年を象徴する芸人といえば、社会現象と呼ばれるほどの劇的な大ブレイクを経験したオードリーだろう。2008年末のM-1で準優勝を成し遂げたのをきっかけに人気が爆発。春日の不気味な外見、自信満々なキャラ、節約家の一面などが脚光を浴び、一躍時の人となった。
その後は、相方の若林がトーク力を評価されて『すべらない話』(フジテレビ系)『アメトーーク』(テレビ朝日系)などでも活躍。いじられキャラの春日、人見知りキャラの若林という2人の個性が、バラエティの世界ではすっかり認知された感がある。それぞれが独自の色を持ち、マニアックなお笑いファンから若い女子中高生まで、幅広い層を引きつける魅力を備えている。『笑っていいとも!』(フジテレビ系)『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)のレギュラーも決まり、地盤を固めた彼らは、2010年もこのまま順調に走っていくことだろう。
●時代の流れに乗ったアラフォー女性芸人、ものまね芸人
レオタード姿で自虐ネタを明るく披露するいとうあさこ、カルト芸人集団・キュートンを率いる椿鬼奴といったアラフォー女性芸人が脚光を浴びたのも印象的だった。彼女たちに共通しているのは、育ちの良さと芸歴の長さがかもし出す妙な落ち着きだ。四十にして惑わず。不惑のアラフォー女性芸人は、突き抜けたキャラクターで新しい女性の生き方を提示しているのかもしれない。
また、マイケル・ジャクソンのものまねで知られるマイコーりょう、鳩山由紀夫首相のものまねで知られる鳩山来留夫も話題を集めた。特に、日本の歌謡曲をマイケル風にアレンジして歌い踊るマイコーりょうの持ちネタは絶品である。
●アンタッチャブル、ブラマヨの台頭
もともと売れっ子ではあるが、今年に入ってからますます勢いを増した印象があるのは、アンタッチャブルとブラックマヨネーズの2組。アンタッチャブルは、『アメトーーク』の「後輩の山崎に憧れてる芸人」という企画で、山崎のいい加減キャラの魅力が引き出されたのが転機になった。それと同時期に、相方の柴田も動物好きを売りにして活動の場を広げていった。
ブラックマヨネーズは、今年に入ってから吉田のひがみ芸と小杉のツッコミにもさらに磨きがかかり、どんな体勢からでも打ち返す臨機応変な対応力が光っていた。アンタッチャブルとブラマヨは、それぞれがM-1チャンピオンであり、漫才の実力は折り紙付き。彼らは、漫才で鍛えた掛け合いのテクニックをバラエティの世界に応用して快進撃を続けているのだ。
●2010年のお笑い界はどうなる?
いわゆる「お笑いブーム」が2010年以降も続くかどうかはわからない。ただ、テレビの制作費が削減され、ギャラの安い若手芸人が重宝されている現状を「お笑いブーム」と呼んでいいのなら、それは間違いなく今後も続くだろう。
この10年のうちに、お笑いは一過性のブームを超えて、私たちの日常にすっかり定着した感がある。次の10年で、テレビを含むメディア環境が激変したとしても、お笑い文化そのものはきっとしぶとく生き延びているのではないだろうか。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
ラリー遠田著。「読めばもっと、お笑いが好きになる」
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