「自分が弱いという気持ちだけは、誰よりも強かった」武田幸三 拳に宿り続けるもの
#映画 #格闘技 #インタビュー #K-1
──それでも、武田選手の試合は常に、前に出て相手を倒すという意思を強く感じました。折れない心というか……。
武田 試合に来てくださる方は、その日のために時間を調整して、高いチケットを買ってくださって、僕のために時間とお金を費やしてくださるので、僕がせめてできることといえば、命を張ることしかない。アマチュアじゃない以上、リングで命を張ってお客様に満足していただくのがファイターの仕事だから、と先生に教わったので。
──それは14年間、一度もブレることがなかった。
武田 一度だけ、タイのチャンピオンとやったときにね、あまりにレベルの差を感じて、心を折られたことがあります。そのとき、初めて試合を投げました。僕は倒しにいかなかった。もう、生きているだけでうれしいっていう感覚でした。でもそれで、本当の意味で命を賭けるということが再認識できたので、それからは一度もないですね。
──K-1というイベントの存在は、武田さんにとって財産になりましたか。
武田 選手としては、やっぱり大舞台に立たせていただいたり、民放テレビに出させていただくというのは、すごくうれしいことなんです。もちろん後楽園ホールも大好きですけど、僕がキックの世界に入った頃は、ホールの椅子でお客さんが寝転がって試合を見ているような状況だった。それが、僕が格闘技をやっている間にあんな大きな舞台に立つことができたというのは、すごく幸せなことですよね。
──最初は、ヘビー級の試合に出るつもりで増量していた、というお話も聞きました。
武田 シカティックが優勝した試合がヘビー級だったので、当時60kgしかなかった体重を3カ月くらいで90kgまで増やしたんです。でもやっぱり身長もこれくらい(173cm)しかなかったですし、1カ月くらい練習したら元に戻っちゃいましたね。
──K-1ヘビー級も、当時はシカティックやアーネスト・ホースト、ピーター・アーツなどがしのぎを削り、競技性の高いものでした。それが一時期、曙やボブ・サップが参戦して様変わりしたように感じたのですが、あの時期の流れをどのように見ていましたか。
武田 ちょっと視点が違っちゃってたんですよね。ヘビー級の場合は、モンスター的というか、デカければいいんだっていうふうになって、それで中量級のMAXと人気が逆転した。でも今は、また戻りましたよね。(今年の)12月のヘビー級の試合は、みんな本当にいいファイトをして、身体も仕上げてきていました。そういう点では、中量級との相乗効果でよくなっていると思います。やっぱり、本気。本気なんですよね。練習を死ぬほどやって出てくる人間の気持ち、ハートを全面に出してお互いがぶつかるからこそ、見ている方にも何かを伝えることができるんだと思います。
──その中量級でも、武田選手に続いて魔裟斗選手も引退を表明しています。時代がひと回りすることになりますが。
武田 魔裟斗くんの存在は大きいでしょうね。僕も彼と同じ時代に生まれて、格闘技をやってきたことはすごく幸せだと思っています。大晦日には応援に行くつもりですよ。今後は僕たちが格闘技界の裏方になって選手を育てて、少しでも日本を盛り上げていきたいと思っています。
もいけそう?
──今日は映画『マッハ!弐』のイベントということで、お笑い芸人のペナルティさんと共演なさっているところを拝見しました。やはり、すごく解放されているのかな、という印象を受けたのですが。
武田 そうですね、常にやっぱり、心のどっかに緊張感というか、死の恐怖がずっと背中にありましたから。それがなくなったので……でも、ちょっと淋しいですけどね。
──今後、テレビのバラエティーなどには興味はありますか。
武田 まぁ、呼んでいただければなんでもしますけれども、ファンの方が許してくれるかどうか……。本当は僕もね、リングを離れればただの36歳のおじさんなんですけれども、リングのイメージが強いのか、普通にしゃべるだけでけっこう驚かれますよね(笑)。
──はい、正直びっくりしました(笑)。
武田 すいません(笑)。
──でも、みんな「武田は怖い」と思っているでしょうから、テレビでニコニコしながらタレントを蹴っていたら、喜ぶファンも少なくないと思います。
武田 よろしくお願いします、本当に、なんでもやりますよ(笑)。
──では、最後になりますけれど、14年間武田さんを応援し続けてきたファンの方へメッセージをお願いします。
武田 うーん、なんだろうな。14年間も本当に、こんな自分みたいな格闘家を応援してくれて……僕の座右の銘が以前は「感謝」だったんですけど、今は「報恩」、恩に報いるという。これからはファンの方に何か恩返しができればいいな、と思っています。あとは、この間の試合は本当に死にそうだったので、今はすごくホッとしていますよ、と伝えたいですね(笑)。
(取材・文=編集部)
●たけだ・こうぞう
1972年、東京都生まれ。95年、新日本キックボクシング協会でデビュー。01年、ラジャダムナン・スタジアムウェルター級王座獲得。03年よりK-1 MAXに参戦。強烈なローキックと右ストレート、愚直に前に出続けるファイトスタイルで人気を博す。09年、現役引退。
●『マッハ!弐』
監督・原案:トニー・ジャー、パンナー・リットグライ/出演:トニー・ジャー、ソーラポン・チャートリー、ダン・チューポン、ペットターイ・ウォンカムラオ
2008年/タイ/98分/シネマスコープ/ドルビーデジタル/原題:「ONG-BAK2」/字幕翻訳:風間綾平/配給:クロックワークス
1月9日(土)より、シネマスクエアとうきゅう他にて全国ロードショー!
(c)2008 SAHAMONGKOLFILM INTERNATIONAL CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
http://www.klockworx.com/movies/movie_82.html
武田幸三、強さへの誓い。
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