豊田監督、事件から4年ぶりの復帰は過激なスピリチュアル作『蘇りの血』
#映画 #インタビュー #邦画
──『蘇りの血』について、より具体的に聞いていきたいと思います。本作はTWIN TAILの音楽が全編に流れるPV的な作品ではありますが、でも純然たるPVではない。かといって小栗判官の講談に基づいた時代劇というわけでもない。そういったジャンルの縛りから解き放たれた自由な作品ですね。
「ATG映画が製作されていた1960~80年代には、よくあった作品ですよ。今回はローバジェッドだから、ここまでやりたい放題ができたんです。今の世の中はマーケティング・リサーチの上で成り立った映画が多く、そういう風潮はつまらないですよ。『この原作本を使って、このキャストを使って、どこそこの事務所の俳優も使いましょう』みたいな話が、お金が掛かった企画になると出てきますよね。そういうものから解放されて作ってみたかった。それって、今しかできないことだな、逆に今がチャンスだなと思ったんです」
──超絶ドラマーである中村達也が、按摩役で目にも止まらぬ超絶肩たたきを披露するシーンは思わず爆笑しました。
「達也さん、めちゃめちゃマッサージがうまいですよね(笑)。役づくりのために達也さんをマッサージの先生のところに連れていったら、マッサージの先生が達也さんのマッサージを見て、『おぉっ!』と声を出して驚いていました(笑)。達也さんの指圧の腕前は、プロから見てもかなりなもののようです。ついでに達也さん、マッサージの先生に体を診てもらったところ、マッサージの先生は再び『おぉっ!』と唸っていました。達也さんの筋肉は非常に柔らかく、オリンピックの選手級の体らしいですよ。クライマックスの首対決のシーンは水中撮影だったんですが、そのときの潜水のインストラクターも『常人には、あんな素潜りはできない』と達也さんの潜水にビックリしていました。達也さんは超人ですよ」
──身体性にこだわってきた豊田監督としては、まさにピッタリの主演俳優を見つけたわけですね。
「ですね。貴重な人材を見出しました(笑)」
──さきほど言われた首対決のシーンですが、魯迅の短編小説『鋳剣』がヒントになっているそうですね。鈴木清順監督、脚本家の大和屋竺らが「この映画が完成すれば、世の中がひっくり返る」と脚本まで準備していたものの、幻に終わった企画だと聞いています。
「えぇ、『なら、オレがやってやる』とずっとチャンスを狙っていたんです。それで、今回の『蘇りの血』の世界観にちょうど合うんじゃないかと思ったんです」
──胴体から切り離されたオグリ(中村達也)と大王(渋川清彦)の生首と生首が釜の中で対決するという極めてシュールな映像。4年ぶりの復帰作にも関わらず、これまで以上に過激な作品じゃないですか。
「そのほうがいいでしょ? ひるんだ格好で作品を作るより、攻撃的に行ったほうがいいじゃないですか。今までで一番過激な映画を作ってやろうと思ってましたね。事件があったために、これまでの作品のことをあれこれ言う声もありましたけど、『そんなのは全然関係ないよ』と作品を通して言いたかったんです」
──映画そのものが、この世でいちばん過激で刺激的なんだよと?
「そうですよ。映画の中なら、すべてが許されるわけです。やりたい放題ですよ。芸術やアートって、本来はそういうものだと思うんです。今回みたいなローバジェットの作品には企業がいろいろ絡んでいるわけじゃないので、それならば自由に作るべきじゃないかと。もちろん、今後はそうじゃない予算の掛かる作品も作っていくつもりですが、こういうチャンスのときは思い切って、振り切っていこうということですね」
──そんな豊田監督のもと、下北ロケに板尾創路、新井浩文、鈴木卓爾、マメ山田……と豊田組が勢ぞろい。
「みんな、気になって様子を見に来たんじゃないですか?『豊田のヤツ、また悪いことやってないか』みたいに保護者的な感覚で参加してくれたんだと思います(苦笑)。うん、ありがたかったですよ。でも、10日間の撮影のうち、3日間は完全に徹夜で撮影というハードスケジュール。感慨に耽っている余裕はまったくなかったですね。『次のシーン、早く撮ろう!』と(笑)」
──あの世の門番(板尾創路)に対して、オグリが言う「この世にやり残したことがある」という台詞が印象的。豊田監督自身の台詞では?
父に持つ新進女優・草刈麻有。豊田監督いわく
「オーディション段階では決して良くなかった
が、今どきの女の子にはないものを持っている。
タトゥーをしたキャストの多い中で、堂々とし
ていた頼もしい16歳ですよ」
「ははは、あれは映画での台詞ですよ。まぁ、ボク自身もやり残していることは山ほどありますけど」
──『青い春』(02)や『空中庭園』(05)のような完成度の高い作品を残していても?
「いやいや、まだ自分は子どもですよ。いや、もう大人なんですけどね(苦笑)。自分の作品を見直すことは、ほとんどないです。新作の製作に入る前に、同じ過ちを繰り返さないという意味で見直すことはありますけど。自分の作品を観ると、反省ばっかり浮かんできます。井筒和幸監督みたいに自分作品を観て喜べる人が羨ましいですよ(笑)」
──来年予定されている新作は、本作よりもう少し予算のある作品になるんですか?
「そうですね。今はローバジェットで単館系の作品を作っても、なかなかお客さんが入らない状況。ちゃんとしたものを作っていきたいですね。低予算の作品、予算のある作品、ボクはどちらもやっていくつもりですが、いずれにしろ、宮崎駿監督やピクサー作品に負けないような間口の広い、多くのお客さんを喜ばせるような作品を作っていきたいですね」
──間口を広げても、豊田監督のやっていくスタイルは変わりませんよね。
「やることは変わらないですね。いや、変わるんですけどね(笑)」
──監督デビュー作『ポルノスター』(98)以降、豊田作品は過激な”暴力”で彩られてきましたが、復帰作『蘇りの血』には”魂の救済”も盛り込まれています。
「今の時代はね、観た人が落ち込むような作品を作っても、あまり意味がないと思うんです。みんな、落ち込むところまで落ち込んだわけでしょ? 時代時代に則して映画を作っているわけで、今の時代はそういう映画を作る必要はないと思う。みんながもっと上がっていけるような作品を作っていきたいですね。どうやって、一人ひとりが、社会全体が蘇っていくか。それが今の時代のテーマじゃないですか」
4年間にわたる禊(みそぎ)期間を終えた豊田監督は終始、穏やかな表情で復帰作、そしてこれからについて語ってくれた。TVドラマの延長のようなシネコン向け映画に食傷気味の映画ファンにとっては、豊田監督の活動再開はうれしい限り。豊田監督が4年間かけて精製した”蘇りの血”をまずはみんなで飲み干そうではないか。
(文=長野辰次)
●『蘇りの血』
天才按摩師・オグリは、大王に忠誠を誓わなかったため毒殺される。あの世から生還するも、餓鬼阿弥と化していたオグリを”蘇生の湯”へと導いたのは大王に愛人として囲われていたテルテ姫だった。テルテ姫の無償の愛を得て、オグリは復活を遂げる。
脚本・監督/豊田利晃 音楽/TWIN TAIL 出演/中村達也、草刈麻有、渋川清彦、新井浩文、板尾創路 配給/ファントムフィルム 渋谷ユーロスペースにて12月19日(土)より渋谷ユーロスペースほかロードショー公開。東京フィルメックスでも特別招待作品として11月25日(水)に上映あり。PG-12
<http://yomigaeri-movie.com/>
●とよだ・としあき
1969年大阪府出身。9歳から17歳まで新進棋士奨励会に所属。阪本順治監督の『王手』(91)で脚本家デビュー。千原ジュニア主演作『ポルノスター』(98)で監督デビュー。4人の格闘家を追ったドキュメンタリー『アンチェイン』(01)を経て、松本大洋原作の『青い春』(02)がヒット。以後、『ナインソウルズ』(03)、『空中庭園』(05)を発表。
豊田監督の原点
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