豊田監督、事件から4年ぶりの復帰は過激なスピリチュアル作『蘇りの血』
#映画 #インタビュー #邦画
人間の”生”をワイルドに描く作風と棋士界出身らしい切れ味鋭い演出で”日本映画界を将来牽引する才能”と嘱望されていた豊田利晃監督。傑作の呼び声が高かった『空中庭園』(05)の公開を直前に控えた2005年8月、豊田監督自身が招いた”事件”によって姿を消すことになった。それから約4年。元ブランキージェットシティのドラマーである中村達也を主演に迎えた『蘇りの血』(12月19日公開)を携えて、映画界へのカムバックを果たす。作風は以前よりもさらに過激さアップ。歌舞伎の演目として知られる小栗判官の伝説をモチーフにした本作は、あの世に旅立った男・小栗(中村達也)が苦行の末にこの世に帰還するという、何とも深読みしたくなる内容だ。沈黙の4年間を豊田監督はどのように過ごしていたのか、また新作に込めた想い、今後のことまで率直に語ってくれた。”蘇った”豊田監督からの40分間にわたるメッセージを、極力ノーカットに近い形でお届けしよう。
──映画界への復帰、おめでとうございます。「おめでとう」と言っていいですよね?
「はい、複雑な気持ちではありますが……(苦笑)」
──9月に渋谷ユーロスペースで行なわれた新作『蘇りの血』の完成披露で4年ぶりに公の場に姿を見せたわけですが、緊張した面持ちではなく、帰ってくるべき場所に帰ってきたという落ち着いた印象を感じました。『蘇りの血』は”第2のデビュー作”と形容したくなるほど、瑞々しさ、躍動感に溢れていますね。
「あの日は風邪を引いてフラフラで、緊張するどころじゃなかったんです(苦笑)。映画監督にとってデビュー作は、やはり1本だけですよ。でも、止まっていた時間がようやく動き出したなとは思います。バジェット的には、デビュー作の頃に戻りましたね。カメラはスーパー16を使ってましたから(笑)」
──前作『空中庭園』は非常に完成度の高い作品。36歳でこんな凄い作品を撮って今後はどうなるんだろうと、繊細なガラス細工に触れるような怖さを感じていました。いろいろありましたが、『蘇りの血』で大きな壁をクリアしたんじゃないですか?
「……はい、いろいろありました」
──4年間の沈黙は長かった?
「いえ、そんなでもなかったですね。事件の後は岡山に行ってたんです。田舎暮らしをしていました。泊まっていた家の前が”ツチノコ発見現場”だったりするようなところです(笑)。山に行くと”血洗いの滝”と呼ばれる滝があって、そこはスサノオがヤマタノオロチを退治した剣を洗ったと言い伝えられているところなんです。映画界を追放された自分としては高天原を追い出されたスサノオにシンパシーを感じたわけです(苦笑)。自然の中で暮らしていると、あっという間でしたね。しばらくするとTWIN TAIL(※ドラマー中村達也らと組んだ演奏と映像とのセッションユニット)の活動が始まりましたし、『空中庭園』の海外公開があったので、謹慎期間中の半分近くは海外で過ごしていたんです」
──あれ、意外と自由に海外に行けちゃうものなんですね。
「意外と行けました(笑)。多分、周りの人たちがずいぶん気を配ってくれたんだと思います。アテネの映画祭では監督作品の全作上映などもあり、舞台挨拶やら何やらで、あっという間に時間が経ちましたね。2年目からは東京に戻って、大作の準備に取り掛かり始め、それからはもう元のペースに戻ってました。結局、その大作は実現しなかったんですけど」
──大作が実現しかったのは、予算の問題ですか?
「そうですね」
姫の純愛の伝説。元ブランキージェットシティのド
ラマー中村達也がライブ活動で鍛え抜かれた肉体を
駆使して、オグリの生き様を熱演。全編に流れる中村
の超絶ドラミングも観客の心を痺れさせる。
──『蘇りの血』が復帰作となったのも、必然的な流れだったのかもしれませんね。
「えぇ。それで、その”血洗いの滝”が心地よい場所だったんです。本当はヤバい場所だったみたいなんですけど。何か気配がするような場所です。知り合いの和尚も、『ここにはもう近づかないほうがいい』と言ってました。でも、けっこう、そこで過ごしていた時間は長かったですね。エコロジー的な自然とは違う、自然の持つ神々しいパワーみたいなものを感じていたんです」
──豊田監督はこれまでの作品で”身体性”にこだわってきましたが、スピリチュアル的な傾向は感じませんでしたが……。
「はい、スピリチュアル系に走ることはなかったです。それが”血洗いの池”では自分の身体にダイレクトに感じられたんです。自分を取り囲んでいる自然のパワーみたいなものが、肌に直接的に感じられるんですよ。中上健次の小説が好きなこともあって、岡山で過ごした後、和歌山に行ったんです。熊野古道を歩いていたんですが、そこに世界最古の温泉・壺湯があって入ってみたら、体の芯まで温かくなるような湯でした。ふと壁を見ると”小栗判官がこの湯につかって不治の病を治した”と書いてあったんです。体の芯に来るような温泉と、小栗判官を巡る死生観の物語が面白いなぁと感じたんです。そこで大自然の神々しい力と、ドラマーである中村達也さんの強靭な肉体を使って攻め込むような作品が出来ないかと。そういったチャレンジが、今回の映画になったんです」
──これまでは閉塞的な社会から脱出しようともがく男たちのドラマでしたが、そこから一歩先に進んだような印象を受けます。
「確かに、閉塞的な社会の中でどうやって生きて行くのかをずっと描いてきました。その突破口のヒントになるのが身体性であり、さらにエコロジー的な優しい自然ではない、神々しい自然の力じゃないかと考えたんです。一度その世界へと入ってみようと。それで、青森県下北半島ロケを敢行したたわけです」
──『蘇りの血』には豊田監督の4年間の精神的な葛藤が描かれているようにも感じます。観客はどうしても、あの世から蘇ってきた小栗判官と映画界に復帰した豊田監督の姿を重ねて観てしまうと思います。
「そうですか? う~ん、でも、この映画はボク自身だけのことを言っているわけじゃなくて、社会全体に対して言っているつもりなんです。”蘇り”や”蘇生”という言葉は、これからもっとフューチャーされていくものだと思いますよ。社会が疲弊しきっているし、不良少年たちからも爽快感が消えてしまっている状態。後はもう、みんな蘇るしかないでしょう」
(後編へつづく/取材・文=長野辰次)
●『蘇りの血』
天才按摩師・オグリは、大王に忠誠を誓わなかったため毒殺される。あの世から生還するも、餓鬼阿弥と化していたオグリを”蘇生の湯”へと導いたのは大王に愛人として囲われていたテルテ姫だった。テルテ姫の無償の愛を得て、オグリは復活を遂げる。
脚本・監督/豊田利晃 音楽/TWIN TAIL 出演/中村達也、草刈麻有、渋川清彦、新井浩文、板尾創路 配給/ファントムフィルム 渋谷ユーロスペースにて12月19日(土)より渋谷ユーロスペースほかロードショー公開。東京フィルメックスでも特別招待作品として11月25日(水)に上映あり。PG-12
<http://yomigaeri-movie.com/>
●とよだ・としあき
1969年大阪府出身。9歳から17歳まで新進棋士奨励会に所属。阪本順治監督の『王手』(91)で脚本家デビュー。千原ジュニア主演作『ポルノスター』(98)で監督デビュー。4人の格闘家を追ったドキュメンタリー『アンチェイン』(01)を経て、松本大洋原作の『青い春』(02)がヒット。以後、『ナインソウルズ』(03)、『空中庭園』(05)を発表。
研ぎ澄まされた演出が光る傑作。
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