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誇張の夢? オトナがイヒヒと笑う閨房の滑稽『春画の楽しみ方完全ガイド』

syunga.jpg『春画の楽しみ方完全ガイド』
(著:白倉敬彦/池田書店刊)

 春画を見たことがあるだろうか? デフォルメされた男のイチモツが天井まで届かんばかりに隆々とそそり立ち、枕、炬燵(こたつ)、火鉢、食器も打ち遣る、アクロバティックな体位でねっとり絡み合う男と女。ポルノグラフィー、ムービーに慣れた我々からすると、「その体位、疲れませんか?」「そんなおっきいの、入らないでしょ?」と尋ねたくなる。

 葛飾北斎、喜多川歌麿、菱川師宣といった江戸時代最高峰の浮世絵師も、多くの春画を描いた。外国では、日本人の男性器を指して「ウタマロ」と呼ぶこともあるほどにメジャーなジャンルだ。19世紀の終わりごろ、ヨーロッパでジャポニスム・ムーブメントがあり、印象派やアール・ヌーボーの画家たちに大きな影響を与えた。江戸時代では、現代と違って「エロ」は別段下等な仕事と見なされていなかった。花魁はアイドルであったし、芸能と芸術の差異もなかった。春画は、少年・青年がマスをかくために眼を血走らせて見るものではなく、金銭も経験も充実した大人が密かに、じっくりと楽しむもの。また、花も恥らううら若き乙女が嫁入りの際、婆やが夫婦の営みを教えるために見せるものであった。

 この『春画の楽しみ方完全ガイド』は、国際浮世絵学会常任理事で、多数の浮世絵・春画を編著してきた白倉敬彦氏が、名作春画の見どころを解説した本だ。厳選50点の春画が見開きでバーンと掲載され、構図や色使いの面白さ、シチュエーションの面白さ、絵に添えられた戯作文のストーリー、絵師の個性と、春画の魅力をあますところなく教えてくれる、まさに「完全ガイド」と銘打つだけの内容となっている。

 喜多川歌麿の傑作、夢と現実の境を見るような「歌満くら」(うたまくら)や、海女と大ダコがまぐわう葛飾北斎「海女と蛸」、小人となった男があちこちの閨事(ねやごと)を覗いてまわる日本版エロ・ガリバー、鈴木春信「風流艶色真似ゑもん」(ふうりゅうえんしょくまねえもん)など、絵師たちは着想の奇抜さを競い合い、ふんだんにストーリー性を盛り込んだ。着物を着たままの交合が多いのも、物語性を演出するためであるという。

 描き込まれた背景の小道具、白い肌に鮮やかに映える着物と陰部、「あら、まぁ」という按配でのぞく第三者。春画の面白さは、その艶笑性にあるといえるだろう。どの交合も底抜けに明るいのだ。「アメノウズメがほとも露わに踊る」といった言葉に見るような性の明るさは、近代以前の日本に共通した価値観であり、明治以後の日本人が忘れてしまった価値観でもある。この『春画の楽しみ方完全ガイド』は、そんな明るいセックスの見方を教えてくれる。イヒヒと下卑た笑いを浮かべて、巨匠の名作春画を眺めよう。
(文=平野遼)

白倉敬彦(しらくら・よしひこ)
1940年、北海道生まれ。早稲田大学文学部中退。フリーの編集者として長年、現代美術のプロデュースをはじめ、広く美術の企画・編集に従事する。現在、国際浮世絵学会常任理事。『口説きの四十八手』(平凡社)、『江戸の春画』『春画と肉筆浮世絵』(洋泉社)、『江戸の旬 旨い物尽くし』(学習研究社)他、浮世絵・春画に関する編著書多数。

春画の楽しみ方完全ガイド

エロこそ最高の芸術なり

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最終更新:2009/12/10 18:00
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