「モーニング・ツー」で突如連載を打ち切られた漫画家・中村珍が”排泄”する怨念の短編集『ちんまん』
#マンガ
殺人犯で同性愛者の女の逃避行を描いた異色の漫画『羣青』(ぐんじょう)が、講談社「モーニング・ツー」の連載を突然打ち切られたのは今年6月。直接の原因は連載中における担当者との一連のトラブルを、中村が自身のブログで公開したことに対する講談社側の制裁措置というのが一般的な見方だ。一連の事情を知るある漫画編集者は「あくまで個人的感想」としたうえで、今回の騒動を「編集担当の未熟さが主な原因」と、中村にやや同情的だ。
「漫画原稿は貼り付けたトーンが剥がれたり、原稿自体が破れたりする恐れがあるから取り扱いが非常にデリケート。新人が編集現場に入ると最初に教わることです。この担当者は原稿を連続コピーで平気で機械の中に通したりしている。ウチの社では考えられない」と訝しがる。別の関係者も次のように語る。
「作家(=漫画家)との意思疎通ができずにトラブルを上司へも報告しないのでは、一般企業なら失格の烙印を押される。作家の窓口は担当者だけだから、立場が弱い若い作家は辛い。中村珍は同業者の間でも何度か話題に上がる注目の作家だが、多分に実験的な編集方針が見てとれる『モーニング・ツー』ならもっとバックアップすべきだったというのが実感。コミュニケーションの齟齬(そご)が原因で、作品が半端に終わるのなら残念。業界にとっても損失だ」
連載打ち切りまでの複雑な経過は、中村のブログ<http://ching.tv/>に詳しいため、どちらが正しいかの議論はここでは避けるが、ビジネスモデルとして崩壊しつつある漫画業界の一端が垣間見えたことは間違いなさそうだ。「東洋経済」(東洋経済新報社)11月14日号では、「低迷する漫画業界の大問題。製作現場のワーキングプア」のタイトルで、中村珍の「モーニング・ツー」における全連載分の収支を掲載。その見事な破たんぶりを赤裸々に公開している。ちなみにそれによれば、全15回590ページ分の収支は、総収入618万2,600円に対して支出額が776万2,334円。赤字額は157万9,734円とはじき出している。
知らせるブログでのメッセージ。
そんな中村珍がこのほど、デビュー前からの漫画賞受賞作などレア作品を集めた短編集『ちんまん』(日本文芸社)を出版した。
「エロ系ギャグから感涙必至の戦時中の恋物語まで、ジャンルを飛び越えた想定外のコミック。真摯に生きる男と女の魂の慟哭が染みる作品ばかりです。読むにはちょっとパワーがいると思いますよ」(日本文芸社)
女彫師のホリゼン先生とフリーター・ノボルの師弟関係を描いた「刺青龍門」や、暴走族のリーダーからニューハーフへ転身した男(?)の悲しい恋物語など、個性的というにはぶっ飛びすぎた中村の世界観が、暑苦しいほどの濃密さで描かれている。先の編集者が言う。
「喜怒哀楽と煩悩を四方八方に飛び散らかしながら、超個性的な登場人物が織り成す作品群は、一つひとつが中村の血であり、汗であり、体液であり、糞尿であると言ってさしつかえない」
短編集『ちんまん』は、激情の漫画家、中村珍の排泄物の具現化だったようである。
(文=浮島さとし)
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